琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 ☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
どんな紙でも見分けられる男・渡部が営む紙鑑定事務所。ある日そこに「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした女性が、彼氏の浮気調査をしてほしいと訪ねてくる。手がかりはプラモデルの写真一枚だけ。ダメ元で調査を始めた渡部は、伝説のプラモデル造形家・土生井と出会い、意外な真相にたどり着く。さらに翌々日、行方不明の妹を捜す女性が、妹の部屋にあったジオラマを持って渡部を訪ねてくる。土生井とともに調査を始めた渡部は、それが恐ろしい大量殺人計画を示唆していることを知り―。第18回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。


 第18回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
 どんな紙も視覚と触覚で見分けてしまう紙鑑定士と、隠遁生活をおくる伝説のプロモデラーがタッグを組んで、難事件に立ち向かう(というか、結果的にそうなってしまう)というミステリです。
 主人公・渡部のところに女性が尋ねてくるシーンを読んで、おお、なんかレイモンド・チャンドラーみたいだな、ハードボイルド!と思いながら読み始めたのですが、紙やプラモデルに関する蘊蓄の部分は、なかなか興味深いのです。
 僕も凝った装丁の本をみると感動してしまうのですが、表紙と本文の紙が別々の業者に発注されることがある、というのははじめて知りました。

 そういえば渡部さん、本業は紙の鑑定士さんなんですよね」と、唐突に晴子が訊いた。「紙を見ればそれが何か当てられるんですか」
「まあそうです。例えばこれ」私はビールジョッキを持ち上げてコースターを摘まんだ。「これは普通の印刷用紙ではなく、ファンシーペーパー、つまり特殊紙という種類になります。その中に、各メーカーごとに製造した銘柄があるわけです。コースターの場合は、王子エフテックスの<コースター原紙>とか、富士共和製紙の<SSコースター>、<特Aクッション>とかあるわけですが、この場合は最後の<特Aクッション>になりますね。名刺にも使われています」
 晴子が目を丸くした。「わー、どうしてわかるんですか?」
「日頃、サンプルを繰り返し触っていますからね、指先が感触を覚えているんです」と、私は親指と人差し指を擦り合わせた。


 正直、僕はモデラーになる人の気持ちはわからなくもないのですが(不器用なので自分ではまともに造れないのだけれど)、紙鑑定士、という仕事って、どういうきっかけで就くものなのだろうか、と不思議なのです。商社で偶然担当になった、とか、そういう理由なのだろうか。
 渡部の「エピソードゼロ」を読んでみたいような気がします。

 正直、ミステリとしては、「事件の側が、あまりにも紙鑑定士とプロモデラーに寄せられすぎている」というか、なんて御都合主義!と苦笑してしまうところも少なくありません。後半の車での移動のシーンなど、「ショーン・コネリー時代の『007』かよ!」と。
 犯人も動機がどうこうというより、単なるサイコっぽいし、「震災のトラウマ」を、あんまり安易に使ってほしくはないな、とも思います。
 でも、そういう御都合主義なところが、それはそれで、読んでいて楽しい、という気もするんですよ。
 リアルで沈鬱で誰も救われないのばかりが、「良いミステリ」である必要はないのだし。
 
 ニッチな専門職ミステリも、ここまで来たか、という作品ではありますね。
 個人的には、世の中に良質なミステリがたくさんあるなかで、そんなに優先順位は高くないな、という感じでした。


新装版 果てしなき渇き 上 (宝島社文庫)

新装版 果てしなき渇き 上 (宝島社文庫)

臨床真理 (角川文庫)

臨床真理 (角川文庫)

アクセスカウンター