- 作者:ミアン・サミ
- 発売日: 2020/08/11
- メディア: 新書
現金預金は、勝率の低いギャンブルである。
本書は、投資への不安や迷いを一気に吹きとばすほどの衝撃を与えるはずだ。
30代で資産10億円を築いた筆者が、
「自動投資(β)」「楽しむ投資(α)」「教養投資(λ)」という革命的な方法論を初心者にもわかりやすく紹介。
未来が不安でも大丈夫。
現代を生き抜くために、教養としての投資を身につけ、あなたの「理想のライフスタイル」を実現しよう。
タイトルに「教養としての~」なんて書いてあると、「ちょっとこれは用心して読まないといけないな」と僕は考えてしまうのです。
自分でブログを書くときも、「教養としての~」ってつけるときには、けっこう「読んでもらうためのフック(いわゆる『釣りタイトル』的なもの」)という意識を持っているので。
でも、この『教養としての投資入門』は、なかなか良い本だと思いました。
僕自身、1年半くらい前に、自分ではじめてみるまでは、投資という、働かずにお金を儲けようとする行為を、なんだか邪悪で後ろめたいもののように感じていて、下手に関わったら騙されて大損するぞ、と銀行の人に薦められるまま、元本保証の金融商品と投資信託を少し持っていた程度だったのです。
本書では、投資の原理原則を「βαλ(バル)の法則」と呼びます。
混沌と存在する投資の情報や知識を整理整頓し、できるだけコンパクトにまとめたのがこの法則です。
一見難しいように思える投資ですが、実は、β、α、λという三つの要素の足し算で表現できます。
β=「自動投資」とは、リスクが低く、気軽に資産を増やすことができるため、すべての人が取り組むべき投資です。
α=「楽しむ投資」は、勝てる確率は低くなりますが、長期的に行うことで、勝率を上げることができるボーナス的な面白さのある投資です。ボーナスどころか、あなたの人生を180度ひっくり返すほどの威力のある投資でもあります。
λ=「教育投資」は、あなたの生涯収入を劇的にアップしてくれる可能性がある優れた投資であり、「理想のライフスタイル」を手に入れるために最も効率のいい方法です。教育投資は、自分がレベルアップしていくようなゲーム感覚の楽しさがあります。
これをすべて合わせたものが、「投資」から得られるリターンであり、あなたの生涯収入です。投資の原理原則である、「βαλの法則」を理解し、実践することで、大局観を持って生きていくことができます。
いろんなことが書いてあるのですが、この本を読むと、これまで「投資でお金を儲ける」ということに対して感じていた罪悪感、みたいなものが薄れていくのです。
日本人は投資を好まず、貯金を好む傾向があるということはよく知られた事実です。
家計に占める現金・預金の割合を見ると、日本は53.3%であるのに対して、米国では12.9%、ユーロエリアでは34.0%になっています。さらに、債券、投資信託、株式等といった金融資産の家計に占める割合を見てみると、日本は15.2%に対して、米国は52.8%、ユーロエリアは29.9%になっており、日本の資産運用の低さは明らかです。
誤解(1)投資はリスクが高い
投資をしない理由で、筆頭に挙げられる声は、「投資のリスクが怖い」というものです。
「せっかく一生懸命に働いて手に入れたお金を、投資をして失うのは避けたい」という損失回避の声が多く聞かれます。
真実(1)「現金投資」のリスクは高い
これはほとんどの人が誤解している点です。投資はリスクがあると言いながら、現金を持ち続けることこそが、そもそも投資だということを理解していないのです。
現金という資産に長期投資することほど、リスクが高い投資行動はありません。
なぜなら、経済ショック後に現金需要が高まったとしても、長期的には現金の価値は確実に目減りするからです。
「現金を持ち続けることこそが、そもそも投資である」か……
「貯金」と「投資」って、対立する概念というか、「堅実」と「賭け」というイメージを持っていたのですが、現金の価値そのものが変動していくことを考えると、確かに「現金という金融商品を買っているのと同じ」なんですよね。
著者は、β=「自動投資」で、生活していくのにどうしても必要なお金を得ていくことをすすめています。
長期分散投資をやれば、社会情勢や景気の変動で一時的に資産が減ることがあっても、世界の経済発展にともなって、確実にお金は増えていく(はず)なのです。
これまでの人類の歴史をみても、経済は発展を続けているし、一度に大儲けしようとか、自分の感覚に頼ろうとかせずに、長い目で投資を続けていくことが大事なのです。
いや、こういう「長期分散投資をひたすら続けろ」という話って、いろんな「お金の本」に書かれていることなのですが、いざ自分のこととなってみると、本のグラフで見るよりも、「10年」いや、「1年」でさえずっと長く感じるし、コロナショックなどでどんどん株価が下がり、資産が減っていくのをみると、「早く損切りして、被害を最小限にしたほうが良いのではないか」と不安に駆られてしまうんですよね。
「長期投資」という方法は正しいし、簡単であっても、それを実際に続けていくことが、人間には難しい。
この本を読むと、著者自身も、これまでにさまざまな失敗をしてきたことを告白しています。
約10年前、20代の間に次々と失敗をし、総額3億円以上を失いました。
そのうち株式投資では約300万円を失いました。当時証券マンだった私は、社内規定により、株式取引ができる金額が制限されていました(もし、制限されていなかったら、もっと多くのお金を失っていたと思います。今思えば不幸中の幸いでした)。
FXは、その存在を知った瞬間にすぐに飛びつきました。しかし、毎秒毎分ごとに変わるデータを確認するため眠れない日々が続き、極度の睡眠不足に陥りました。3ヵ月後には、心身ともに疲弊しきった挙げ句、700万円という大きな資産を失いました。
それと並行して行っていた映画投資では2000万円を失いました。さらに海外不動産投資では、6000万円という膨大な資産を失い、自己破産寸前にまで追い込まれました。
当時の私は、羽振りがよく見えたのでしょう。「サミさんは資産家だから節税投資をした方がいいですよ」という悪魔のアドバイスを受け、その通りに行った結果、さらに1億円を失いました。また、太陽光発電や飲食業の事業への投資でも1億円以上が消えました。
金融業界にいたにもかかわらず、投資の本質を知らない無知であったがために、カモにされたのです。
私が3億円の資産を失った大きな理由は明確です。私自身が「投資」だと思って行っていたものは、投資ではなく、すべて「投機」、つまりギャンブルだったのです。
短期的に儲けることを考えて、アドレナリンの快感に酔いながら、暴走するのが投機です。
そのことを知った私は、その後一切のギャンブルをやめ、投資の本質について学び原理原則に則った自動投資と楽しむ投資だけをするようになりました。楽しむ投資は、長期的に、科学的に勝率を上げることを楽しんでいくという投資法です。
こういう人でも、こんな失敗をしてきたのか……と親しみを感じる一方で、こういうエピソードって、YouTubeの怪しい情報商材(「私はこうして素晴らしい人生を手に入れました!あなたにだけこの成功の秘密を教えます!この動画はいつ消えるかわかりません!」って言いながら、ずっと消えずに流され続けているやつです)の広告みたいだな……と身構えてしまうところもあるのです。
この本は「投資」というものが「悪」ではないということや、「手数料」などの些細に見える数字に注意したほうがいい、というような、「たぶん、正しいこと」が書かれているのですが、内容を鵜呑みにはしないほうが良いと思います。
さて、普通に考えて、片手間に投資をするあなたが、プロやAIに勝てる見込みはどのくらいあるでしょうか。
一般的に、金融知識がないアマチュアの人が楽しむ投資で継続的に勝てる確率は、オリンピックで金メダルを獲得する可能性よりも低いと言われています。
また、世界的な投資家であるウォーレン・バフェットの右腕であるチャーリー・マンガーの、投資に勝つことがいかに難しいかを表す有名なエピソードがあります。ある会食の場で、プロの投資家ではない人が、マンガー氏に次のような質問をしたそうです。
「投資はどうして儲からないんでしょうね?」
と。すると彼は「投資で勝てると思っているなんてバカか!」
と返答したそうです。
この回答の意味は、投資を片手間でやっているアマチュアの人が、プロの投資家に勝てると思うこと自体があり得ない話であり、妄想レベルの発想だということです。
投資というのは、ダイエットに似ているのではないか、と僕は思うのです。
正しい方法(食事制限と運動、投資の場合は、長期分散投資)は、みんな理解しているし、それを時間をかけて確実にやれば成功するはずなのに、「みんなが知らない、ラクですぐに結果が出るやり方」を求めて、失敗してしまうのだよなあ。