琥珀色の戯言

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【読書感想】韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
政府の過剰に新自由主義的な政策により、すべての世代が競争に駆り立てられている「超格差社会」韓国。その現状を徹底ルポ!

第一章 過酷な受験競争と大峙洞キッズ
第二章 厳しさを増す若者就職事情
第三章 職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代
第四章 いくつになっても引退できない老人たち
第五章 分断を深める韓国社会


 いま(2019年11月)、日韓関係は冷え切った状態になっています。日本にいる僕にとって、いまの韓国は、二国間で取り決めたことを反故にして、ふたたび賠償を求めてきたり、自衛隊機に攻撃の意思があると受け取られて仕方がないようなレーザー照射をしたり、国民感情が、裁判の結果に大きく反映されて、犯した罪よりも重い量刑になったりする国、そんなイメージがあります。『冬のソナタ』が大ブームになった時期には、日本からは大勢の観光客が韓国を訪れていましたし、僕も釜山に行ったことはあるんですけどね(ちなみに、いち観光客として20年前くらいに訪れたときの印象は、心配していたほど日本人へのキツイ対応はなかったな、というものでした)。

 この新書は、西欧諸国が300年、日本が明治維新から100年かけて成し遂げてきた「近代化」を、太平洋戦争が終わってから、わずか30年で駆け抜け、そのおかげでさまざまな社会の歪みが生まれてしまった韓国の現状を紹介したものです。
 読むと、僕が子どもの頃に聞いていた韓国という国と、いまの韓国があまりにも変わってしまっていることに驚かされるのです。
 韓国は「儒教の国」で、年長者を敬う気持ちが強い、というのを『美味しんぼ』で読んだのですが、いまの韓国では、ITに疎い年寄りは「邪魔者」「老害」扱いで、日本のように年金制度も整備されてこなかったことから、かなり厳しい状況に置かれているのです。
 いまの30代以下では、「親を介護するのは子どもの義務」だと思わない人が大部分になっているそうです。
 50代以上では、年長者を敬う気持ちが遺っているので、急速な社会制度や考え方の変化により、世代間の断絶も大きくなっています。

 この本の最初の章では、子どもたちの教育格差や受験戦争の様子が紹介されているのです。
 日本でも「お受験」の過熱は問題になっているのですが、韓国は日本よりも強烈な学歴社会で、財閥系などの少数の大企業に就職できれば「勝ち組」になれるものの、日本のような中小企業の層が薄く、大企業か、公務員か、それとも「底辺、ブラック労働」か、という状況なのだそうです。

 韓国の教育政策は、基本的に金泳三政権の新自由主義的な方向を継承しながらも、政権ごとに受験による子供たちへの負担を軽減し、過度な課外教育を抑制するよう、さまざまな政策を行ってきた。しかし、これまで、その努力や政策は何ひとつ成功したとは言いがたい。
 学歴こそが激烈な競争社会を生き抜く力となる韓国社会では、親たちがすべてをかけて、子供の教育に邁進するからだ。
 教育部と統計庁が発表した「2017年小中高校の私教育費調査」によると、生徒一人あたりの月平均学校外教育費は27万1000ウォン(2019年11月20日の1ウォンは約0.09円)だった。これは調査が始まった2007年から、毎年上昇を続けている。少子化の影響で、学生数は減る一方だが、課外教育の市場規模も毎年史上最高を更新して19兆5000ウォンに上っている。
 過熱する教育ブームはさまざまな社会問題を引き起こしている。所得に比べて多額の教育費を支出して家計が赤字状態エデュプア(Education poor)に陥っている家庭は少なくなく、教育費への不安が、世界一低い出生率の大きな理由になっている。
 さらに深刻なのが、子供たちへのストレスだ。2018年の保健福祉部の調査によれば、「普段ストレスを非常に感じる、あるいは結構感じる」と答えた児童は全体の16%くらいだったが、その原因としては「宿題や試験のため」という答えが60%で最も多かった。また、韓国の児童の70%以上が時間が足りないと感じており、その理由は、学校の授業や塾の授業などの「学習関連」が70%以上を占めた。OECD36加盟国のうち、韓国青少年の生活満足度が最下位なのは、こうした学業ストレスと深い関連がある、と見て間違いなさそうだ。
 韓国政府はあらゆる政策を動員して、課外教育の抑制と教育機会の均等を図っている。しかし、皮肉にも親の経済力による教育格差は大きくなる一方で、2018年6月の韓国統計庁の資料によると、所得上位20%の月平均課外教育費は下位20%の約27倍にも達している。


 あまりにも教育格差が広がってしまった韓国の社会では、「金持ちの家に生まれるか、貧乏人の家に生まれるかで、一生が決まってしまう」という諦めが若者たちの間にみられているそうです。
 「勝ち組」になるための自由競争の結果、こうなってしまったわけで、国も教育格差を問題視していて、さまざまな政策で格差の是正を試みているのですが、教育産業は、すぐにその変化に対応してしまいます。
 「子どもを熱心に教育するのが悪いことなのか? お金があるなら、教育に使うのは良いことではないのか」と言われれば、自由競争社会では、それを認めざるをえません。

 中間層の親たちも、身を削って子どもたちを有名大学に行かせようとするのです。
 こうして、競争はさらに激しくなっていく。

 その競争からこぼれてしまった、あるいは、競争に参加することすらできなかった若者たちは、仮想通貨で一発逆転を狙うしかない。仮想通貨取引の過熱による被害が広がり、政府はこれを規制しようとしましたが、韓国の若者たちは強く反発しています。

 今、韓国の若者たちの間では、いくら頑張っても親から受け継いだ地位を変えることはできない、自分の階層は変わらないという考えが支配的だ。階層移動ができなくなった社会で、「仮想通貨」だけが投資した分だけ稼ぐチャンスを得られる。公正に機会を与えてくれる」と、彼らは主張するのだ。


 サムスンなどの大企業の門はあまりにも狭く、中小企業の待遇は劣悪で、いつ会社がなくなるかわからない。
 若者たちは、安定している公務員を志望するけれども、ものすごい競争率になっているそうです。
 OECD加盟国のなかで、もっとも青年の自殺率が高い国、韓国。

 韓国の青年世代を指す流行語に、「N放世代」という自虐的な言葉がある。「すべて」を表す不定数の「N」に、「あきらめる」という韓国語の頭文字である「放」を合成した「N放世代」は、厳しい経済状況のため、すべてをあきらめて生きる世代という意味だ。
 恋愛、結婚、出産をあきらめる「三放世代」という造語が誕生したのが2011年で、その後、青年失業率の増加と非正規労働者の増加がマスコミで大々的に報じられるようになった2015年頃から流行語として盛んに使われるようになった。以降、三放に加えて就職やマイホームもあきらめる「五放世代」、さらに人間関係や夢までもあきらめざるを得ない「七放世代」を経て、今や人生のすべてをあきらめたまま生きる「N放世代」へと進化したのだ。


 韓国の人々が抱えている問題というのは、日本と同じであることを思い知らされます。
 ネットで韓国を批判している日本の若者たちは(実際は若いネトウヨというのは少ないらしいのですが)、「あの国の理不尽さ」を批判しがちだけれど、実情を知れば、韓国の若者たちに共感できるところが多いのではないでしょうか。
 
 中年世代は、教育費や介護が重くのしかかり、会社内での競争で、いつリストラされるかわからない。
 どんなエリートでも、リタイア後の収入源として、「チキン店経営」に行きついてしまうのが現実なのです。
 
 高齢者は、スマートフォンで手続きができないために、すっかり減ってしまった「人がいる窓口」を探して、行列に並ぶしかない。
 年金制度ができたのが遅かったので、もらえる人も額が少なく、生活は厳しい。

 そんななかでも、政府の要人になれば、甘い汁を吸えるし、子どもはエリート校にラクに入学できる。
 
 こんな社会で生活していれば、「反日」とか、「汚職をした政府高官や大企業の上層部への強硬な批判や裁判への圧力」で、ストレスをぶちまけなければやってられないのかもしれないな、とさえ思えてきます。
 もちろん、そのストレスをぶつけられる側としては、勘弁してくれ……としか言いようがないのだけれど。

 韓国は、「近代化」「資本主義化」をあまりに短期間で成し遂げてきただけに、「資本主義社会」「自由競争社会」を、緩衝材なしに突き詰めてしまったようにも見えるのです。
 近代化に100年かけた日本は、長年の停滞を指摘されることが多いのですが、その代わり、韓国よりは「ゆるく生き延びやすい隙間」みたいなものが、まだ残されているような気がします。

 

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