琥珀色の戯言

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【読書感想】陸上自衛隊ますらお日記 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

Twitter15万フォロワー超え!知られざる”自衛隊ライフ”が1冊に。
SNSで話題沸騰中の元陸上自衛官・ぱやぱやくん(@paya_paya_kun)が描く、愛とユーモアに溢れた自衛隊ライフがついに書籍化!

陸上自衛隊」と聞くとみなさんはどんなイメージがありますか?
おそらくは戦車に乗っている姿、災害派遣で活躍している姿、厳しい訓練をしている姿などが浮かぶのではないでしょうか。
ただ、それはあくまでもオンの姿。下記のような知られざるオフの姿もあります。

●入隊して最初に学ぶのは「針仕事」。良き陸上自衛官とは良き家政夫/婦でもある。
●マイ小銃には「ジョニー」「太郎」などあだ名をつけて愛でる。
●「歩く速度」「食事の速度」などが普通の人よりも1.5倍ほど早いため、日常生活が倍速で進む。

などなど…。自衛隊の”ますらお”たちはユニークなエピソードが盛りだくさん。
この本ではそういった与太話を集め、陸上自衛官のユーモア溢れる日常や恋愛事情、家族生活などを描く史上初の本です(おそらく)。
何か生活に役立つメソッドが身につくわけではありませんが、「自衛隊の無駄知識がすごく深まったぞ!」と思って頂ければそれで十分です。


 訓練や任務などの「厳しい面」にはあえて深くは触れず(そういうところを描いた本や記事は探せばたくさんありますし)、自衛隊員はどんな日常を送っているのかを防衛大学卒で陸上自衛隊に勤めていた著者が紹介した本です。
 
 僕はこの本を読んでいて、高校時代に男子校で寮生活をしていたときのことを思い出さずにはいられませんでした。
 僕の高校時代といえば、もう30年以上も昔の話で、近年では、男子校も共学化がすすんでいるのですが。
 甘いものがすごく貴重だったり、女性に興味がつのっている人と、自分の趣味に没頭している人と二極化しているところなど、ああ、男ばかりの集団生活っていうのは、いまの時代でも、だいたいこんな感じになるものなのだなあ……と。
 
 15年くらい前に、近隣の自衛隊の医務室にアルバイトで行っていた時期もあって、「いやー訓練きついっすよ!」みたいな会話に、「ああ、なんか普通の若者なんだな」と思ったものです。
 もちろん、彼らの鍛えられた身体は、「普通」ではなかったわけですが。

 阪神淡路大震災東日本大震災などの大きな災害での救助活動や、海外でのPKO活動など、ときには自分の家族の状況も不安な、心身ともに苛酷な状況で救助活動を行ってくれている自衛隊の人たちには、本当に感謝せずにはいられません。
 こんなことを書いている僕も、20代前半くらいまでは「なんで日本は戦争をしないはずなのに軍隊があるんだ?」と、自衛隊を批判していたのですけど。


 著者が「ますらお」という言葉をはじめて知ったのは、防衛大学校を卒業し、幹部候補生学校に入校したときだったそうです。

 この学校では、あらゆる物事に「剛健」という名を付けて「ますらおの精神」を浸透させようとしてきます。毎朝上半身裸で号令を絶叫する「剛健点呼」、登山マラソンをゴールしても平気な顔で歩く「剛健ゴール」、剛健の二文字が物理的に刻まれたますらおが住む隊舎「剛健マンション」などがありました。剛健マンションでは、毎朝6時になると候補生がニワトリのように「オハヨーー!!」と叫ぶので、近隣住民から「うるさいからやめてくれ!」と苦情が来ますがやめません。自然の摂理には文句を言っても無駄です。


 そんな幹部候補生学校に在学中、私は「ますらお至上主義者」に出会います。彼の名は、前田くん。私と同じく防大卒の候補生でした(ただ彼とは学生時代に接点がなく、幹部候補生学校の区隊で同じになって初めて関わるようになりました)。彼は身長が180㎝ある筋肉隆々の男で、防衛大学校で最も厳しい部活である短艇委員会出身の猛者でした。そして口癖が「ますらお」だったのです。
 彼は事あるごとに「それはますらお」「それはますらおじゃない」と話し「ますらお二元論者」でした。彼が残した数々の名言や行動は今も印象的です。

・射撃訓練では「ますらおなら全弾ど真ん中」と豪語

・野戦訓練では「ますらおならピッコロ大魔王」と顔を緑一色で塗る

・筋トレでは「腕立て伏せの限界点から+5回やるのがますらお」と自分を追い込む

・筋肉痛になると「筋肉痛を感じていないときは弱くなっているとき」とむしろ喜ぶ


 この「ますらおか、それ以外」という二元論は、テレビやゲームが禁止されていた学校生活においては娯楽の一つとされ、他のメンバーもマネをするようになりました。


 この「ますらお」という概念は、学校での教育で植え付けられたものではなくて、学生の側で、自発的に盛り上がって、みんなで「ますらおぶり」を競い合っていたようです。
 ああ、本当に男子校っぽいよなあ!(もちろん、自衛隊には女性隊員もいます)

 皆さんも予想がついていると思いますが、自衛官はとにかく体力が必要です。どんなに知力が高くても、どんなに優しくても、体力がないあまり力尽きて倒れてしまえば役に立ちません。ですから、新隊員から定年退官するまでトレーニングは不可欠です。幹部候補生学校などでは、休み時間が10分でも一畳分のスペースさえあれば、せっせと腕立て伏せを始める学生も普通にいます。
 一方で、実は入隊試験には体力テストがないので、入隊時には「箸よりも重いものを持ったことないです」という人でもまったく問題ありません。募集担当官から「体力はなくても大丈夫だよ」と言われることはよくありますが、それも事実なのです。ただ、これは「入隊時は必要ない」だけの話であり、入隊後はかなり求められます。つまり、もやしっ子でも入隊は可能ですが、入隊後には「強いもやし」になるように訓練をされていくのです。
 なお、ガリガリのもやしだと思って舐めてかかった同期が、実はボクシングフライ級の国体選手や全国高校駅伝の選手だったという「SSRもやし」の隊員も一人ぐらいは存在します。人は見た目で判断してはいけません。


 自衛隊の入隊時には「体力テスト」って無いんですね。
 正直、僕のような運動音痴が入隊したら1日も耐えられないのではないかと思うのですが(以前、自衛隊に「体験入隊」させる企業があるという話を聞いたことはあります)、定員に対して希望者が不足しており、とにかく入れて、やってみてダメならしょうがない、という感じなのかもしれませんね。人の適性や成長曲線には、やってみないとわからないところはありますし。
 男子校の寮も、最初は「こんなところで3年間も生活するのはムリ!」とみんなで毎晩憂鬱になっていましたが、1年もするとみんなけっこう慣れて、男子校ライフを楽しんでいたのを思い出します(僕は男子校、共学にかかわらず、学校や寮というものにあまり馴染めなかったのですが、なんとか無事に卒業はできました)。

 そして、「体力がとにかく大事」な自衛官なのですが、昇進試験にはペーパーテストがあって、そこでは、戦車や戦闘機の機種の名前に詳しい、ミリタリーマニアが高じて自衛隊に入ってしまった、というような「インドア系自衛官」がハイスコアを叩き出して活躍していたそうです。

 結婚については一般の方にとっても一大イベントですが、ますらお達にとってはさらに重要なイベントになります。3等陸曹に昇任をしている隊員については、結婚をすると駐屯地の外に居住することができるからです。


(中略)


 ただ、階級が陸士長の場合は、結婚しても駐屯地の外で暮らすことはできません。そのため、結婚を考えている隊員は死に物狂いで昇任試験に挑みます。あまりやる気のなかった隊員も可愛い彼女ができると猛烈な勢いで成長し、「俺を見よ! 俺に続け!」と言って敵陣に手榴弾を投げ込み、突撃するようになります。愛のパワーは本当に素敵です(これを巷では死亡フラグというようですが)。


 プロ野球の新入団選手のように、何年か寮で過ごしたり、結婚したりすれば駐屯地を出られるものなのだろう、と思っていました。
 こういう条件になっているということは、昇任試験は、ものすごくハードルが高いわけではないのだろうけど、自衛隊員にとって「家庭を築く」というのは、大変なことなのですね。
 駐屯地から出て「自由」になったら、結婚生活の開始も含めて、あまりにも環境が激変して困惑しそうな気もします。


 自衛隊には組織としてのルールがあり、「任務」が最優先という鉄の掟があるのですが、けっこういろんなタイプの隊員がいるのだなあ、と感心し、その「ますらお」エピソードに笑いながら読みました。

 災害救助活動などで、「聖人化」されがちな自衛官たちの「人間らしさ」が伝わってきて、親しみを感じることができる本だと思います。
 自衛隊に入ろう、入りたい、自衛隊員の交際や結婚を考えている、という人以外にとって役には立たない話ばかりではありますが、だからこそ面白いし、自衛隊員が、ずっとこんな「任務を離れれば、愛すべき存在」であってほしいと願わずにはいられません。


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