琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義 ☆☆☆☆


あけましておめでとうございます。
本年もよろしくおねがいいたします。



Kindle版もあります。

内容紹介
2025年までに世界700兆円に達すると言われる超巨大市場「フードテック」--。
あなたの食体験はどう変わり、どんなビジネスチャンスが生まれているのか?

本物の肉のような「植物性代替肉」「培養肉」、
食領域のGAFAとも言われる「キッチンOS」、
店舗を持たないレストラン「ゴーストキッチン」、
Amazon Goに代表される「次世代コンビニ」・・・・・・。

With&アフターコロナ時代の「食」在り方を探索し、
世界最先端のフードビジネスを徹底解説する日本初のビジネス書が、ついに刊行!

食品メーカーから外食、小売り、家電、IT、不動産まで、
あらゆる業界を巻き込み、「食×テクノロジー」を起点とした新ビジネスが勃興する。
この世界で、日本のプレーヤーが、再び輝きを取り戻すための秘策とは--。
グローバルの変化を深く理解しながら、日本の現状とよりよい食の近未来を考える、
「次のアクション」につながるビジネスのヒントが満載!


 とりあえず、安くて美味しいものをお腹いっぱい食べることができれば幸せ!まあ、身体のためには、野菜とかもなるべく採るようにしなくちゃな……
 「食」に対する僕の意識なんて、そんなものなのです。


fujipon.hatenadiary.com


 『FACTFULLNESS』という本を読むと、世界から「餓死の危機に陥っている人々」は時代とともにどんどん減ってきているようなのですが、この『フードテック革命』を読んでいると、いまの時代の「食」の最先端は、こんなに「意識が高く」なっているのか……と驚かされます。

 日本ではあまり実感が湧かないかもしれないが、世界でフードテックがどれほど盛り上がっているのか、まず確認しよう。米PitchBook(ピッチブック)の調査によれば、2014年からフードテック領域でのベンチャーキャピタルによる投資が一気に増えていることが分かる。19年の総投資額は150億ドル(約1兆6050億円)に達し、14年のおよそ5倍に迫る勢いだ。
 投資が活発な領域としては、植物性代替肉にような新食材から食料品デリバリーサービスやロボットレストラン、食のパーソナライゼーションにいたるまで様々。米アマゾン・ドット・コムによるホールフーズ・マーケットの買収は大型案件として話題にはなったが、それ以外にも、代替プロテインとして植物性代替肉や培養肉といった新食材領域も活発だ。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も培養肉スタートアップなど、「未来のプロテイン」に対して積極投資をしている。一方、欧州家電メーカーのエレクトロラックスが、低温調理器スタートアップの米Anova(アノーバ)を買収したり、米グーグルがハンバーガーロボットのCreator(クリエーター)に出資したりと、大手企業によるスタートアップ投資も活発になっている。米国では、フードテック分野を扱うベンチャーキャピタルが200を超えると言われ、最も投資が盛んな植物由来の代替プロテイン分野を専門とするところもあるほどだ。
 フードテック領域への投資は、デバイスや食品、デジタル技術やサイエンスなど、あらゆる専門性とビジネスの特性が入り交じるために、非常に難しい。特許だけで何とかなる世界でもなければ、ネットビジネスのように簡単にスケールできるものでもない。19年の米SKSで投資家4人のパネルディスカッションが行われたが、その中でフードテック専門のベンチャーキャピタリスト、Brian Frank(ブライアン・フランク)氏が、「難しいからこそ投資をするし、やりがいもある」と述べていたのが印象的だった。


 「食」に関する技術、フードテックは、いまや、世界のビジネスのなかで、もっとも注目されているジャンルであることが、この本を読んでいると、伝わってくるのです。
 どんなにテクノロジーが進化しても、いまのところ人間は、食べないと生きていけません。
 そして、「お腹がいっぱいになること」は、もはや「前提条件」でしかなくなっていて、「代替肉」や「その人の健康のためにカスタマイズされた料理」など、環境や健康のための「より機能的な食事」が追求され、大きなビジネスになってきているのです。
 いわゆる「マックジョブ(マニュアル通りに動くだけの低収入の仕事)」で、公的扶助を受けている人たちが、「ビーフ100%」のファストフードを食べている一方で、富裕層は、高いお金を出して、代替肉をオーダーし、ヘルシーな料理を選んでいるという世界の現実についても考えずにはいられなくなるのです。
 そして、日本という国は、これだけ「食」へのこだわりがある国であるのに(あるいは、こだわりがあるから)、「フードテック」というジャンルに関しては、いまのところかなり世界の最先端からは遅れていて、「伝統的な食習慣や食文化にとらわれている」とも言えそうです。

 実際、食の新しい価値を実現しようとするフードテックスタートアップが出てきている。ここでは、その例をいくつか挙げていく。 
 米Hestan Smart Cooking(ヘスタン・スマート・クッキング)の「Hestan Cue(ヘスタンキュー)は、フライパンや鍋自体と、IHバーナー双方に温度センサーが搭載されており、常にフライパンや鍋が何度に熱せられているかを正確に把握できるIoT(モノのインターネット Internet of Things:I様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み)調理器具だ。セットで、約400ドル(約4万3100円)で販売されている。
 Bluetoothタブレットのレシピアプリと連動しており、温度センサーの状況を検知しながら加熱時間が自動で調整される。アプリ内にはミシュラン星付きレストランのシェフがヘスタンキュー用に作成したレシピが収録されており、食材の下ごしらえからフライパンでの加熱のプロセス、盛り付け方法に至るまで、プロのシェフの調理プロセスが動画で見られるとともに、フライパンはそのレシピのアルゴリズムに沿って温度の上げ下げを自動制御する仕組みだ。
 ユーザーは料理が焦げ付いたり生焼けになったりする失敗から解放される。筆者も体験してみたが「焦げ付く恐れ」が完全に取り除かれたとき、急に心に余裕が生まれることを実感した。その一方で、自動調理とは違い、自ら食材を準備し、鍋に入れ、かき混ぜたりひっくり返したり──、大部分の調理作業は自分の手で行うので、料理をした充実感はある。料理の失敗に一番結び付きやすい火加減は自動調節なので、かなり高い確率で失敗しない。細かく鍋の温度が変わっていくのをアプリで見ていると、料理とはこれほど科学的で精緻なものなのかと改めて気づく。
 ヘスタン・スマート・クッキングのスタッフいわく、子供でも安全に調理できるので、ヘスタンキューを活用して親子で料理を学ぶケースが非常に多いそうだ。同社の科学ディレクターであるJohn Jenkins(ジョン・ジェンキンス)氏は、「1つのメニューを3回程度つくれば、4回目からは通常のフライパンでも上手に料理ができるようになる」と話す。便利なだけでなく、調理スキルの向上にもつながるのがこの製品のポイントであり、Food for Well-beingのあるべき姿をうまく体現している。


 おお、これなら僕にも上手く料理ができるんじゃないかな、と思いながら読んでいたのです。フードテックというのは、食材や調理法を科学的に分析・解析していくことでもあり、天才シェフと同じ料理を素人が再現することも(おそらく、近い将来には)可能になるでしょう。
 このヘスタンキューの場合、あえて「人間が調理の手で行う作業」を残してもいるんですよね。
 もっと「自動調理」に近いものにすることは技術的には十分可能だと思うのです。
 極論すれば、お金さえあれば、有名シェフの料理をデリバリーしてもらえばいい、ってことになりますよね、とくにいまの新型コロナ禍の世の中では。
 それでも、「人間が料理をしている気分になれる」ようにしているのは、ある意味、すごく贅沢なことなのです。
 世界中の意識の高い人たちにとっては、食べること、料理をすることは、単なる生命維持活動ではなくて、娯楽や「他者とのつながりを生むもの」「自分らしさの表現」になりつつある。
 時間がないから、簡単に、短時間に料理できるようにする、という段階から、「(外食する経済的な余裕があっても)あえて自分で台所に立って、料理をする。しかも、テクノロジーを駆使して、最低限の労力で美味しくてカッコいいものを作る」というレベルに世界の富裕層は「進化」しているのです。

 インポッシブルフーズは、肉と同じ喫食体験を追求し、レストランクオリティーハンバーガーを提供している。このスタートアップの根幹にあるのは、「サイエンスの追求」である。創業者のPatrick Brown(パトリック・ブラウン)氏は生化学者。スタンフォード大学の医学部教授でもある。彼のミッションは、家畜の要らない世界をつくること。インポッシブルフーズは、肉の要素を栄養、フレーバー、見た目と調理体験、食べ心地と大きく4つに分け、これらを肉と全く同じ、あるいはそれ以上のことができないかを摸索している。
 同社の取り組みで興味深いのが、脳科学を用いて「人間は何を見て肉と思うのか?」を解明しようとしていることだ。例えば、最初は赤くて加熱とともに茶色になるプロセスを見せる視覚効果や、様々なフレーバーが混じり合った嗅覚情報によって、人間は今見えているものが「肉」であると認知する。この視覚効果や人間が感じるフレーバーを実現させるために重要なのが、「ヘム」という化合物で、これがインポッシブルフーズの植物性代替肉を「肉」たらしめているコア中のコア技術だ。これを大量生産するために遺伝子改変された酵母を使用しており、遺伝子組み換え食品規制をしている国での販売展開が難しいという課題はありながらも、実に肉らしいハンバーガーを作ることに成功している。
 同社の戦略で巧みなのは、当初の販売チャネルを高級レストランにしていたことだ。これには2つの利点がある。1つはレストランで食べられる際には、顧客は細かい成分表を見ることがない。メニューで解説されているのは植物性であることだけだ。そのため、厳密にクリーンラベルでなくても顧客はあまり気にすることがない。一度食べてもらえれば、人々はその味に感動するので、クチコミが広まりやすいのだ。
 もう1つは、レストランクオリティーとしての高級感だ。米国シアトルのファストフード店では、通常のハンバーガーが8ドル(約870円)であるところ、インポッシブルバーガーに変更するだけで5ドル(約540円)の追加料金を取っていた。有名シェフを用いたプロモーションも効果的である。


 いまの「フードテック」というのは、人間の感覚や認知能力の解析でもあるのです。
 「人間は何を見て肉と思うのか?」
 そんなの、疑問に感じたこと、なかったなあ。
 正直、僕の感覚としては、アレルギーや宗教上の理由でなければ、肉のようなものを食べたければ、普通の肉を食べればいいのに、なんですよ。
 でも、いまの世界には、あえて、割増料金を払って「代替肉」を選ぶ人がいて、その数は、どんどん増えてきています。そして、世界が豊かになって、肉を食べる人が増えていけば、たしかに、「肉という生産のコストが高い食糧」は、不足していくのかもしれません。他の生き物の命を奪うことに抵抗がある人は少なくないでしょうし。

 「食文化の最先端」は、こんなことになっているのか……と、日々「いつもの食事」を繰り返している僕にとっては、驚きの連続の内容でした。
 ここでは本当にそのごく一部にしか触れられなかったのですが、これからの「食」そして、「次に流行るビジネス」に興味がある人は、読んでおいて損はない本だと思います。


アクセスカウンター