琥珀色の戯言

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【読書感想】現代中国の秘密結社 -マフィア、政党、カルトの興亡史 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

デジタル統治が進む大国にうごめく「秘密結社」を活写
洪門、青幇、中国致公党法輪功――。謎めいた組織が総登場
辛亥革命や共産革命から香港デモ、反共カルトにまで迫る!

天安門事件、新型コロナ流行、アリババ台頭、薄熙来事件、孔子学院――。激動する国家にうごめく「秘密結社」を知らないで、どうやって現代中国がわかるのか? 清朝に起源を持ちいまなお各国に存在するチャイニーズ・フリーメーソン「洪門」、中国共産党の対外工作を担う「中国致公党」、カルト認定され最大の反共組織と化す「法輪功」など。大宅壮一ノンフィクション賞作家が、結社の行う「中国の壊し方」と「天下の取り方」に迫り、かれらの奇怪な興亡史を鮮やかに描き出す。


 秘密結社!
 その言葉を聞いただけで、中学生くらいまで『ムー』などのオカルト雑誌が大好きだった僕は、けっこうワクワクしてしまうのです。
 

ムー 2021年4月号 [雑誌]

ムー 2021年4月号 [雑誌]

  • 発売日: 2021/03/09
  • メディア: Kindle

 というか、『ムー』って、まだ続いているんですね。陰謀論とか秘密結社みたいな話って、本気で信じているかどうかはさておき、いつの世の中でも惹かれる人はいるみたいです。

 この『現代中国の秘密結社』、タイトルだけみると、都市伝説が集められた新書っぽいのですが、「中国という人口も国土も巨大な国で、人々は何を拠り所にして繋がってきたのか」を考えさせられる内容になっています。
 
 著者は、まず、中国の秘密結社を3つのパターンに分類しています。

 東洋史研究の場では、中国の秘密結社はしばしば2つのパターンに大別される。すなわち、本来は構成員同士の助け合いなどの目的から結成された(1)「会党(フイダン)」(幇会(バンフイ)と、民間信仰の宗教的つながりをもとに信者たちの人間関係が結ばれた(2)「教門(ジャオメン)」だ。この伝統的な2パターンに加えて、清朝中国共産党の打倒といった政治目的を抱いて結成された組織を、(3)「政治結社」としてもうひとつのパターンに加えてもいいかもしれない。


 この3つのパターンの「秘密結社」について、現場での取材なども織り交ぜながら語られていくのです。

 たかが「秘密結社」と侮るなかれ。
 中国の歴史を辿っていけば、この(2)の「教門」が、大きく歴史を変えたことが、少なからずあるのです。

 いっぽう、民間信仰をベースにした秘密結社である「教門」の代表選手は、元・明・清の各時代に信者がしばしば大反乱を起こした白蓮教だろう。この白蓮教は仏教の浄土思想と、光と闇の二元論をとなえた中央アジア系のマニ教の教えが混淆したとされる民間信仰だ。
 特に元末の白蓮教徒の反乱(紅巾の乱)では、乱軍のなかから朱元璋洪武帝)が台頭し、やがて「明」という宗教性が漂う名称の新王朝を建てた。また、白蓮教は他の民間宗教と融合して羅教や無為教・大乗教・八卦教などさまざまな教えに派生していった。いっぽうで体制側は、怪しげな民間宗教をその教えの内容にかかわらず、「白蓮教」という名前で呼ぶようになった。清代の18世紀末に起きた嘉慶白蓮教徒の乱と呼ばれる大規模な教門の反乱はこの類だろう。
 やがて、白蓮教の系統から武術と咒術(じゅじゅつ)を融合させた「神拳」という武術結社が誕生する。この神拳から、清朝末期の騒乱のもとになった義和団華北を中心に広がった農村の自衛武装組織である大刀会や紅槍会などが生まれていった。


 中国では、秘密結社が本当に歴史を変えてきたのです。
 これを読んで知ったのですが、日本のマンガ史も変えた、とも言えそうです。
 『北斗神拳』に、こんな元ネタ(たぶん)があったのか……

 共産党一党独裁下の中国ではありますが、さまざまな「秘密結社」があるのです。
 本当にヤバそうなのはそんなに多くはなくて、日本の小さな新興宗教団体みたいに小規模で、信者が教祖を崇めるようなものもあれば、「これって、とくに弾圧されるようなものではないのでは……」という組織もあります。
 「会党」には、反社会的勢力と結びついているものもあれば、海外での同胞の互助会的な集団もあるのです。

 とはいえ、中国政府にとっては、共産党以外の組織に多くの人が集まり、ましてや、そのトップが反政府的、ともなれば、見過ごしてはおけないのです。

 中国政府から弾圧されている「法輪功」という気功集団の日本での講演会に、著者は参加しています。

 あえて肯定的な表現をするなら、法輪功の集会は新鮮な信仰の熱気に満ちたコミュニティだった。歴史が比較的浅い教えなので、日本の伝統仏教のように惰性的に信仰を維持している人が、まだほとんどいないのだ。もっとも、そうした純粋さゆえに、一般社会ではまず信用されない神秘主義的な奇跡体験についても、素直に受け入れる素地があるようだった。

 ……さて、こう文章で書くと難しそうだが、実際の功法の動作は、ラジオ体操と同程度の運動強度の手足の曲げ伸ばしである。子どもや老人でも気軽にできるだろう。何よりスマホから再生される李洪志のかけ声を聞きながら各動作をおこなっていくため、いっそう「ラジオ体操」的な感覚が強い。
 とはいえ、あくまでも気功である。続けるうちに「気」が集まるのか、なぜか両手に強い熱を帯びるような感覚を覚えて驚いた。身体もぽかぽかとしはじめ、入浴直後のように芯から温まる感じがある。
 法輪功をどう評価するか、政治的なイデオロギーをどう考えるかといった問題はさておき、明らかに健康にはよさそうだ。往年、中国で公称1億人が参加する大ブームができたのも納得できる。


 誰にでもできるし、気功の効果か、体調もよくなったような感じがするので、流行るのもわかる、というのが著者の実感だったのです。
 なるほど、こんな感じだったら、愛好者が増えるのもわかります。
 ただ、創設者の李洪志という人が、反共産党的な立場をとっているために、共産党としては「油断ならない集団」として弾圧しているのです。

 それにしても、強大な権力を持つ中央政府が、なぜこんなに「秘密結社」に過敏になるのか?
 
 著者は、その答えを考えるうえで、ヒントになる話として、2020年4月末頃に、ある中国人がTwitterに投稿し、盛んにリツイート、転載されたというジョークを紹介しています。

甲:ある連中が、西洋から伝わったイデオロギーを受け入れて、中国でこっそり秘密結社を立ち上げたとさ。


乙:先祖泣かせの呆れた連中だな。海外の反中国勢力に洗脳された大バカだ!


甲:連中はある都市で武装して暴動を起こし、自分たちの軍隊を作って政府に対抗したんだ。


乙:かくも恥知らずな不逞の暴徒どもに、政府が厳重なる打撃を加えることを支持したい。そいつらを戦車で蹴散らしてしまえ!


甲:しかも彼らはまとまった土地を占領して、勝手に独立して国家を名乗った。だが、国名も国旗も彼らを援助した宗主国の猿マネだった。発行した貨幣にも宗主国の指導者が印刷されていた。


乙:むむむ。脳ミソの腐り果てた国家分裂分子じゃないか。売国奴め、憎っくき帝国主義の走狗め! 連中が生きる土地など寸土たりともありはせぬぞ!


甲:その組織の名は「中国共産党」と言うんだ。国家の名は中華人民共……。


乙:チクチョーッ!! バカヤローッ!!!!


 どういうことかわからず、詳しい解説が読みたい、という方は、ぜひ、この本を手にとってみてください。
 
 要するに、中国共産党もまた、そういう「秘密結社みたいなもの」からスタートしているがゆえに、いま存在している小さな秘密結社を侮れない、ということなのでしょう。


 著者は、中国のこんな秘密結社のエピソードにも触れています。

唐王朝の末裔を名乗る李成福が皇帝を称したが、派出所の警官3人によって滅ぼされた万順天国(1990~92年)

 警官3人、というのが物悲しいというか、もう、放っておいてもよかったのでは……とも思うくらいです。

 中華人民共和国の建国後に登場した秘密結社王朝は、著者が軽く調べただけでも30~40国に達したのだとか。
 易姓革命の国の伝統は、共産党支配下でも、活き続けているのです。もっとも、2003年に山東省で「後清大中国」というのが壊滅して以降は、ほとんど秘密結社王朝は生まれていないそうなので、中国人の意識も、共産党への権力の集中と経済成長、IT化で大きく変わってきているのでしょう。


 秘密結社好きには、たまらない本だし、史料的な価値も高いと思います。
 「万順天国」とか、これを読まなかったら、一生知ることはなかったはずですし。


fujipon.hatenablog.com

さいはての中国(小学館新書)

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