発掘! 歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代 (光文社新書)
- 作者: 高野光平
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2019/07/17
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
発掘! 歴史に埋もれたテレビCM?見たことのない昭和30年代? (光文社新書)
- 作者: 高野光平
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2019/07/26
- メディア: Kindle版
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内容紹介
画像385点収録!
こんなモノがあったのか!ナゾだらけの草創期テレビCMの実態とは。
「名作」とはひと味ちがう、
無名の発掘物でたどる「もうひとつのテレビCM史」。CM史研究の第一人者が解き明かす。
◎ 内容紹介
1953年8月28日、初の民間テレビ放送局・日本テレビ放送網が開局して、テレビCMの時代が始まった。
しかし、その草創期の姿はナゾに包まれ、これまでほとんど実態が分かっていなかった。
本書は、そんな知られざる草創期のテレビCMについて、数々の発掘資料を駆使してその実態を解き明かそうとするものだ。
ほとんど誰も覚えていないであろう、無名の発掘物たち。
そこからどんな歴史が見えてくるのか。
CM史研究の第一人者が、豊富な画像と分かりやすい解説で歴史に埋もれたテレビCMたちを現代によみがえらせる。
平成から令和になったいま、遠ざかっていく昭和時代を正しく記憶するための一冊。
僕自身は1970年代はじめの生まれで、記憶に残っているのは1970年代後半くらいからなのです。
当時はカラーテレビが家に一台あって、回転式のチャンネルがついていました。ホームビデオが普及したのは1980年代になってからだったので、どの番組を観るかで兄弟ゲンカをしたり、野球中継ばかり観ている父親を呪ったりしていたんですよね。
この新書では、僕の記憶以前、日本初の民間テレビ放送局である日本テレビ放送網が開局した1953(昭和28)年から、東京オリンピックが開催された1964(昭和39)年までを中心に「黎明期のさまざまなテレビCM」が紹介されています。
読んでいると、「動画で観られればいいのになあ」と思うのですが、もともとが企業のCMであり、権利関係の問題で、研究・教育目的での利用に限られており、許可を得ないと閲覧もできないということで、この本のなかでは、静止画像とコメントで解説されているのです。
いまでもときどき、「懐かしのテレビCM」というのは時代を振り返る番組で流されることがあるのですが、この本に出てくるのは、「それ以前」が主になっています。
初期の実写CMによく見られるスタイルに「工場見学」がある。工場の生産ラインや各種の設備を見せて、その先進性や衛生面の行き届いた様子をアピールするものだ。工場で作られる商品ならば何でもありで、機械製品や化学製品はもちろん、食品、化粧品、書籍などさまざまな業種で工場見学CMを制作している。
図2・6はハリス(現・クラシエフーズ)「ハリスチウインガム」(1956年、90秒)。まずは研究所が映される。ところ狭しと並ぶ実験器具。フラスコやビーカーに薬液が注がれ、白衣を着た研究員が何かを調べている様子はまったく食品のCMに見えない。場面が変わるとこんどはパイプが張りめぐらされた巨大な工場設備が映し出され、ナレーションが次のように述べる。
「ガムの原料となる酢酸ビニールは、近代的設備の化学工場で作られています」
口に入れるものの広告で「化学工場」や「酢酸ビニール」といった単語が高らかに読み上げられるのは、現在の感覚では理解しがたいのではないだろうか。しかも映像にはものものしい実験室や工場機械が映し出されているのである。食品の持つ化学性や工業性は、現在ではなるべく見て見ぬふりをするというか、理解しつつも目をそらすようなことだと思うが、当時は逆に、それこそがアピールすべきポイントだったのだ。
「ハウス食品工業」や「カルピス食品工業」などの旧社名が示すように、当時は食品が工業生産されることに誇りとアイデンティティを持つ時代だった。最新の設備と科学技術で作られているからこそ、その食品は安全と安心をアピールできたのである。しかし現在では「工業」を冠する食品会社はたいへん少なくなった。価値観が変わったのだ。工場見学CMは、テクノロジーを素朴に信じることができた昭和30年代の価値観を象徴するような存在であると思う。
CMということは「これで商品や企業のイメージが良くなるはず」の映像やナレーションが使われているわけで、この半世紀で、日本人の感覚は大きく変わってきたのです。
今でも、工場見学には人気があるんですけどね。
○○を十枚集めて送ると△△が当たるとか、××と交換できるといった懸賞・景品サービスは当時からさかんだった。図7・15は森下仁丹「野球カード入りジンタンガム」(1960年、140秒)。板ガムの中にガムと同じ形状のカードが一枚入っていて、セ・リーグガムにはセ・リーグの主力選手、パ・リーグガムにはパ・リーグの主力選手の背番号と顔写真が印刷されている。セ、パは自分の意思で選べるが、どの選手のカードが入っているかは開けてみなければわからない。
各チーム十選手ずつのカードがあって、ひとつのチームのカード十枚をコンプリートすると「チーム賞」となり、野球のグラブ、ミット、ユニフォームのいずれかがもらえる。リーグ6チームすべてのカード60枚をフルコンプリートすると「リーグ賞」となり、ブリヂストン高級自転車、ナショナルトランジスタラジオ、リコースーパー44カメラのどれかがもらえる。
こうやって書くとあっさりしているが、60種類の異なるカードを自力で引き当てるなど絶対に無理だし、10種類のチーム賞だって至難の業だ。4コマ目で少年が右にいる友達に話しかけているが、これは交換の相談である。カード集めは交換を前提にしないと成り立たないものなのだ。とはいえ交換するには手持ちのカードがそれなりに必要で、とりあえず何でもいいからカードを10枚揃えようとすると、1個10円のジンタンガムを10個、計100円かかる。小学生くらいだとこづかいをすべてつぎこんでも厳しい。私の勝手な推測だが、これをコンプできた子どもはほとんどいなくて、みんな数枚集めただけで満足していたのではないだろうか。
スマートフォンゲームの「コンプリートガチャ」的なやり方には、長い伝統があるみたいです。
10枚くらいなら……と話を聞いたときは思うけれど、実際はものすごく難しい。ネットで情報交換やトレードができなかった時代に、子どもの人脈でこれをコンプリートするのは、至難の業だったはずです。
最後にひとつ、本書を書き終えた感想を記しておきたい。それは、昭和30年代は調べても意外とわからないということだ。
たいして昔じゃないから調べればたいていのことは分かるとたかをくくっていたのだが、かなり苦戦した。さいわい、国立国会図書館の所蔵雑誌のデジタル化が一気に進み、大量の雑誌に対して記事タイトルを検索できるようになったので、それでなんとかなった部分が大きい。しかしそれでもわからないことは残った。雪印麺類用バターはどんな商品だったのか。極洋捕鯨の大水槽はいつからいつまで東京タワーに置いてあったのか。新三菱自動販売機のCMのロケ地は池袋西武百貨店なのか。川上哲治はなぜキングトリスのCMに出たのか。
執筆にあたり広告主にけっこう問い合わせをしたのだが、ほとんどが「記録がなくて分からない」という返事だった。そりゃそうである。半世紀前の営業資料なんか残っているはずがない。だったら当時の関係者を探し出して聞き取りをすればとも思うが、私の知りたいことに直接関与していた人物をピンポイントで探し出すなど、野球カード入りジンタンガムでリーグ賞を揃えるくらい難易度が高い。しかも、相当の苦労のすえに存命の関係者にたどりついたとしても、その人の記憶が正確かどうかは分からないのだ。けっきょく、もっとも頼れるのは書籍や雑誌などの当時の文献や、当時の商品の現物である。
これって、普通に歴史学や考古学のアプローチだなと実感している。たった半世紀前のものごとを明らかにするのに、歴史学的に正しい手続きを踏まないといけない。それはきっと、戦後昭和のモノや情報がものすごい量で、ものすごいスピードで入れ替わったからだ。近い過去ではあるが、掘り下げる土壌は広大で深いのだ。
いまから半世紀くらい前のことも、「リアルタイムの記憶」は失われ、その後に変化していった「常識」によって上書きされている、ということなのです。
その時代を過ごしてきたはずの人たちが、まだ大勢生きているはずなのに。
オウム真理教が「恐るべき殺人教団」と初期からみなされていたように報じられているのをみて、「僕のまわりの人たちは、あの集団を長い間面白がってネタにしていたし、多くのメディアでも好意的に採りあげていたはずなのに、って思うんですよ。
インターネットのおかげでさまざまな情報に関して「当時の人がどう考えていたか」にアプローチしやすくなりそうな気がします。
しかしながら、情報量そのものが圧倒的に増えているのも確かで、解析する手間も膨大なものになっていくのでしょう。
「日常生活を記憶・記録していくこと」は本当に難しい。
それが「みんなが記録しておこうと思わないほど、当たり前の日常」であれば、なおさら。
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