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内容紹介
一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。
山あいの小さな集落、簑石。
六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、
Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。業務にあたるのは簑石地区を擁する、南はかま市「甦り課」の三人。
人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香(かんざん・ゆか)。
出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和(まんがんじ・くにかず)。
とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣(にしの・ひでつぐ)。彼らが向き合うことになったのは、
一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった-–。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!
そして静かに待ち受ける「衝撃」。『満願』『王とサーカス』で
史上初の二年連続ミステリランキング三冠を達成した
最注目の著者による、ミステリ悲喜劇!
やたらと人が死ぬわけでもなく、警察が無能だったり、偶然や思いつきで犯人がわかったりするわけでもなくて、「謎解き」というより「物語」として引き込まれる米澤穂信ミステリの真骨頂、という作品でした。
あえて物申すとすれば、これはエラリー・クイーンじゃなくて、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』なのに、このタイトルなのか、ということくらいでしょうか。
米澤さんは百も承知で、『Iの悲劇』というタイトルをつける魅力に抗えなかった、ということなのでしょうけど。
内容は、まさに「I(ターン)の悲劇」ですし。
これを読むと、公務員っていうのは、本当に大変な仕事だよなあ、と思わずにはいられません。
市民がみんな良識を持ち、誰に対しても最低限の礼儀を持って対応してくれるような人なら良いのだけれど、現実はもちろんそうではありません。
病院勤めをしていると、いろんな人と接する機会があるのですが、「権利意識は過剰なくらい持っているけれど、他者への気配りや感謝が驚くほど欠落している人」というのも少なからずいるのです。
それでも、公務員はそういう人たちが助けを求めてきたら無視できない(それは医者とか警察もそうです)。「お役所仕事しかしないくせに!」なんて罵られながら、高いレベルの奉仕を求められるのって、つらいですよね。
野心家で、自分の仕事はきっちりやって、出世したい「ザ・公務員」という設定のはずの主人公・万願寺。
彼は、そういう「計算高い人間」だからこそ、この「甦り課」の仕事にまっすぐに取り組むのです。
しかしながら、廃村にわざわざ移住してこよう、なんていう人たちは、みんな一癖も二癖もある。
そういう人たちが集団生活を送るようになれば、トラブルが起こるに決まっています。
田舎だからのんびりできる、と思いがちだけれど、実際に生活してみると、生活のインフラが整っていない田舎では、かえって、隣人との関係が重要になるのです。
Iターンを考えている人は、ぜひ、この『Iの悲劇』を読んでみていただきたい。
ただでさえ人口が減っている日本で、「過疎地をよみがえらせる」というのは、はたして正しいことなのか、と考え込まずにはいられなくなります。
行政側からすれば、人間をなるべく狭い地域に集めて、コンパクトシティ化するほうが、公共サービスの効率が上がるのは間違いありません。
人里離れたところに少数の人が住んでいれば、その人のためにゴミを収集したり、水道のメンテナンスをしたり、郵便を届けなければならないのだから。
ただ、その一方で、「住み慣れた土地を離れたくない」という人を強制移住させられるのか?そんな権利が誰かにあるのか?という問題もあるわけです。
赤の他人にとっては「こんな不便な場所」でも、本人には思い入れが深い、代々受け継いできた土地、でもある。
読み終えて、「しょうがないよなあ、これ……」と嘆息しつつも、この連作の「仕掛け」の上手さに感心せずにはいられませんでした。
米澤さんの「仕掛け」には、「パズルとしての面白さ」だけではなくて、読み手が「自分でも気づかずにいた、自分自身の残酷さ」にハッとさせられるところがあるのです。
「謎解き」としては完結しているのだけれど、人が生きることの「苦み」みたいなものが、後味として残される。
正直、ものすごく意外などんでん返し、でもないのです。
でも、これを「意外じゃない」と受け入れる自分に、少しうんざりしてしまいます。
個々の事件に関しては「出来すぎ」「うまくいきすぎ」な感じもするのですが、ものすごく読みやすくて面白く、そして読み終わるとなんだか切ない。
大人が米澤さんの作品を読む、その最初の1作に、ちょうどいい作品ではないかと思います。
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