琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】日韓激突-「トランプ・ドミノ」が誘発する世界危機 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
GSOMIAをめぐり揺れに揺れた日韓。両国はついに全面衝突の様相に。「安倍政権が韓国を巧妙に追い詰め破棄させたのだ。この手法は、日本を開戦に踏み切らせたハル・ノートを思わせる。短期的には“完勝”」(佐藤優氏)だが、「長期の視点に立てば極めて危うい一手」(手嶋龍一氏)だ。北東アジアに生じた日米韓の安保体制の綻びを、中露北が衝こうとしている。果たしてニッポンに苛烈な国際政局を生き抜く秘策はあるか。


 手嶋龍一さんと佐藤優さんによる、対談形式での世界情勢分析本です。
 タイトルには「日韓激突」とあるのですが、内容的には、トランプ大統領北朝鮮金正恩氏の接近による韓国の地政学的な変化と、東アジア、中東におけるアメリカの現在の考え方について多くのページが割かれています。

 佐藤さんは、韓国に対する、日本の植民地支配に触れ、イギリスなどに比べて、日本は韓国に対する「旧宗主国」としての自覚が足りないのではないか、と述べています。
 それは、「かつて支配していた側の後世での責任」みたいなもので、日本は、台湾に対する旧宗主国としての特別な配慮(日中国交正常化後も台湾との事実上の外交関係を維持しつづけたことなど)に比べて、韓国に対しては冷淡だった、ということのようです。

佐藤優「見えない問題」の二つ目は、日韓の国力の接近です。日韓基本条約が締結され、韓国との国交が樹立した1965年当時、国民一人当たり名目GDP国内総生産)は、韓国109ドルに対して日本は920ドル、つまり8倍も開いていました。では今はというと、2018年に韓国3万1000ドルに対して、日本は、3万9000ドルと極めて接近しているのです。


手嶋龍一:半世紀で、韓国は日本にほぼ追いついたわけですね。日本人のどれくらいが、そういう事実を認識しているでしょうか。


佐藤:むしろ韓国のほうが物価は安いので、彼らの皮膚感覚では「追い越した」のかもしれません。韓国は格差社会ですから、インバウンドで日本にやってくる人々は、富裕層が多いでしょう。彼らは、特にそれを実感しているはずです。


手嶋:そういう感覚を持っておくことも、大切だと思います。


佐藤:日本のマンションを見ると、韓国の中産階級上層のほうが大きな家に住んでいるのが分かる。あるいは、極端な競争社会で文理融合の教育を受け、英語力も相当厳しく鍛え上げられている上層部のビジネスマンから見ると、付き合う日本人はあまり優秀に見えない。個々の能力をとっても、日本人よりも我々のほうが優っているのではないか。翻って、国際社会における韓国の地位をみると、依然日本とは雲泥の差がある。自分たちへの評価は実力相応とは思えない──。韓国の人々がそういう思いを募らせても、なんら不思議はないんですよ。


手嶋:経済発展によって韓国の人たちが自信をつけ、それゆえに自分たちに対する評価に不満を抱いている。もちろん、最大の不満の対象は日本、ということになる。


佐藤:わかりやすく言えば、「もう追いついているのに、相変わらず日本は我々をずっと下に見ているのではないか」という苛立ちが、徐々に充満しつつあるわけです。


 佐藤優さんは、現在(2019年)の時点で、日本と韓国のGDPの総額では2.5倍くらいの差がある(日本のほうが大きい)けれど、1965年の時点では、だいたい30倍くらいの差があったことを考えると、韓国の人々の実感としては、「ほとんど追いついてきた」のではないか、と仰っています。

佐藤:例えば、韓国人が「生活水準に8倍の差があった時代に結ばれた日韓の基本条約や請求権協定は不当なもの」と感じても、それ自体に不思議はないといいうことです。「もうとっくに済んだことだ」と言う日本人には、幕末に日本が欧米列強と結んだ「不平等条約」を思い出してほしい。明治の日本は国力がつくと、その不当性に非を鳴らしたでしょう。


 そう言われると、「経済力が違いすぎる時代に結ばれた条約は、こちらの弱みにつけこんだものではないのか」と思うのは、理解できるような気がします。
 日本も、明治国家が力をつけたことによって、開国時に結んだ不平等条約の改正を求めたわけですし。
 もう結んでしまった条約だから、ずっとそれに従え、と言われても、パワーバランスが変われば、納得できなくなりますよね。
 こちら側(日本側)からすると、「もう終わった話」を、なぜ蒸し返して混乱させるようなことをするのか、そもそも、そっちもだいぶ国力がついてきたじゃないか、と言いたくなるのだけれど。
 「国力がついてきた」からこそ、黙っていられないのですよね、こういうのって。
 とはいえ、日本側としても、「はいそうですか」と、後付けで条件を変えていくほどの経済的な余裕もないし、それをやっていてはキリがない。
 お互いの妥協点を探るのは、すごく難しい。


 そして、トランプ大統領の外交により、北朝鮮と韓国の実質的な国境がなくなる可能性を、おふたりは指摘しています。
 今までは地政学的に北朝鮮に大陸側への出口を塞がれ、日本やアメリカと同じように「海洋国家」として生きていかざるをえなかった韓国は、「半島国家」として、「北朝鮮経由で、中国やロシアなどの大陸側の国と繋がっていく」という選択肢がありうることを考えるようになったのです。
 もちろん、すぐに北朝鮮と統一できる、とは思えないのですが、これも、トランプ大統領北朝鮮との対話を推進した影響のひとつなのです。

佐藤:ところが、冷戦が終わって四半世紀、アメリカのトランプと北朝鮮金正恩が突然の恋に落ちたことで、再び朝鮮半島地政学が大きく揺らぎ始めたのです。冷戦が終わっても依然として凍りついたままだった朝鮮半島軍事境界線は、二人の恋人同士がかつての朝鮮戦争をいまの「休戦状態」から「完全な終戦」に切り替えると合意すれば、当然、消えてなくなります。いまは、金正恩は、文在寅に冷たい態度を取っていますが、米朝が最終合意にいたり、体制の危機から脱すれば、境界線の消滅から莫大な経済的利益を得られます。そのためなら、喜んで南に門戸を開放するはずです。韓国からすれば、境界線という頸木(くびき)から解かれて、中国大陸と直でつながるのですから、大きな経済チャンスも訪れます。韓国はこうした潮流を先取りして、はやくも中国大陸に傾斜し始め、その結果として、本体の「半島国家」に戻り始めていると見るべきです。


 本当にそこまで考えているのか?とも思うのですが、そういう選択肢もありうる世界になってきているのは事実なのでしょう。
 あちらには、あちらの正義があるのです。


 この本のなかで、おふたりが、安倍首相の外交について、こんな話をされていたのが印象的でした。

佐藤:いや、外交の世界では、トランプのような一種の「下品力」こそ、非常に重要な意味を持つようになった、と最近、真面目に思っているんですよ。


手嶋:えっ、下品力。これは、ラスプーチン流の造語ですか。それにしても、言い得て妙だなあ。


佐藤:批判を恐れず、どこまで下品なことができるか。例えば、ハーメネイ師もまた宗教指導者であるにもかかわらず、かなり下品だと言わざるをえない。安倍ーハーメネイ会談の席上、安倍首相が「アメリカ大統領のメッセージを閣下にお渡ししたい」と申し出たところ、ハーメネイ師は「貴殿の善意と真摯さに疑いを持っていない」と言いながら、トランプ大統領に対しては「何の回答も持っていないし、回答することもないだろう」と冷たく応じています。安倍首相をあたかも”使い走り”に見立てて門前払いにしています。


手嶋:しかも、このイランの最高指導者の本心は全く別のところにある。


佐藤:その通り、相手を手厳しく非難し、仲介を拒む素振りを見せながら、「俺の真意を汲み取ってくれ」とシグナルを送る。決して品格のある対応ではありません。しかしながら、国益のためには、そんな下品力が求められる局面もあるわけですね。
 他方、ハーメネイ師との会談を見て、わが安倍首相の意外な強さが伝わってきます。安倍首相が下品なことを言うわけではありませんが、扱いの難しい国家元首にも実に自然体で対峙できる、そんな特殊な力を秘めている。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領、トルコのレジェップ・エルドアン大統領といった、国際的な下品コンクールでも、上位にランクされる指導者と渡り合っても、かなりいけるんですね。アンゲラ・ドロテア・メルケルさん(独首相)とか、テリーザ・メイさん(英前首相)は、そういう下品な人は生理的に受け付けないのでしょう。会うと眉間に皺が寄ってしまう。それとは好対照ですね。


手嶋:そうした対応力の源は、安倍さんの雑談力です。長く首相をしていますから、雑談力にはさらに磨きがかかっています。下品力では見劣りがしても、お国のために対抗することは十分にできる。これからも外交の場で精一杯活用してもらいたいですね。


佐藤:そう、何ごともお国のためと心得て取り組んでいただきたい。


 そうか、そういう見方もあるのだなあ、と感心してしまいました。
 その「クリーンさ」において、批判されることも多い安倍首相なのですが、外交の場では、潔癖すぎるよりも、清濁併せ呑む、という佇まいが求められるのかもしれません、どんな独裁者であっても、相手はその国を代表する人ですし。
 本当にそれで良いのか、じゃあ、「桜を見る会」に反社会的勢力が紛れ込んでいても構わないのか、と言われると、考えこんでしまうところもありますが。


佐藤優の挑戦状 地頭を鍛える60題 (講談社現代新書)

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