琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
「好きな本は何ですか?」と聞かれたら、「台本です」。そう答えるくらい、僕は台本(ホン)が好きです。そして、この歳になって、気づきました。いかにして台詞を生きるかは、いかにして自分を生きるかだと──。いいことも、悪いことも、ぜんぶ受け入れて、そして手放す。すると直感が、降りてくる。数々の台詞を生きて見えてきた、自分の原点、家族のすがた、生と死のかたち。名台詞がおしえてくれる、いまを生きる知恵と人生の意味。『真田丸』『なつぞら』をはじめ代表作の台詞に受けた直感から母との思い出まで、初めて語る本音の独白! オフィシャル&秘蔵スナップも収録!


 草刈正雄さんが、出演した作品の名台詞とともに、自らの役者人生について語る本です。
 僕が子どもの頃、草刈さんは『復活の日』とか『汚れた英雄』とかの角川映画に主演していて、今でいう「イケメン主演俳優の代表格」みたいな存在でした。
 僕にとっては「カッコよく生まれてきた人は得だよなあ」なんて思う存在だったわけですが、この本を読むと、草刈さんは不器用な人で、役者としても「主役級のイケメン」であるがゆえに、年齢とともに自分の役者としての立ち位置に苦しんだり、仕事に恵まれずに荒れた時期もあったりしたということを知りました。
 アメリカの軍人だったお父さんが朝鮮戦争で亡くなったあと、お母さんと二人で北九州で生活をしていて、ずっと「仲は良いけれど、甘えたり、本音を言えるような関係ではなかった」ということなども書かれています。

 演技とは何でしょう。訓練も勉強も受けずにいまに至ります。
 振り返れば、現場では失敗の連続でした。
 モデルからスタートしてテレビドラマ、映画とキャスティングされましたが、とにかく綺麗な女優さんに圧倒され、自然に動くことさえおぼつかない。女性の肩に手をまわすだけでもひと苦労。おまけに求められている役柄はカッコいい二枚目が多く、地のままの自分とはかけ離れている──余裕などまったくなく、現場がそのままトライ&エラーの場となりました。

 まず、見る。じっと、台本を見る。最初は目からが僕のやり方で、ホンの頁を写真のようにパッと目にうつす。ひと通り覚えたな、と思った段階で、口に出してみます。それからは、どこに行くのもホンと一緒。必ず持ち歩き、ぶつぶつぶつぶつ呟きます。周囲からは、
「おかしいですよ、それ。ヘンなおじさんに思われますよ」
 と、しょっちゅう言われますが。
 つっかえずにスラスラ言えるようになると、次の段階です。テニスが好きで若い頃からずっとやっているんですが、テニスをしながら、試合をしながら、台詞をやる。ボボボボと口に出しながら、ボールを追う。他のことに気持ちを集中させながらも体から台詞が出てくるようになれば、本物です。台詞と自分、一体化完了。
 とにかく不器用で気のちっちゃい男なので、そこまでやらないと現場に行けません。だから、長台詞があるときは大変です。家でも外でも、声を出すのが台詞だけなんてことがある。逆に、台詞さえ体に入っていれば、なんにでもなれるし、なんでもできる。感情はなくてもいいんです。とにかく、まずは、台詞を入れる。感情なんて、あとから付いてきますから。台詞から生まれる不思議な生き物、それが役者ではないでしょうか。


 この本のなかでは、草刈さんにとっての代表作として、『真田太平記』(真田幸村役)、『真田丸』(真田昌幸役)、『なつぞら』(柴田泰樹役)の3作のことが主に語られています。
 長年、役者として活躍されている草刈さんんですが、1985~86年のNHK大河ドラマ真田太平記』では、真田幸村(信繁)を演じられました。そのときの幸村の父・昌幸役が丹波哲郎さんで、当時、草刈さんは、共演者である丹波さんに魅了されていたそうです。
 それから30年経って、『真田太平記』を熱心に観ていたという三谷幸喜さんと出会い、2016年の『真田丸』で、今度は草刈さんが真田昌幸を演じることになりました。

 67年も生きていると、いろいろなことがあります。二度と立ち直れない、と思ったこともありました。振り返れば、時の流れと共に自分があります。最近では65歳を過ぎた頃からガクンと体力が落ちて、鬱っぽい気分から抜けられない日もあるのですが、その反動でしょうか、仕事に対するエネルギーは若い頃より上がった気がするのです。大事に、丁寧に、臨めるようになった。必死で取り組んでいれば、自然に反映される。その積み重ねに、直感的に素直になれるかどうかだと思っています。
 大河ドラマ真田丸』の昌幸役は、長年のファンばかりでなく多くの方々が受け入れてくれるきっかけになりました。僕の役者人生で、迷うことなく「一番」といえる作品です。仕事を続けてきて40年以上経たうえでなお、集大成といえる作品に恵まれたのですから、これ以上の幸せはありません。
 三谷幸喜さんという類まれなるクリエイターとの出逢いは、僕にとって、第二の人生の転機です。一度目は、20代の役者デビューのとき。そして、新たな役者人生が始まった二度目が、三谷さんとの出逢い。60代のいま、このときです。


 迷いなく、『真田丸』が一番といえる作品、だと語っている草刈さんに、なんだか読んでいるほうも心を揺さぶられました。
 僕自身も、『真田丸』での昌幸役を観るまで、草刈正雄という役者が、ここまで「えたいの知れない人」であることを知りませんでした。ずっと「カッコいい人」のイメージで見つづけてきたのです。
 人は、還暦を過ぎてからでも、「自分の一番良い仕事」に巡り合うことができるのだなあ。

「昌幸が人を欺く場面では、どんなことを考えて演じていますか?」
 撮影中、堺雅人くんからこう訊かれたとき、
「全部、直球」
 と答えました。意味ありげな表情をつくるような芝居はせず、「二枚舌」といわれる場面でもすべて直球で挑みました。だからこそ、
<大博打の始まりじゃあ!!>
 という、その翌週の台詞はじつに気持ちよかったですね。最も心に残った決め台詞でもあります。


 役者にとって「演じる」ということは、どういうことなんだろう、と思うんですよ。
 いろんな役作りをして、理論的に演じる人もいれば、「演じる」という姿勢を忘れたときに「名演技」が生まれることもある。
 木村拓哉さんは「何を演じてもキムタク」なんて言われがちで、僕も長年そう思っていたのですが、最近は、「何を演じてもその人に見えてしまう」って、実はすごいことなのではないか、と感じるんですよ。もちろん、その役者さんに求められる仕事というのがあって、主役級じゃないと単なる大根役者だとみなされそうではありますが。

 若い頃の活躍から、長年の雌伏の末、老境といえる年齢になってから、それまで貯め込んだ経験を活かして存在感を示す。
 真田昌幸という人の生きざまは、草刈正雄さんの役者人生と重なっているようにも思われます。

 読むと、草刈正雄さんが出ている番組を、また観返したくなる、そんな本です。


 

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