琥珀色の戯言

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【読書感想】オタク経済圏創世記 GAFAの次は2.5次元コミュニティが世界の主役になる件 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
5G時代の新戦略を先取り。ブルーオーシャンを発見。アニメ・ゲームから、プロレスまで。日本のライブコンテンツメーカーが世界中に「お祭り」を巻き起こす。


 なぜ、日本発の「オタクコンテンツ」が世界を席巻するようになったのか?
 この本では、これまでのマンガやアニメ、ゲームなどの歴史を踏まえつつ、「日本初のライブコンテンツ」の現在を分析し、未来予想をしています。
 

 現在のマンガ・アニメ・ゲームはいわば、焼き直された1980年代のような状況にある。当時、日本企業・日本製品が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」として賞賛を受けた背景には、長期雇用・熟練した現場主義の職人・銀行(ファイナンス)含めた系列企業アライアンスなど、「技術立国」を支える日本的組織の装置があった。その装置こそが、実は現在マンガ・アニメ・ゲーム業界でも保存され、キャラクターやストーリー、ゲーム性といった形のないコンテンツを創り上げる原動力にもなっている。
 では次なる2020年代がエンタメ企業にとっての1990年代となるのだろうか。製造業界がたどったようにモジュール型でスピーディな欧米企業に上流工程を、安価で労働人口の集中投下ができるアジア企業に下流工程を奪われ、日本エンタメ産業の統合的な強さは失われていくのだろうか。
 少なくとも、オタク文化商品は、かなり小さく誰もがみていない領域から始まった点は異なるところだろう。NTTグループの需要とともにNEC富士通が出来上がり、国策としての半導体世界一となった時代とも、東京電力のインフラ供給とともに三菱重工東芝などの重電産業が出来上がった時代とも異なる。マンガ・アニメ・ゲームは、国家とも財閥とも対極にある小さなベンチャーから立ち上がったローカルでニッチな産業である。
 海外に競合が存在しない状態で市場をゼロから築き上げ、それがいまグローバルでマスユーザーに受け入れられ始めている。この市場の広がり方は、日本経済にとって新しい「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の成功モデルをみせてくれるものである。そのエッセンスこそが「ライブコンテンツ化」なのである。


 著者は、太平洋戦争後の日本のアニメ・マンガ文化が世界に類を見ない発展を遂げた理由について、「この時代に商売としてのそろばんを欠いた状態で利益度外視の作品量産体制を作り上げたから」だと述べています。
 日本がこれらのコンテンツで、他国に対して大きなアドバンテージを得ることができたのは、(今の時代の感覚では)ブラック労働をいとわないクリエイターたちと、コミックやキャラクタービジネスで稼ぎ、雑誌は安価で毎週出す、というシステムを構築できたからなのです。
 そもそも、アメリカやヨーロッパでは、「あのような待遇で、週刊誌に高品質のマンガを連載するなんて割に合わない仕事をする人はいなかった」と。
 ある意味「労働力が安く、クリエイターの意識は高かった」というのが、戦後しばらくの日本のオタクコンテンツの強みだったのです。


 近年になって、日本産のアニメはまた上昇気流に乗っているのです。

 アニメの海外展開はその後の潜伏期を超え、2012年以降にこれまでにない膨張期を迎える。驚異的なスピードで受け入れられたのは動画配信サービスのマーケットであり、5年で4倍規模に拡大した。もはや1兆円を超える「海外アニメ消費市場」は日本におけるアニメ関連の玩具市場の2倍、テレビ・映画・ビデオ・玩具をあわせた金額よりも大きい。
 国内アニメ市場も成長し、7300億円から1兆円規模に成長したが、それは産業の成功のほんの一部でしかない。それよりも目を見張るべきは2010年前後で2000億円しかなかった「海外」がたったの10年弱で1兆円規模へと成長したことである。アニメをとりまく消費は海外ユーザーの需要と結びつくことで2010年代を通して5倍になった。海外ユーザーが国内よりも消費額が少ない点から逆算すると、少なくとも日本の2~3倍規模のアニメユーザーがこの10年に海外で形成されたとみてよいだろう。
 なぜこれほどの海外市場が急激に形成されたかについては、詳しくは後述するが、2000年代に海賊版によるマンガ・アニメの購買層が日本コンテンツの愛好者として育ち、2010年代に動画配信インフラが普及したことでコンテンツのマネタイズが可能になったことが理由と言える。出版流通の制約があったマンガに代わり、アニメが日本のキャラクターの主たる伝道者となった。
 だかそもそもそれ以前に、マンガよりもアニメよりも最初にグローバル化し、その二つの産業を根底から支えた産業があった。ゲームである。

 
 ネットでの動画配信サービスは、ここまでコンテンツビジネス、しかも日本のアニメに大きな影響を与えていたのか、と驚かされます。どんどん動画配信サービスが普及していくなかで、どうしてもコンテンツが不足しがちになるのです。
 他社との差別化のためにも、「日本のアニメ」は重要視されているそうです。


 著者は、コンテンツビジネスを行っていくうえで、最も重要なポイントとなるのは「アニメ化」だと指摘しています。

 マネタイズの決着点は「著作権(ライセンス)」である。作品の権利をもつプレイヤーはその作品がヒットしたときに、その人気をマネタイズして、収益配分にあずかることができる。アニメにはキャラクター画像、声、動画、ストーリー、音楽などがすべて込められている。マンガだとこうはいかない。マンガを映画にする、アニメにする、ゲームにする、商品にするといったときに「決まっていないこと」が多すぎる。背景を含めた世界はどうなっているのか、主人公はどんな声をしているのか、どんな音楽であればその世界に合うのか。マンガはこうした情報密度の低さ(それゆえにマンガは制作がスピーディで普及が早いメリットもあるが)ゆえに、メディアミックスの起点としては物足りない。ほとんどのキャラクターがアニメ化するのは、ライセンス展開してどんどん広げるための「その世界をとりまく情報」を一度固めることができるからだ。だからライセンスのハブとなるのはアニメである。


 最近は、けっこうなんでもアニメ化されるなあ、と思っていたのですが、コンテンツビジネスとしては、「アニメ化が出発点」みたいな感じなんですね。
 たしかに、ゲーム化(パチンコ・パチスロなども含めて)するのにも、マンガからいきなり、というのは、けっこう大変そうですし。

 
 僕はずっと疑問だったんですよ。
 『ドラゴンボール』『ワンピース』は、長年キャラクタービジネスの王者として君臨しているけれど、まだマンガが連載中の『ワンピース』はともかく、『ドラゴンボール』は、ずっと前に連載は終わっているのに、なぜ今だにこんなに人気があるのか。
 むしろ、マンガやアニメが終わって、しばらくは下火になっていた人気が、最近は高値安定になっているのはなぜなのか。

 如実に作品差が出ているのはゲーム化・商品化のライセンス収入である。ドラゴンボールは国内/海外それぞれにおいて2014年で6億円/4億円だったものが18年に85億円/79億円と約20倍規模まで膨らんでいる。同時期のワンピースにおいては14年に36億円/9億円だったものが18年に32億円/28億円で、海外は3倍に伸びてはいるものの国内は同規模。ワンピースのライセンス収入はドラゴンボールに比べるとほとんど成長していないといえる規模だ。ちなみにワンピースの国内ライセンスが2010年の6億から11年の48億に急増したのも、DeNAのウェブゲームでのワンピースタイトルの成功によるものである。いかにアニメ各社もモバイルゲームからの利益配分シェアが無視できないどころか事業の根幹となりつつあるかを示しており、東映アニメーションの全社売上ベースで考えると、このワンピースとドラゴンボールの2タイトルの海外映像・ライセンス収入だけで50%を超える依存度の高さとなっている。

 
 モバイルゲームって、こんなに儲かるのか……そりゃ、みんなモバイルゲーム化したがるわけだよなあ。
 ゲーム化、とくにモバイルゲーム化というのは、ただ「儲かる」というだけではなく、プレイヤーがそのコンテンツに毎日のように触れてくれ、こまめな更新によって新鮮さを保ち、コンテンツを「長持ち」させることができる、というメリットもあるのです。
 そうやって、『ドラゴンボール』に慣れ親しんでいくと、新しいコンテンツの世界観を1から理解していくのは、ちょっと面倒になってしまうこともあります。

 いまや、「主戦場」は、動画配信やモバイルゲームになっている、ということ、そして、「すでにみんなに知られているコンテンツ」が有利で、新規参入が難しくなっている理由も、この本を読んで、ようやく理解できました。

 正直、コンテンツビジネスについての予備知識がある程度ないと難しく感じたところもあるのですが、すごく読み応えがある本だと思います。
 僕の子どもたちは「オタクコンテンツで、ナチュラルに世界とつながる時代」を生きることになるのだろうか。


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