琥珀色の戯言

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【映画感想】キングダム2 遥かなる大地へ ☆☆☆☆

春秋戦国時代、中華の西方にある国・秦。身寄りのない信(山崎賢人)が若き王・エイ政(吉沢亮)に協力し、玉座を奪還して半年。隣国の魏が秦に侵攻を開始する。秦軍に歩兵として加わった信は、子供のような姿の羌カイ(清野菜名)らと共に伍(5人組)を組むことになる。決戦の地・蛇甘(だかん)平原に到達した信たちだったが、戦況は絶望的な惨状だった。


kingdom-the-movie.jp


2022年15作目の映画館での鑑賞です。
平日の夕方からの回で、観客は50人くらい。公開初週ということもあり、かなり賑わっていました。

『キングダム』の原作に関しては、序盤というか、1巻しか読んでおらず、『アメトーク』の『キングダム芸人』の回を観たくらいの知識しかないので、原作との比較はできないのですが、前作はけっこう楽しめました。


fujipon.hatenadiary.com


国史好きで、高校のとき『史記』を全部読んだ僕としては、ツッコミどころ満載の映画ではあるんですよ。
最初のほうに、魏の占領した城での残虐行為が明かされるのですが、「そうやって被害者ぶっているけれど、秦だって捕虜にした敵兵数十万人を生き埋めにしているじゃないか」とか、つい言いたくなってしまうのです(時代的には、この映画の後の話にはなりますが)。
 
この『キングダム2 遥かなる大地へ』では、「舞台がいよいよ戦場へ!」なのですが、ここまで上映時間を使って、「ひとつの戦場」を描くとは思いませんでした。このペースで実写化映画化していったら、どのくらい時間がかかるのだろう……

都合よく出てくる無敵キャラ!
圧倒的に有利な状況でも一騎打ちに応じてしまう将軍!(銀英伝の10巻かよ!)
観ていて、「おお、『300(スリーハンドレッド)』だ!」とニヤニヤしてしまうシーンもありました。

秦王政のゆるゆるの警護と、王とベタベタしてなれなれしく話しかけられるのに、戦場では「一歩兵扱い」の信。
「いかにも佐藤浩市がやりそうな役」(呂不韋)を、やっぱりやっている佐藤浩市さん。
あんなにポスターに大きく載っているのに、橋本環奈さんと吉沢亮さん、そして大沢たかおさんまでが、今回の『2』では、ゲストキャラっぽいというか、あんまり見せ場がないんですよね。

信と清野菜名さんがやたらと強くて次から次へと訪れるピンチを斬って斬って斬りまくる、というアクション映画になっているのですが、原作って、こんな話なのだろうか……(それはそれで、マンガかアニメを確認してみるつもりではいます)

この映画を観る前に実写映画『キングダム(1)』を復習したのですが、「結局、少人数で大勢の敵に斬り込んで勝つだけの映画だな」というのが、あらためて観返してみての感想でした。

この『2』の大軍勢の迫力は邦画としてはかなりのもので、ぜひ映画館の大画面(できれば音響も良いところで)観ていただきたいのですが、基本的なストーリーは『1』と同じ、「不利な状況からの逆転劇」なんですよ。
秦と他の六国(斉・趙・魏・韓・燕・楚)が合従・連衡でしのぎを削っていたあの時代を「戦略、謀略」で描くのではなく、ここまで躊躇なく「成り上がりアクション映画」の舞台にしてしまったのは、むしろ清々しくもあります。

登場人物のアクションも「目で追えるくらいのスピードで、しっかり戦っているのがわかる」んですよね。
ハリウッド映画では、ひたすら「速さ」を追求するあまり「何をやっているのかわからない戦闘シーン」をよく見かけるのですが、僕はただ目が疲れるだけに感じてしまうので。

やっぱり、清野菜名さんのアクションは凄かった。
ベヨネッタ』みたいなリアリティを超越した動きも、清野さんがやっている、と思えば、なんだか説得力があるのです。
橋本環奈さんが出番的に寂しい感じだったので、なおさら清野さんのヒロイン感が強かった。


まあ、あれこれ書いてはきたのですが、僕自身は、この映画、すごく楽しめました。
「史実に対して云々」と言いはじめたらキリがないし、中国史好きとしては、どうしてもそういうことを言いたくなるのです。

でも、これほど壮大な「大衆娯楽映画」って、稀有ですよね。

「思いっきりお金をかけて、豪華キャストで中国を舞台にして現代によみがえった山田風太郎さんのエンターテインメント時代劇」のような観かたで、「うわっ、王騎出たぁ!」と画面を観ながらニヤニヤし、多少の(どころじゃないんですが)理不尽な展開も「これが『戦場』というものです」という言葉に、そういうものなのか……と納得させられてしまう。
終わってみれば、「結局、チャンバラばっかり見せられた気がするけど、なんだかスッキリしたなあ!この先どうなるんだろうなあ!」と日頃の悩みをリセットして家路につくことができる。

『キングダム』がきっかけになって、『中国史』に興味を持ち、史実の秦王政(始皇帝)や呂不韋、秦の王翦や白起、そして、廉頗や藺相如のような他国の名将たちの事績をWikipediaで数珠繋ぎに検索し、睡眠時間を削ってしまった人も多いはずです。というか、僕がそうでした。


hajimete-sangokushi.com


この故事など、のちの蜀漢馬謖のことを思い出しますし、「平時の智謀の士や勇者であっても、それが有事や戦場で活かされ、勝ちにつながるとは限らない」のです。
後世からみたら、「こんな人事は、起用するほうもされるほうも不幸としか言いようがない」のだけれど。
馬謖も、ああいう形で抜擢されず、地道にキャリアを積んでいけば、あるいは、最初は前線ではないポジションを与えられていたら、蜀を支える名将に成長していたかもしれないな、と僕は思うのです。諸葛孔明ほどの賢者であっても、(結果的には)馬謖の「使いどころ」を誤ってしまった。


余談が過ぎました。

『キングダム2』は、本当によくできた「大衆娯楽作品」です。
そして、「なんのかんの言っても、『ドラマとしての戦場や戦争』というのは、人を引き付ける力があるんだよな……」と考えずにはいられなかったことも告白しておきます。


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