琥珀色の戯言

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【読書感想】ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験 ☆☆☆☆

ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験 (角川新書)

ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験 (角川新書)


Kindle版もあります。

ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験 (角川新書)

ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験 (角川新書)

内容紹介
賢者は歴史に学ぶ――全クリエイターに捧ぐヒット企画の開発秘話第2弾

ゲームを作る人々の証言や活動の記録を残していきたい。それもできるだけ、躍動感あるクリエイターたちの奮戦の物語として、多くの読者に読まれるものとして──。 「ゲームの企画書」は、そんな想いから始まった連載シリーズ。第2弾では、コンピュータ文化黎明期のアルゴリズムから現代のVRに至るまで、新技術を取り入れながら、小説とも映画とも異なる新しい体験を企画してきたゲームに迫る。第1章『バーチャファイター』とゲームの操作性(鈴木裕×原田勝弘)/第2章『ダビスタ』の予想もつかないアルゴリズム(薗部博之×田谷正夫×一之瀬剛×森本茂樹)/第3章VRで感覚を統合する『Rez』(水口哲也×清水亮)


 歴史をつくったゲームクリエイターたちへの濃密なインタビューの第2集。

 ゲームの企画書(1)の感想はこちらです(『桃太郎電鉄』の話は本当に面白かった)。

fujipon.hatenadiary.com


 この(2)では、セガの鈴木裕さん(『バーチャファイター』『アウトラン』)、水口哲也さん(『Rez』)、『ダービースタリオン』シリーズの薗部博之さんが登場します。

 この3人のインタビューが一冊の本にまとめられているのは、彼らが「コンピュータゲームとはこういうものだ」という先入観にとらわれずに、さまざまな工夫をして、ユーザーに「コンピュータの枠にとらわれない『現実的な』体験」を提供しようとした、という共通点があるからなのでしょう。


 この3人、いずれも破天荒なクリエイターで、セガアスキーは、よくこんな人たちを社員として雇っていたなあ(そして、この人たちも、会社員として働けていたなあ)という感じなんですよ。
 黎明期のゲーム業界というのは、カオスであり、エネルギーに満ち溢れていたのです。


 鈴木裕さんの回より。『バーチャファイター』開発時の話。
 聞き手は原田勝弘さん(バンダイナムコ『鉄拳』などの開発者)、そして編集者です。

――『バーチャ』の開発者みんなで拳法の稽古をして、実際の格闘技の動きを身体に叩き込んでから、ゲーム開発を行ったという話ですよね。あれって、大山倍達とか昔のプロレスラーの逸話とかと同じ類の都市伝説かと思ってたのですが……本当なんですか?


鈴木裕:うん、みんなで拳法の練習をして、僕のOKが出るまでコンピュータを触らせないことにしました。


一同:(笑)


鈴木:だって、「お前、俺にパンチを打ってみろ」と開発者に行ったら、あうあう言いながら、ヘロヘロの猫パンチを僕の胸に当ててくるような状態だったんだよ(苦笑)。それで本人はリアルなパンチと思っているから、良くなるわけがない!
 彼らは「『ストII』はワザが何十個もあるんです! そうでないと格闘ゲームにはなりません!」とか言ってたけど、「これからは一つの良いパンチ、良いキックが出るまで、他のモーションを作ることは禁止」という業務命令を出しました(笑)。


原田:すごいなあ。


――それで、もうみんなで拳法の稽古?


鈴木:ええ。でも、僕は昔からレースゲームの開発でロケハンをやっていたんですよ。それと同じです。


原田:以前に裕さんと話したときに「『アウトラン』でロケハンをしていた」と知って、びっくりしましたね。


 『アウトラン』は、アメリカだけでなく、ヨーロッパでもロケハンをやったそうで、それって、海外に行きたかっただけなのでは……とニヤニヤしながら読んでしまいました。
 しかし、開発者たちは、ゲーム開発部に配属されて、拳法の練習をすることになるとは、思ってもいなかったでしょうね。
 それで結果を残してしまうのが、鈴木裕さんのすごさなのです。
 言われてみれば、「どういうのが良いパンチなのか」をイメージできない人が、「リアルなパンチのモーション」を作れるわけがない、というのは、理にかなっているような気もします。


 『ダービースタリオン』シリーズは、僕が競馬にハマったきっかけでもあり、人生を変えたゲームなので、薗部さんの話は、とくに楽しみにしていたのです。
 聞き手は『ゲームフリーク』の田谷正夫さん、一之瀬剛さん、森本茂樹さん、そして編集者です。

田谷正夫:ただ、実況の作り込みと同時に、直線での逃げ切るか差し切られるかみたいな攻防の魅力も、競馬のシーンから抽出していったわけですよね。
 発売当時、このクオリティのものは皆無でした。SFCで『ダビスタ』の二匹目のドジョウを狙ったゲームがドッと登場したあとでさえ、数年間は及ぶものすらなかったと思います。一体、先人がいない中で薗部さんはどのように作られたのでしょうか。
 

薗部:いやいや、そんな難しいことはしてないの。
 だいたい、今に至るまでレースシーンのアルゴリズムは最初に作ったものとほとんど変わってないんです。パラメーターも基本的には増やしていません。やっぱり3年かけて作っただけあって、特に直す箇所が出てこないんですよ。
 

一之瀬:あのー、言えないことはあるかと思うんですけど、そのへんのカラクリをちょっと……教えていただけますと……。


一同:(爆笑)


――ちょっと、ちょっと! ストレートすぎですよ(笑)!!


森本:まあ、でも「超ド根性」は最初からあったのですが、とかは聞きたいですよね。


薗部:いや、そもそも基本的なパラメーターは四つだけです。馬の「スピード」「スタミナ」「勝負根性」「気性」それだけですよ。


一同:ええっ!


一之瀬:ええっと、あの直線の挙動がそれだけのパラメーターでまかなえるものなんですか?
 だって僕の中では、他のゲームと『ダビスタ』の最大の違いは、先行勢と後続勢が一気にぐるりと入れ替わるようなシーンがあることなんですよ。いや、僕の目の錯覚なのかもしれないですが……僕はああいう動きは「ペース」みたいなパラメーターを入れない限り、難しいんじゃないかと思っているのですが。


薗部:いや、それを四つのパラメーターで可能になるように作るんですよ。そりゃ難しいですけど、パラメーターを増やして面白くする大変さよりはマシなんじゃないかなあ。
 みなさん、どうもパラメーターを増やした方が楽だと思いがちなように見えるんです。でも、専用のパラメーターを作るのは良し悪しだと思いませんか。だって、その数値だけで結果が予測できてしまうでしょう? そうなるとゲームに意外性を作るのが非常に難しくなって、かえって大変になるはずなんです。

 僕は初代『ダビスタ』以来、いろんなメーカーの競馬ゲームをプレイしてきたのですが、レースシーンの面白さにおいて、初代からプレイステーション版くらいまでの『ダビスタ』を超えるものはありませんでした。
 グラフィックがきれいになったり、音声実況がついたりしても、最後の直線の半分くらいの時点で、結果がわかる(それでいて冗長な)ものばかりなのです。

 薗部さんは、『ダビスタ』のレースシーンについて、こう仰っています。

薗部:いや、現実にどうかは分けて考えましょう。我々にとって大事なのは、実際にどうなっているかを突き詰めることではなくて、実際の姿にどう近づけていくかですよ。こういう話も、僕が馬を観察して見つけてきたというよりは、むしろ現実に近づけるためにプログラムをいじる中で、ひねり出してきたものですしね。
 プログラムというのはパッと閃くようなものではないんです。もういじくり回して、こねくり回して、それでもダメだということもしばしばです。最初にレースの部分から作ったという話をしましたが、そもそもこういう作り方をしているので、僕は実際のレースの場面を見ながら調整していくしかないんですよ。


 最初につくりはじめたのが「実況」の部分で、それに1年間をかけた、というエピソードといい、薗部さんは妥協をしない「試行錯誤の人」なのだということがわかります。
 『ダービースタリオン』のレースシーンは、シンプルなパラメーターを人間の観察眼で徹底的にブラッシュアップすることによって生まれたものだったのです。


 ゲームデザイナーになりたい、と子供の頃に思ったことがある人は、少なくないはずです。僕もそうだったんですよ。
 このシリーズを読んでいると、憧れがよみがえってくるのと同時に、こんな「怪物」たちと競争することにならなくて良かったな……とも思えてくるのです。


ゲームの企画書(1) どんな子供でも遊べなければならない (角川新書)

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ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質 (角川新書)

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Rez PlayStation 2 the Best

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