
売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放(ライツ社)
- 作者: 中村朱美(佰食屋)
- 出版社/メーカー: ライツ社
- 発売日: 2019/06/14
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。

- 作者: 中村朱美
- 出版社/メーカー: ライツ社
- 発売日: 2019/06/14
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内容紹介
各メディアで話題沸騰中の「佰食屋」店主、初の書き下ろし著書。・ランチのみ、の国産牛ステーキ丼専門店
・どんなに売れても、1日100食限定
・営業、わずか3時間半
・インセンティブは、早く売り切れば早く帰れる
・飲食店なのに、残業ゼロ
・なのに従業員の給料は、百貨店並み社員を犠牲にしてまで 「追うべき数字」 なんてない 。
「働きやすい会社」と「経営」が両立するビジネスモデルとは
京都の小さな定食屋が起こした、奇跡の経営革命!
京都にある国産牛ステーキ専門店『佰食屋(ひゃくしょくや)』。
美味しい国産牛ステーキ丼が1000円+税で、一日100食限定、ランチのみ営業の人気店です。
「一日限定○○食の人気店」なんて、ありふれた話じゃないか、と僕は思ったんですよ。
でも、この本のタイトル「売上を、減らそう」には、けっこうインパクトがありました。
商売をやっている人ならば、売上は多いほうが嬉しいはず。勤め人だって、給料が高いほうが嬉しいように。
もちろん、売上をアップするためのコストがかかりすぎる場合には、「無理に売上を増やそうとしない」という選択肢はあるのですが、この本の著者であり、『佰食屋』の店主の中村朱美さんは、売上を「減らそう」と仰っているのです。
どういうことなの、それ?
莫大な遺産が転がり込んできて、道楽で店をやっている、とか、子ども食堂みたいに、地域の人たちに対して、ボランティアとして活動している、ということなのだろうか?
それでも、「売上を増やす」とか「店を大きくする」というモチベーションがないと、店というのを続けていくのは難しいのではないだろうか?
「100食以上売ったら?」「夜も売ったほうが儲かるのでは?」。
そんなこと、何回も言われました。儲かるかどうかは別として、たしかに売上は上がるでしょう。
でも、ちょっと待ってください。そもそも、なぜ会社は売上増を目指さなくてはならないのでしょうか。
従業員のため? 会社のため? 社会のため? 実際のところ、経営者が「自分のため」に売上増を目指している、というのが多くの場合の真実ではないでしょうか。
売上を増やして、自己資金を貯めておかないと、いざというときに不安。いつ景気が傾くかもわからないから、なるべく利益を確保しておこう……。そんな、自分の不安をかき消すために。
「業績至上主義」にわたしは違和感を抱きます。
100食売ったら、たくさん来られたお客様をずっとおもてなしし続けなければなりません。それでは、気持ちの余裕がなくなります。夜に営業したら勤務時間が長くなります。そのわりに、そこまで大きな儲けは得られません。
佰食屋は、お客様のことだけを大切にするのではありません。いちばん大切なのは「従業員のみんな」です。
仕事が終わって帰るとき、外が明るいと、それだけでなんだか嬉しい気持ちになりませんか? そんな気持ちを、従業員のみんなにも味わってほしい。
だから、佰食屋が出した答えは、「売上をギリギリまで減らそう」でした。
会社として成長すること、大きくなることを「捨てる」ことを著者は選択したのです。
佰食屋は、どんなにお客さんが来ていても、「100食限定」を変えることはないそうです。
営業はランチのみで、早いときには14時半には最後のお客が食べ終わり、営業終了。
ただし、早く営業が終わったときも、早退はなしで、仕込みや清掃などを丁寧にやるのだとか。
以前、「営業が早く終わったら、早く帰れる」ような仕組みにしていたところ、接客や清掃がどうしても雑になってしまいがちだった、とのことでした。
そんな「甘い」経営をしていて、店を続けていけるのか?
僕もそう思ったんですよ。
ところが、けっこううまくいっているみたいなのです。
「100食限定」で、いつも売り切れるから、安定した仕入れができるし、丁寧につくれる。
100食売ったら終わりだから、忙しい日でも「ゴール」が見えている(忙しい日は、かえって仕事が早く終わる)。
食品ロスが少ないから、原価率を高く設定できて、品質を高められる。
100人に来てもらえればいいから、家賃が高い一等地でなくてもいい。
(これには、『佰食屋』が不動産事業も行っている恩恵はありそうです)
『佰食屋』で働いている人たちは、ものすごい高給をもらっているわけではないけれど、残業だらけの他の飲食店と同じくらい稼げて、毎日早く家に帰って、「仕事以外での暮らし」を充実させることができているのです。
僕がこの本を読んでいて、いちばん印象的だったのは、佰食屋の「採用」の話だったのです。
佰食屋の採用基準は、「いまいる従業員たちと合う人」。
それだけです。
面接では、一人につき1時間くらいかけて、どんなふうに働きたいのか、どんな暮らしをしたいのか、じっくり話を聞きます。
そしてその人が「なるべくたくさん働いて、たくさん稼ぎたい」と考えているのなら、「きっとうちの会社では物足りないと思う」と率直に話します。「100食限定」と決めているのに、「もっと売りませんか?」というそのアイデアで、いまいる従業員たちを困らせたくないのです。
そうやって説明すると、その方も「じゃあ、ほかを受けてみます」と納得してくれます。そんなふうに、一人ひとりときちんと向き合って、面接を行っています。
佰食屋で採用するのは、どちらかというと、人前で話したり面接で自己PRしたりするのが苦手で……つまり、ほかの企業では採用されにくいような人です。
わたしたちが「従業員第1号」として採用したSくんも、そういう人でした。10人ほど面接に来られたのですが、Sくんはなんと、履歴書を忘れてきたのです。「あなたは……どなたですか?」からはじまる面接なんて、後にも先にもあれっきりです。
彼は、調理師の免許こそ持っていましたが、コミュニケーションが苦手で、おとなしくて、人の目を見て話すことができない人でした。面接したなかには飲食経験者も多く、「大手ファミレスチェーン店でエリアマネージャーをやっていた」という人もいました。けれどもわたしは、Sくんを採用したのです。
その1か月後に採用したYさん……そう、のちに佰食屋の店長を務めてくれた社員です。彼女もまた、面接では緊張しすぎて、ちっとも目を合わせてくれず、なにか尋ねても、ボソボソッと答えるような人でした。「いつか自分でカフェを開きたい」という夢を持っていたにもかかわらず、カフェのアルバイトに応募しても、面接で落とされるばかりだったのです。
ではなぜ、佰食屋はそんな二人を採用したのか。佰食屋には、「アイデア」も「経験」も「コミュニケーション力」も必要ないからです。
なるほどなあ……
佰食屋にはメニューが3種類しかないので覚えることが少ないし、一日100食だけ売ればいいので、店頭での呼び込みや、お客さんに「今日のおすすめ」をセールストークする必要もない。
ストレスは少ない職場ではあるけれど、新しいことをどんどんやりたい、自分を職業人として成長させたい、という人には物足りなさもあるだろう、と著者は考えているのです。
「野心」があって、どんどん働いて、成長していきたい、という人よりも、「決められたことはきちんとやれるけれど、創造性や積極的に立ち回ることを求められるのはつらい」という人のほうが、会社と働く人の互いのニーズに合っていて、いい関係を築いていける。
飲食サービス業は人手不足が深刻なのですが、この本を読むと、「日本の経営者は、仕事の内容を考えるとオーバースペックの『いい人』を求めすぎている」ような気がしてきます。
これは、お客の側も、店員さんに求めるサービスの質が高すぎるのも原因なのでしょうけど。
仕事の内容をなるべくシンプルにして、余裕をもって働ける環境づくりをすれば、「働きたい人にとってのハードル」が下がり、店にとっても「働いてもらえる人」の選択肢が広がるのです。
働く側だって、「成長したい人」ばかりじゃない。
給料はそんなに上がらなくても、「ストレスが少ない仕事で、早く帰れて、のんびり暮らせたほうがいい」。
読んでいると、災害時に数カ月で経営危機になってしまうのは、やはり「成長を捨てていて、原価が高いし、社員の数にも比較的余裕があるので、会社の資産的な余裕が乏しい」のではないか、とは感じましたし、『佰食屋』がうまくいったのは、看板メニューのステーキ丼の商品力が高かったことに尽きるのではないか、とも思うのです。
真似できそうで、けっこう、真似するのは難しいのではなかろうか。
それでも、「成長至上主義」を捨てる、というのは、これからの新しい潮流になっていきそうな気がします。

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