琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】この素晴らしき世界 ☆☆☆☆

この素晴らしき世界

この素晴らしき世界

内容紹介
芸能界屈指のゴシップ好きが
容赦なくイジり倒す、
アクの強いお笑い芸人たちの知られざる伝説!

週刊新潮」連載時から話題の、
いくら毒舌を吐き続けても絶対に嫌われない男だから
書くことの出来た「吉本バイブル」、ここに誕生!
単行本化記念の描き下ろし(極楽とんぼ加藤)と、
キングコング西野による“東野幸治論”も特別掲載。


 東野幸治さんが、吉本芸能所属の芸人たち(先輩も後輩も)の濃いエピソードを語りつくした「週刊新潮」連載エッセイを単行本化したものです。
 最近の吉本興業といえば、どうしても「闇営業問題」をイメージしてしまうのですが、この連載はそれ以前から始まっているものなので、それについては、ほとんど触れられていません。
 また、このエッセイでは、その回でネタにされた芸人さん本人による「近況報告」のコーナーがあって、これがまた人それぞれなんですよ。
 最初に収録されている西川きよしさんは、その律儀な性格が印象深かったのですが、「近況報告」もけっこう長くきちんと書かれています。そうか、このおまけコーナーにも力が入っているんだな、と思いきや、中には「一行報告」の人もいて、東野さんと仲が悪いのだろうか、とか、それはそれで気になってしまいます。

 その西川きよしさんのエピソード。

 この間、聞いた話の舞台は、きよし師匠がもう何十年も通っている大阪の有名なイタリアンのお店。その店で大阪の人気歌手、円広志さんときよし師匠が二人きりで食事をすることがあったそうです。
 きよし師匠の昔話を中心に、至近距離であの目玉に吸い込まれそうになるのを必死でこらえながら、1時間ほど喋ってたら、さすがの円さんも疲れてきて、
「ちょっとトイレ行ってきます」
 と言って便座に座って少し休んでたそうです。
 しばらくして席に戻るときよし師匠がいない。
「あれ? トイレに行ったのかな? 行き違いになったのかな?」
 店の人に、
「きよし師匠はどこ行ったんですか?」
 と聞くと、
「円さんがトイレに入ってしばらくして、いきなり店から出て行きました」
 全くもってわからないきよし師匠の謎の行動。どうしていいかわからず、困っていると、しばらくして息を切らして汗だくのきよし師匠が戻って来ました。
「師匠、どこ行ってたんですか? 心配しましたよ!」
「ハァハァ良かった! ハァハァ円くんが僕との食事面白くないから帰ったと思って」
「エッ!」
「ハァハァ店出て円くんを探したんや。ハァハァどこ探してもおれへんから……。あきらめて戻って来てん。いや〜良かった! 円くんありがとうなぁ」
 至って真面目に答えるきよし師匠。
「師匠違いますよ。本当にトイレに行ってたんです。ちょっとボーッとしてたんです。すんません」
「いやー良かった。トイレか!」
 なぜ食事中に勝手に帰ったと思ったのか。なぜそんなに自分に自信がないのか。謎の思考回路。


 円さんが席を外していたのはそんなに長い時間ではなさそうだし、なんといっても、芸能界の大御所である西川きよしさんを放り出して勝手に帰るなんて人がいるとは思えないのですが……
 そんなことをやりそうなのは、横山やすしさんくらいなのでは……
 こんな人がやすしさんとコンビを組んでいたのか、という驚きと、こんな人だったからこそ、コンビを続けてこられたのか、というのと。
 芸能界には、こんな人もいるんですね。


 矢野・兵動矢野勝也さんの回より。

 私生活では現在、結婚しているパイセン(矢野さん)ですが、プロポーズの話もなかなか強烈です。結婚する前にパイセンの浮気がバレて、後の奥さんとなる当時の彼女と浮気相手が直接対決することになりました。この修羅場が結婚のキッカケとなったそうです。
「彼女vs彼女の戦いでは、話も長引いてラチがあかん。だから嫁の称号が欲しい。嫁vs彼女なら嫁に分があり正当な権利もある、だから結婚して欲しい!」
 まさかのタイミングでの逆プロポーズ。もちろんパイセンが断るはずもありません(男の勝手な考えですが、奥さん、いい女ですよね)。しかしパイセン、奥さんに感謝しながらも、結婚後も浮気を繰り返してしまいます。感謝しつつも浮気。おちょけてますねぇ。
 浮気がバレて携帯電話を取り上げられ、奥さんが用意した電話を持たされるパイセン。メールは奥さん経由で転送され、通話は奥さんが初めに出た後パイセンに連絡があり、パイセンから先方に折り返すというスタイル。現在は落ち着きましたが、常に疑いをかけられた状態だったそうです。
 そんな恐妻ぶりの奥さんですが、夫婦でテレビ出演すると、過去の浮気のエピソードを一緒に笑ってくれる人でもあります。芸人の家族として最高だと、私なんかは思います。


 ちなみに、「おちょける」というのは「ふざける」に近いニュアンスの言葉のようです。
 東野さんのエッセイで、さまざまな芸人たちの常識はずれのエピソードを読んでいると、芸人という仕事は、ある意味、「まともに生きるのが難しい人のためのセーフティネット」であったり、「折り目正しく生きなければならない一般人の感情の捌け口」だったりするのかな、と思えてくるんですよ。
 芸能人の不倫や酒を飲んでの失態、脱税などが問題になることは多いのですが、僕のなかにも、「芸人だからといって、反社会的な行為が許されるはずないだろう!」という気持ちと、「日常では接することがない、ものすごくキラキラしている人、どうしようもなくだらしない人、あるいは、破天荒で常識に縛られない人の姿こそ観てみたい」という欲求があるのです。
 昔ながらの芸人にとっては、「そんなにキチンと生きられるのなら、芸人にはなってないよ」と思うことも多いのではないかなあ。

 闇営業問題に際して、吉本興業に反旗を翻した、極楽とんぼ加藤浩次さんの回より。

 加藤の無茶苦茶なエピソードは数知れず。例えば、共に仕事がなかった先輩の山崎邦正(現・月亭方正)が当時付き合っていた彼女と一緒に加藤のアパートを訪れた時、加藤はいきなり山崎邦正の彼女へミル・マスカラスばりのフライングボディプレスをしたそうです。山崎は加藤と彼女がなんだかんだ楽しそうで、「やめろ! 何してんねん!」と言えず、後輩にボディプレスされてる彼女をモジモジしながら眺めていたそうです。
 まだあります。相方の山本君たちとよくコンパを開いていたそうですが、コンパの終盤で必ずと言っていいくらい女の子を泣かしていたそうです。そして、そのコンパをめちゃくちゃにして、最終的に「帰れ!」と言うそうです。しかも、女の子たちが帰ろうとしたら、「飲んだ分だけ、3000円置いてけ!」って金を徴収してから、帰らせるような男だったそうです。コンパして女の子たちにお金を請求するのは、私が知る限り、加藤とほんこんさんくらいです。さらに加藤は、コンパでいけすかない女がいるとチャーハンを注文して、その熱々のチャーハンをそいつにかけるという訳のわからない嫌がらせをする。


 これ、本当に訳がわからない……なぜわざわざチャーハンなんだ……
 「狂犬・加藤」と呼ばれるのも無理はないですよね、これ。
 加藤さんは、吉本興業の上層部にまで噛み付いたのですから、「徹底した狂犬っぷり」とも言えそうです。
 相手が偉い人だったらおとなしくなってしまうよりも清々しい気はしますが、こういうことをやった人でも面白くて売れていれば許されているのは、吉本興業の懐の深さでもあるのでしょう。
 
 ものすごく面白い本なのですが、読んでいると、これからの芸人は、ここに書かれているような常識外れのエピソードがどんどん少なくなっていくのだろうな、という一抹の寂しさも感じるのです。


この素晴らしき世界

この素晴らしき世界

  • 発売日: 2014/02/18
  • メディア: MP3 ダウンロード

アクセスカウンター