- 作者: 山下賢二,松本伸哉
- 出版社/メーカー: ミシマ社
- 発売日: 2019/06/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容(「BOOK」データベースより)
「ていねいな暮らし」「セレクトショップ」「夢を持とう!」…そういうものに疲れてしまったすべての人へ。二〇一五年四月、京都・左京区に「ホホホ座」浄土寺店が開店。その後、全国に10店の「ホホホ座」が誕生。それらは支店でも、フランチャイズでも、のれん分けでもない。店名を共有しているだけで、全く別の店…その関係性の不思議さと店が「続く」謎を、二人の半生を通して探った、反省の書。
著者のひとりの山下賢二さんは、1972年、京都生まれ。2004年に「ガケ書房」を開店。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」を開店しています。
松本伸哉さんは、1967年、京都生まれ。90年代後半よりレコード屋「MENSOUL RECORDS」を10年間経営した後、2011年、古本、雑貨の店「コトバヨネット」を開店、2015年よりホホホ座。ホホホ座2階、1階奥ギャラリー、浄土寺センターの店主だそうです。
山下さんが経営していた「ガケ書房」は、「面白い書店好き」の人たちに支持されていた伝説の書店だったのです。
とはいえ、僕にとっては「名前と評判は知っていて、一度は行ってみたいけれど、サブカル好きの書店マニアみたいな人が入り浸っているような店は、それはそれで敷居が高そうだな……」という思いもあったのです。
僕は基本的に「店員さんと喋らずに済むチェーン店が大好き」な人間なので。
でも、この本の「反省文」というタイトルになんとなく魅かれて、手に取ってみました。
ホホホ座は、一般的には本屋だと思われていますが、その母体は四人の座員による編集企画グループです。
本はもちろん、雑貨・食品・音源・イベントなどを企画、制作、販売していく集団です。メンバーは、山下賢二(座長)、松本伸哉(顧問)、加地猛(ニューリーダー)、早川宏美(デザイナー兼イラストレーター)の四人衆です。
しかし、このホホホ座といういつまでたっても口に馴染まない名前を初めて聞いた人たちはたいてい、こう尋ねます。
「どういう意味なんですか?」
そういうとき、僕たちは決まり悪く、こう答えるのです。
「いや……それが、特に意味はないんです」
すると、質問した人は少し笑いながら、またまたぁみたいな顔。
そこで僕たちは急いで、
「実は……このホホホというカタカナはシンメトリーで、縦でも横でも一本線を書けば、文字が連なるんです。さらに漢字の座まですべて繋げることもできるんです」
と補足すると、なんとなく納得してくれます。
でも本当のところ、そこに意味はないんです。
僕はけっこういろんな本を読んでいるのですが、「効率よく生きる方法」とか「生産性を上げるためには」みたいな話ばかり読んでいると、なんだか煮詰まってくることがあるのです。
言いたいことはわかるし、それが正解なのかもしれないけれど、そんなふうに生きるのは僕には無理だよ、って。
そういう「意識が高い人の思考に疲れてしまったとき」に、この本を読んで、なんだかホッとしました。
朝早く起きて、定時に通勤する日常に耐えられず、毎日ぶらぶらして、ときどき日銭を稼いだり、好きなものを売る店をつくったりしながら生きてきた、僕と同じくらいの世代の人たちの話というのは、「聞けそうで、案外聞けないこと」なんですよね。
やっぱり、人口に膾炙するのは「ものすごく頑張って、大きな成功をおさめた人」の話
が多いのです。
この「いかにもサブカル」なホホホ座の松本伸哉さんが、こんな話をしているのがすごく印象的なのです。
ホホホ座を立ち上げるに当たって、僕と山下を悩ませる、ある問題がありました。
「サブカルでは食っていけない」
ということです。
(中略)
ホホホ座のような、本、雑貨を売るスタイルでは、サブカル的であるか否かは、本来、販売している商品の傾向によって決まります。しかし、現在お店に置かれている商品を見ると、濃度の濃い、サブカル要素を含んだ本や雑貨はかなり少数派です。
今や、ホホホ座がサブカル的であることは「いわれなき」ことなのです。
かつてのサブカル・ショップは、マニアを対象とした道場のようなムードがありました。お客さんと店主が、あれはないのか? では、これならどうだ? と、被せて被せてのやりとりをする過程で、お店のカラーができ上がっていきます。
ただ、この場合、マニアとしての戦闘力は上昇しますが、例外なく普通のお客さんを遠ざけてしまいます。マニアックなアイテムを積み上げたタワーが、どんどん伸びていき、そして、ある日、そのタワーは、思いの外、グラグラだ。と、気づきます。鍛えられた戦士であれば、絶妙なバランス感覚で、頂上に立つこともできます。一方で、初心者は、高くなりすぎたタワーに足をかけることすらできません。その戦士ですら、余計な体力を使うことのない、オークションやネット通販に主戦場を移し始めます。
お店で商品を売るには、コンビニのように、見通しよく平たく並べて、空いた(売れた)ところに、何か別のものを置いたほうが、いいのです。見通しの悪い、密林(カオス)を作ったり、頂上が霞んで見えないタワーを建設しているお店(あくまで印象の問題です)では、戦士ではない、何かの間違いで入ってきたお客さんの目が、例外なく泳ぎます。「うわ~、すごいね~」と、言っていても、何一つ商品情報は入ってきていません。風景を眺めているだけです。
もちろん、サブカル的な雰囲気にシンパシーを感じてくれる方もいます。しかし、そのほとんどが、サブカルっ「ぽさ」に対する判官びいきのような感情であり、それが購買動機になるかといえば、かなり怪しいものです。
日々、そのような状況と戦いながら、僕と山下が、いつも半ばあきらめ気味につぶやく一言があります。
「結局”暮らし”系か~」
多くのファンに支えられ、京都という立地にも恵まれている「ホホホ座」でさえも、「サブカルで食べていくのは難しい」のだなあ。
マニアにこちらが品定めされるような店は敷居が高いし、いまはほとんどのものがネット通販で買える時代でもありますし。
もちろん、同好の士との交流を求めてくる人もいるのでしょうけど。
この本を読んでいると、お客さん相手の商売って、難しいというか、わからないものだな、と感じます。
ついでに加地と、店の陳列方法について少し話す。
山下賢二「お客さんが感じてしまうその店のサブカル感ってさ、棚の空白をギチギチに埋めてしまう店主の性分やと思うねんな。例えば、このぎっちり詰まってる棚に、本を6冊だけこっちに表紙向けて、ポンポンポンと間隔あけて置いたりしたらセレクトショップな感じやんか」
加地猛「そうそう。俺もなるべく品数あったほうがいいと思ってる世代やから(笑)、ぎちぎちに置くんやけど、それで引くお客さんいるねん、最近。近寄りがたくなるんかな? レコードとかさ、すごい頑張って枚数出したら、その分だけ売上いいと思うやん? 全然そんなことないで。それがもうどうしたらいいかわからんところやわ、今」
山下「え? レコードっていわゆるサクサクやって、レコードを掘る<ディグ>っていう行為込みの楽しみとちゃうの?」
加地「いや~。忙しくて全然売り場に出せてる枚数が少ないときとかあるねんけど、それはそれなりに買われていくねん(笑)。パンパンに出したときと売上変わらんねん」
僕も「なるべく品数あったほうがいいと思ってる世代」なので、そういうものなのか……と。
見やすいほうが売れるというのは、わからなくもないのだけれど。
今はむしろ、「選択肢が多すぎて、誰かに背中を押してほしい、おすすめしてほしい」時代なのかもしれませんね。
直接何かの役に立つ、という本ではないのですが、人間、どんな生き方でも、なんとかやっていけるものなのかもしれないな、と、少し勇気づけられたような気がします。
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