琥珀色の戯言

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【読書感想】ゾクゾクしてやみつきになる! もしも科学大全 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

出版社内容情報
チャンネル登録者数が67万人超の動画チャンネル「VAIENCE」。さまざまなもしもの世界を科学的に解説した動画は、「いきなり未知の領域の話をして驚かすのではなく、常識の範囲から始めて徐々に未知の世界に入っていくストーリー展開が分かりやすく、もしかしたら実在するかもしれないと思わされるところがたまらない」と、高評価を得ています。
本書は「宇宙」「地球」「生物」「人間」の4つのテーマごとに、ゾクゾクするようなネタをイラストと共に紹介。本書の40ネタの内6割は、これまで動画では紹介していない新ネタです。
ハラハラドキドキの極限のシチュエーションを、Mr.VAIENCEが体験。ぶっ飛んだ世界に、現実世界で日々起こる悩みなど、どうでもよくなるに違いありません。

内容説明
極限の世界を科学的に解説してみた!

目次
第1章 宇宙のもしも(木星に落ちるとどうなるのか?―超低温から超高温まで、高圧環境の中を落ち続ける;天王星に落ちるとどうなるのか?―ターコイズブルーの奥底に潜む1000万気圧の圧縮地獄 ほか)

第2章 生き物のもしも(アナコンダを団子結びするとどうなるのか?―団子結び程度じゃ簡単にほどかれてしまうかも!?;地球上からゴキブリが消えるとどうなるのか?―街中でゴミが増え、受粉の手助けをされていた植物も巻き添えを食う!? ほか)

第3章 地球のもしも(地球が丸ごと金になるとどうなるのか?―時速数万kmで黄金の大地に叩きつけられ、地表が数万℃の灼熱の大地と化す;日本からブラジルまで穴を掘って、飛び降りるとどうなるのか?―日本からブラジルまでたったの38分で移動可能に!? ほか)

第4章 人間のもしも(人間が歯磨きをやめるとどうなるのか?―歯はボロボロ、口は臭くなる。他の病気にかかるリスクも…;人間が睡眠をやめるとどうなるのか?―不眠4日目でひどい幻覚、11日目には自分が何をしているのかわからなくなる ほか)


 上記の目次で挙げられている「もしも」をみて、興味がわいてきた人は、読んでみて損はしない本だと思います。
 僕が子どもの頃、ケイブンシャの大百科シリーズや学研マンガの「〇〇のひみつ」シリーズなどを書店で買ったり、学校の図書館で借りたりして片っ端から読んでいたのを思い出しました。

 この本、「木星に落ちたらどうなるのか」「宇宙空間に生身で飛び出してしまうとどうなるのか?」というような「アニメや映画をみていて、ちょっと想像してみることはあるけれど、現実的には(少なくともいま50歳の僕には)体験することがないであろう状況や、「クジラに飲まれるとどうなるのか?」という、昔『ピノキオ』のアニメで観て、恐れおののいた状況が実際に起こったらどうなるのか、が紹介されているのです。

 ちなみに「もし木星に落ちたらどうなるのか?」の冒頭には、こう書かれています。

 とても残念ですが、生身では落下を開始する前に木星周辺の強烈な放射線を浴びてあなたは即死してしまいます。木星の周りには、木星が持つ強力な磁場に捕らえられ帯電した、放射線帯と呼ばれる高エネルギーの粒子が飛び交っている領域が存在しています。放射線にも対応できるバイエンススーツを着用して落下するようにしましょう。読者のあなた、もちろんバイエンススーツをお持ちですよね?


 持ってねーよ!
 この本の著者のVAIENCEさんは、もしもの世界を科学的に解説するYouTubeチャンネル『VAIENCE』を運営されている方で、かなり過酷な状況に人間がおかれたときに見るであろう光景を、大概のことには耐えられる「バイエンススーツ」というのを着用している前提で解説しておられるのです。
 僕はこのYouTubeチャンネルを見たことがなかったので、「バイエンススーツ」って、何?というところで、最初は引っかかってしまいました。
 この本の、とくに第一章の宇宙を題材にした話では、バイエンススーツという「無敵スーツ」が前提になっているのです。
 もし、バイエンススーツがなければ、ほとんどの「もしも」は「即死END」になってしまいます。 
 実際にはそんな無敵スーツなんて存在しないわけで、このスーツを仮定したおかげで、この「もしも」が生まれた一方で、「そんなスーツそのものが無いんだから、なんかスッキリしないなあ」と僕などは感じてしまうのです。


 僕にとっては、第2章の「生き物」の話のほうが、興味深かったのです。
 子供の頃、『ピノキオ』がクジラに飲み込まれた童話を読んで怖かったことを思い出しました。
 真っ暗ななか、逃げることもできず、クジラの消化管のなかで徐々に消化されていくのはどんな気分なんだろう?
 さまざまな統計をみると、毒蛇に嚙まれたり、サメに食べられたり(クジラの場合はもっとレアケースみたいです)、雷に打たれたり、飛行機事故に巻き込まれたりして命を落とす確率というのは、誰もが想像してしまうけれど、実際には「激レア」なのですが。
 そういうケースを怖がるよりも、今日の夕食の塩分を控えめにしたほうが、よほど長生きできそうです。

「次の瞬間、完全に真っ暗になった」
 ロブスター採りのダイバー、マイケル・バッカード氏は、アメリカのマサチューセッツ州沖で、ザトウクジラの口に吸い込まれてしまいました。必死にじたばたしていると、約30秒後、クジラは水面近くでパッカード氏を吐き出しました。専門家によると、彼は襲われたわけではなく、「まずいときにまずい場所に居合わせた」だけだと言います。クジラにしてみれば、魚を食べようと口を開けたら”異物”が混入していた、くらいの感覚でしょう。とんだ巻き込み事故ですが、人間がクジラの口の中へ不用意に吸い込まれたのはこれが初めてではありません。


(中略)


 興味深いことに、クジラの口の中に入った人たちは、すぐに吐き出されてしまいます。じつはほとんどのクジラの食道は非常に細く、人間を嚥下することはできないのです。例えば、パッカード氏を口に入れたザトウクジラの喉は、人間の拳くらいのサイズ。大きい獲物を飲み込むときでもせいぜい直径40㎝ほどにしか広がらないのです。
 とはいえ残念ながら、もしくはありがたいことに、解剖学的に見て人間を丸呑みできるクジラが1種だけいます。マッコウクジラです。体長14mにもなるダイオウホウズキイカを飲み込んだという記録もあるマッコウクジラにかかれば、人間を飲み込むことも不可能ではないように思えます。では、マッコウクジラに飲み込まれたらどうなるのでしょうか?バイエンススーツを着用して行っておいで。


 クジラに飲み込まれて、徐々に消化されていく、という状況は、マッコウクジラでしか起こらず、ほとんどのクジラでは一度口の中に吸い込まれても、吐き出されてしまうのです。もう少し早くこれを知っていたら、クジラの中で消化されていく恐怖もだいぶ軽減されたのに!まあでも、こういうのって、証言ができるのは生きて還ってきた人たちだけなので、歴史のなかには、本当はクジラに呑まれていた行方不明者も少なからずいた可能性もありますが。

 この本を読んでみると、人類には、信じられないような体験をしながら、生還してきた人が少なからずいることがわかります。
 

 大気圧が存在しない宇宙空間に飛び出した瞬間、人体は耐えきれず爆発四散してしまうと思うかもしれません。しかし、幸いなことに人間の皮膚は強靭であり、爆発するようなことにはなりません。あなたの体の大部分を占める水が沸騰を始めることにより、10秒程度かけて体中が醜く膨れ上がることはあり得ますが、少なくとも爆発のような華々しい形で命を終えることはないでしょう。
 あなたが最初に体験するのは、体中の穴から空気が急速に抜けていく感触と音でしょう。なぜそんなことがわかっているかというと、実際に事故でほぼ真空にさらされてしまった後に生還した人間が存在するからです。その人間の最後の記憶は、舌にある水が沸騰し始める感覚だったそうです。幸いなことに、周囲の人間が気づいたため15秒ほどで圧力が上昇し始め、その方は一命をとりとめました。あなたの場合は、誰か救助してくれる人がいることを祈るしかありません。幸か不幸か、あなたはまもなく意識を手放そうとしているため、祈る時間も、耐えがたい恐怖を感じている時間も残り少ないでしょう。

 1964年に11日間まったく眠らないというチャレンジをしたアメリカの高校生、ランディ・ガードナー氏は4日目には道路標識が人に見えたり、自分が有名なアメフトの選手だと勘違いするなど、ひどい幻覚に悩まされたそうです。11日目には自分が今何をしているのか理解することにも苦労するほどでしたが、無事にチャレンジを終えました。しかし、数年後にはひどい不眠症に悩まされることになったようです。
 実際、これ以上睡眠を断つとどうなってしまうのでしょうか。今のところ、自己申告以外で確実に11日間以上起き続けた人間はいませんが、例えばネズミをまったく眠らせないという実験では、すべてのネズミが11日目~32日目の間に死亡してしまったという結果が出ています。人間もネズミと同じようにまったく眠らないと最終的に死ぬという意見には懐疑的な見方もありますが、いずれにせよ睡眠をやめることは百害あって一利なしといえます。


 「もしも」だけではなく、たくさんの「まさか」も紹介されている本なのです。
 高校生の頃、筒井康隆さんの『霊長類 南へ』という小説を読んで、「人類最後のひとりになるというのは、どんな感じなのだろうか?」と考えたことを思い出します。そんな立場になるのは、宝くじが当たるよりもずっと低い確率ではありますし、絶望的な状況ではあるのでしょうけど、そういう「極限の光景」に、なんだか魅力を感じてしまうのです。
 その状況での絶望感を想像すると、バイエンススーツを持っていないほうが、苦しみが短くてラクなんだろうな、とは思うのですが。


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