琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論 ☆☆☆


Kindle版もあります。

書くのが苦しい4人と一緒に「書けない」悩みを哲学しよう!

「書き出しが決まらない」「キーボードに向き合う気力さえ湧いてこない」「何を書いてもダメな文章な気がする」……何かを書きたいと思いつめるがゆえの深刻な悩みが、あなたにもあるのではないでしょうか? 本書は「書く」ことを一生の仕事としながらも、しかしあなたと同じく「書けない」悩みを抱えた4人が、新たな執筆術を模索する軌跡を記録しています。どうすれば楽に書けるか、どうしたら最後まで書き終えられるか、具体的な執筆方法から書くことの本質までを縦横無尽に探求し、時に励まし合い、4人は「書けない病」を克服する手がかりを見つけ出します。さあ、あなたも書けない苦しみを4人と哲学し、分かち合い、新たなライティングの地平へと一緒に駆け出していきましょう!!


 千葉雅也さん、山内朋樹さん、読書猿さん、瀬下翔太さん。
 この4人の作家、書評家たちが、「書けない悩みとその対処法」について語り合う、という新書です。

 この本、「書けない悩みのための執筆論」というサブタイトルがついており、「ブログやSNSで何か書きたいのだけれど、書くことが思い浮かばない人たちへのアドバイス」みたいな内容かと思いつつ手に取ったのですが、内容的には、初心者向けではないというか、「ある程度書くことがはできるし、それなりに慣れてはいる人たちのスランプ脱出法」という感じです。

 4名が互いの執筆術を紹介しながら書けない悩みを打ち明け合った「座談会その1」。それから2年が経過したのちに変化した執筆術を書き下ろした「執筆実践」、書き下ろされた原稿を読みあい熱論した「座談会その2」の全3部で、本書は構成されています。


 読んでみると、「何を書くか」というよりは、どのようなツールを用いて、快適な執筆環境を作り上げるか、モチベーションを高めていくか、というような話が多いんですよね。
 
 読書猿さんは1997年くらいからメールマガジンを始められたそうですが、僕が個人ブログをはじめたのが2001年なんですよね。
 最近の数年の差、というのはそんなに大きな違いはないと思うのですが、まだインターネットが普及し始めた頃の数年というのはけっこう大きくて、「そんな早い時代から書いておられたのか」と驚きました。
 1990年代の後半って、大学のレポートをワープロやパソコンで書いてプリンターで印刷して提出すると、教官も同級生も「これは読みやすい!」と感心してくれる時代だったのです。
 いまは、「コピー&ペースト防止のために手書き推奨」になりましたが。

 千葉雅也さん(1978年生まれ)は、「座談会その1」で、こんな話をされています。

千葉雅也:遡っていうと、ぼくの実家はデザイン会社だったんですよ。地方の広告代理店
展…広告代理店と言っても、スーパーマーケットのちらしとか、地元の会社のパッケージとかですが、途中から少しインターネット系の事業もやり始めた、そういう会社でした。その会社はぼくが修士のときに潰れてしまって、実家が破産してしまい、それからしばらくは大変でした。
 実家がデザイン会社だった時代に、父親からいろんな影響を受けました。
 1991年、ぼくが中学に入った頃にMaciintosh LCが出て、それを買ってもらってMacで遊び始めたんですね。DTPを会社に導入したこともあって、中学生というかなり早い時期からAldus PageMakerを使えていて、夏休みの自由研究なんかはPageMakerでデザインして出していたんです。あ、いや、最初はエルゴソフトのEG Bookだったかな。


瀬下翔太:文章そのものだけでなく、誌面にも関心があったのですね。


千葉:とにかくDTPソフトではけっこう遊んでいて、だから、最初はEG BookかPageMakerで書いていたことになりますね。その後、高校時代にエッセイとか読書感想文を書いたときには、QuarkXPressを使ってました。全部縦書きで、ぼくが論文っぽい文章を書き始めたのも、当時の人文系の本がかっこよかったことの影響があります。戸田ツトム系のデザインで。
 実際、小学生のときには、「DTPで出しました」という戸田ツトムの『森の書物』を父親からプレゼントされて、「これを見て勉強しろ」ってDTPの英才教育を受けたんです(笑)。だから、脚注を付けたりするとカッコいい、というところを入り口にして、そこから研究者の道に進んだという感じすらあります。


 この引用部を読んで、「面白そう!」「懐かしい!」と思った方は、この本に向いている、というか、この本を楽しめるはずです。
 逆に、「書けるようになる本じゃないの? 何この知らない固有名詞の数々は……」と感じた人は、タイトルの印象だけで買わないほうが良いと思います。
 
 僕自身、20年以上ネットで書き続けてきたのですが、ホームページビルダーとかブログ作成ツール任せ、書くのはWORDがメインで、Googleドライブも必要にせまられて使うことがある、というレベルなんですよね。
 これまでは、それで不自由に感じることはなかった、というか、環境を自分で変えていくより、与えられた環境でやろうとしてしまうタイプなので。
 そんなに長いものを書かない、というのと、学術書ではない、というのもあるのですが。
 ……そんな感じだから、昔、論文を書くたびに、教授に赤を入れまくられていたのか……

 今の世の中、せっかくいろんなツールがあるのだから、それを使って「良い環境をつくる」のも大事だなあ、と読みながら感心していたのです。


 そして、この本のタイトルに「書けない悩み」とい言葉が入っているのですが、千葉さんは、Section3の「考えること」と「書くこと」の冒頭で、こう仰っています。

千葉「どうして(締切)ギリギリになると書けるのか」という問いに対しては、有限化が起こるから書けるという答えはそうなんだけど、それと同時にもうひとつ思うのは、われわれってなんだかんだいって文章が書ける人間なんですよ。そもそも、「一般の読者」っていう言い方はアレだけれど、文章がそもそも書けない人、そもそも書けるってどういうことなんですかっていうくらいに話を広げると、そこはどうなんですかねっていうのはある。たとえばぼくも、規範的に書くのではなくて、ぐちゃぐちゃでもいいからとにかく最初のばーっとドラフトを書いちゃう。それは読書猿さんがレヴィ=ストロースの書き方について書いていた記事をぼくも参考にしていて、というかあの記事はたぶんいろんな人が参考にしているんですが、そもそも最初にぐちゃぐちゃのドラフトを書くっていうこと自体ができない人がいる。むしろそのほうが大多数なんですよね。ぼくは「土石流みたいな文章を書けばいい」って言うんですけど、土石流すら出てこないんですよ、なかなか。それはどうなのかなって。


読書猿:それは教育との関係ですごくあります、あります。卒論指導とか。


千葉:とにかく書くというのも簡単ではない。


読書猿:なにかあればね、これがこうなってこうなってっていう話ができるんですが、ぼくもノンストップ・ライティングについての記事、書きましたよ。実はぼくはあれ苦手なんです。たしかに書けます。でも、そんなに続かない。10分間延々書き続けているかっていうとそんなことはなくて、「書けない書けない書けない」って1ページ。つらいですよ。じゃあこんなつらいことに対して、自分がどうしているかっていうと、瀬下さんがお話しされていた白いページへの恐怖といっしょで、枠がないとかえってフリーってできないんだと思って、「フレームド」って付けて、「フレームド・ノンストップ・ライティング」にしたんですよ。


 この「フレームド・ノンストップ・ライティング」に興味がある方は、ぜひ、この本を手にとってみてください。
 読書猿さんでも、「真っ白な状態で、好きなことを書いていい」というのは、案外やりにくいものなのだなあ。

 
 ちなみに、読書猿さんのレヴィ=ストロースの書き方についての記事はこちらです(僕も以前読みました)。

readingmonkey.blog.fc2.com


 何か骨組みのようなものがつくれれば、それを肉付けしていくことによって書けるのだけれど、その簡単な骨格をつくるのも「書ける人だからできること」なのかもしれませんね。

 ここまで読んでみて、「これなら読んでみたい」と思った人にはおすすめです。
 基本的に「文章が書ける人」向けの本なんですよ、これ。


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