琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】MARVEL 倒産から逆転No.1となった映画会社の知られざる秘密 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

マーベル・スタジオはなぜ驚異的な成功を収められたのか? その問いにビジネス、クリエイティブ両面から答えを出すビジネス・ノンフィクションが待望の邦訳で登場! スタン・リーの登場からまさかの経営危機、ヒーローを抵当に入れての一発逆転劇など、世界一注目されるエンターテインメント企業の舞台裏を緻密な取材で描き出す、マーベル・ファンのみならず全ビジネスマン必読の一冊!


 「アメコミ」というものに対して、僕は長年、「単純な勧善懲悪もので、日本のマンガに比べるとジャンルの広がりも緻密さも劣っている」と思っていたのです。
 「アメコミ映画」なんて、わざわざ映画館で観なくても、DVDになったときに、気が向けば観ればいいか……と。
 ところが、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』(2002~)シリーズやクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』で、そのイメージは大きく変わっていったのです。
 『MARVEL』のヒーロー映画も、『アイアンマン』や『マイティ・ソー』の1作目は、「アメリカでは大ヒットといってもねえ……と」という感じで、日本の観客動員はいまひとつだったのですが、『アベンジャーズ』で風向きが変わり、いまや、日本でも『MARVEL』ブランドを確立した印象もあります。
 僕自身は、『アイアンマン』の頃から、けっこう『MARVEL』の映画を観ていて、「時間つぶしのつもりで観たけど、案外面白いな」と感心していました。

 この本、20世紀のはじめに、アメリカのニューススタンド(道沿いの新聞や雑誌の販売所)で売られていた「安づくりの雑誌(パルプ・マガジン)」からはじまった『マーベル・コミック』が、さまざまなスーパー・ヒーローを生み出し、隆盛を極めるものの、第二次世界大戦後の社会情勢の変化に翻弄されていく様子が描かれています。

 1950年代に精神科医フレデリック・ワーサムが『サタデー・レビュー・オブ・リテラチャー』にコミックは子供たちに悪い影響を与え、未成年を非行に走らせるといった記事を書いたことで、コミックは批判にさらされた。
 ワーサムは1954年に発表した『無垢の誘惑』(Seduction of the Innocent)という著作でコミックに対する攻撃をさらに強め、ホラーや犯罪や戦争を描くものを特に強く批判した。その結果、コミックに対する公聴会まで開かれた。
 コミックを刊行する出版社は1930年代に映画会社が導入したヘイズ・コードにならって題材や表現に制限をかけたものの、人気は凋落した。
 (マーティン・)グッドマンのコミック関連の売上は1953年にはひと月に1500万ドルあったが、1955年には460万ドルまで落ち込んだ。生き残るにはコスト削減をはかり、出版点数を激減させるしかない。そしてある時点でグッドマンは(スタン・)リーに全スタッフの解雇を命じた。
 その結果、社員としてはリーのみが残った。
「ほんとに大変だったよ」とリーは当時を思い出す。
「みんな一緒に働いてくれていたし、あの人たちの家族も知っている。なのに、僕はあの人たちを辞めさせなければならなかった。グッドマンがどうして僕を残したのかわからない。きっとまたチャンスが訪れるから、コミックをすべて捨ててしまうのは惜しいと思ったのかもしれない。
 グッドマンの会社は出版点数を数点に抑え込み、もはやどれも話題になることはなかった。

 いまの『MARVEL』には、次から次に人気作品を生み出す、すごい会社というイメージがあるのですが、その歴史においては、何度も経営危機に陥り、倒産も経験しているのです。
 「コミック有害論」がアメリカにもあって、しかも、こんなに売上が減るほどの影響があった、というのは知りませんでした。
 「自由の国」は、一度バランスが崩れると、過激な行動や極端な偏りを生み出してきたのです。「赤狩り」も然り。

 残ったスタン・リーが新たなヒーローを創造し、それが大人気になったことで、MARVELはこの危機を脱することができたのですが、その後も、商売下手で自分たちが生み出したキャラクターをうまくお金にすることができずに迷走し、ついには倒産してしまうまでの経緯も描かれています。
 その一方で、さまざまな業界の「マーベル・コミックのヒーローを子どもの頃から愛し続けてきた人たち」がサポートしてくれたり経営に参画したりして、MARVELは何度もよみがえってきたのです。
 コミックが売れなくなったら、キャラクタービジネスを展開し、ついに、映画ビジネスに乗り出していくのです。

 そのなかで、低迷期に売却してしまった『スパイダーマン』の権利をめぐる訴訟も起こっています。

スパイダーマン』(サム・ライミ監督のシリーズ)の大ヒットにもかかわらず、マーベルは思ったほどの収入が得られなかった。ソニーから最初に1000万ドル、2002年のロイヤリティ収入として1100万ドル支払われただけである。確かにマーベルのキャラクターのグッズの売上は2002年に69パーセント上昇し、1億5500万円の利益を得たが、契約通りこのうちの大半をソニーときっちり折半しなければならなかった。
「ビジネスがわかってくると、5パーセントのロイヤルティはわずかなものだし、DVDの契約はさらに人をバカにしたような額でした」と(アヴィ・)アラッドは言う。
 それからアラッドは契約改善に乗り出すが、うまくいかなかった。
 せめてマーベルは純利益ではなく総売上に対してロイヤルティ収入を得られるように求めた。映画制作会社は映画がかなりの収入を生み出したにもかかわらず、純利益はそれほどではないと言い訳することがよくあるからだ。
 だが、アラッドがさらに腹立たしく思ったのは、ソニーが示したスパイダーマンが売れているのはソニーあってのことであり、マーベルはこれまで何もしてこなかったという不遜な態度だ。
ソニースパイダーマンは自分たちのものであるというような顔をしました。スパイダーマンはマーベルのものなのに、あのキャラクターの利益を全部吸い取ろうとします」
 アラッドは不満を漏らし、ただちに対抗策を取る。アイザック・パルムッターに8万ドル工面してもらい、マーベルのロゴを打ち出すアニメーション映像をつくることにしたのだ。
 パルムッターはそれでどうなるかわからなかったが、アラッドは頼み込んで制作資金を出してもらった。こうしてコミックをめくるイメージからはじまってマーベルのキャラクターが順に登場する。あのマーベル・スタジオ・アニメーション映像が作り出され、『スパイダーマン』からすべてのマーベルのヒーロー映画の冒頭に使われるようになった。以来、新作ができるたびにそこで最新版を見ることができる。


 僕はあの映画の冒頭のマーベルのキャラクターがコミックから次々と出てくる映像を観るたびに「これからMARVELの映画がはじまるんだな」とワクワクするのですが、あれが「恒例」になったのには、こんな背景があったんですね。
 あれは、「このキャラクターを生んだのは我々だ」という、MARVELの矜持を示した映像だったのです。


 『アイアンマン』に関するこんなエピソードも紹介されています。

 だが、いちばん重要な役は言うまでもなくトニー・スタークだった。
 ティモシー・オリファントがオーディションを受けたと言われているし、ヒュー・ジャックマンクライヴ・オーウェンサム・ロックウェルの名前も挙がった。
 だが、ジョン・ファヴロー(監督)の頭にはロバート・ダウニー・ジュニアしかなかった。ダウニーの『キスキス、バンバン』(2005)の芝居にやられてしまったのだ。それよりも役者ロバート・ダウニー・ジュニアの人生がトニー・スタークの人物像に深みをもたらすと思ったのだ。
「大衆はロバートの人生の頂上もどん底も見てるからね」とファヴローは述べている。
「仕事とはまるで関係ないところにいくつも障害を抱えていて、心のバランスを保ってすべて乗り越えなければならなかったんだ。まさにトニー・スタークだよ。高校になじめない、彼女ができないといったことに悩むキャラクターたちとは別次元の深みをロバートはもたらしてくれる」
 加えてファヴローは信じていた。ロバート・ダウニー・ジュニアはチャーミングな役者だから、好ましい変わり者を感情豊かに演じて、観客を魅了するに違いないと。
 ファヴロー以外は誰もダウニーを望まなかった。
「ロバートの名前を出すと、みんなに反対されたよ」
 かつて薬物に溺れ、常軌を逸した行動を繰り返したことが問題視されたのだ。
 加えて歳も取り過ぎていたからだ。
「彼らが求める役者より10歳は年がいっていた。40を超えていたからね。だからこそ、彼がいいと思ったんだ。彼らはロバートを嫌って、『だめだ、あの男にトニー・スタークはやらせない』って言われた。確かにロバートを起用するのはすごくリスクの高い賭けになると思った。みんなもっと若くて悪い噂のない役者を望んでいたけど、『それでは「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジョニー・デップみたいなことになってしまう』と思ったんだ。そんなことになれば、映画は決まりきったものにしかならないし、何の驚きもない。スパイダーマンの中年版をつくるようなものだ」
 ダウニーもアイアンマンを何としても演じたいと思っていた。
「ロバート・ダウニー・ジュニアはこの役が絶対にほしかったし、僕も同じように彼に演じてほしいと思っていた」とファヴローは思い出す。
「この役は誰にも渡したくなかった。『チャーリー』以来、そんなふうに思ったことはない。配役のオーディションを受けることになったのも、『チャーリー』以来だ」


 僕にとって、アイアンマン=トニー・スターク=ロバート・ダウニー・ジュニアだったので、この配役が決まるまでに、こんなに反対だらけだったのか、と驚いたのです。
 こういう経緯を知らないと、はまり役だとしか思えなかったので。
 これを読んで、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のクライマックスでの、アイアンマンのセリフを思い出すと、感慨深いものがありますね。
 ロバート・ダウニー・ジュニアは、演じていくなかで、「自分こそが『アイアンマン』である」ことを証明したのだよなあ。

 MARVELの映画は大好きだけれど、最近の映画以外のMARVELはよく知らない、という人にとっては、コンパクトにまとめられていて読みやすい「MARVELの歴史」だと思います。


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