Kindle版もあります。
内容紹介
格闘ゲーマーになって20年、順調だった著者のプロゲーマー生活は大きな壁にぶつかった。「誰よりも早く正解を見つける」やり方が、環境の変化により陳腐化したのだ。本書はスランプの中で見つけた新しい努力のやり方をまとめたもの。仕事や人生で「正解」「勝ち」「合理性」の世界で行き詰まっている人に役に立つ1冊!
「東大卒プロゲーマー」ときどさんが、スランプから立ち直り、トッププレイヤーとして戻ってくるまでの試行錯誤や考え方の変化を記した本です。
プロゲーマー・ときどさんは、プロになって4年経った2013年ごろから、「プロゲーマとしての大きな壁にぶつかり、まったく勝てなくなった」と述懐されています。
周囲のレベルアップについていけなくなってしまったのです。
当時僕が使っていた「勝つ仕組み」。それは次のようなものです。
・人に先んじてゲームの要点をとらえ、それに合った「簡単で強い行動」を型通り繰り返す
・常にそのゲームの「最新情報」を手に入れ、独占する
・リスクを排除することで、「負けない戦い方」に徹する「ときどのプレイは合理的なだけ。薄っぺら、つまらない──。僕の戦い方は「ときど式」と呼ばれ、ゲームファンからは揶揄されていました。それでも若いころから僕がそれなりの結果を残せていたのは、昔の環境が自分のやり方の味方をしてくれていたからです。僕は勝てたポイントは「誰よりも早く正解を見つけた」ことにありました。
「ときど」の名前の由来は、そのプレイスタイル、「飛んで、キックして、どうしたぁ!」の頭文字(どうしたぁ!」は技のかけ声)なのだそうです。
ときどさんは、新しいゲームで、誰よりも効率的に「勝ちやすい方法」を見つけ出し、その技を磨くことによって勝ち続けてきたのですが、それが通用しなくなり、勝てなくなってきたのです。
そこで、ときどさんは、考え抜きました。
なぜ、勝てなくなったのか?
ときどさんはそこで、「とりあえずやってみる」ことが大切だという気づきを得ています。
格闘ゲームでも勉強でも、仕事でも、本番で何らかの成果を出すには、日々の学びの積み重ね=反復が必要です。プロゲーマーであれば練習。受験生ならば受験対策がそれにあたります。ビジネスパーソンのように日々の仕事が、本番かつ学びの場の場合もあると思います。
格闘ゲームの場合、ざっくり次のような「学びのサイクル」を反復することになります。(1)インプット:必要な技術を学ぶ
(2)アウトプット:学んだ技術を試す
(3)フィードバック:試した結果から得た新たな発見を学びに生かす
重要なのは、このサイクルを回す「スピード」を、できる限り速くすること。格闘ゲームでいえば、どんどん対戦して、どんどん結果を検証することです。理由は2つあります。
ひとつは、eスポーツの世界では正解が常に変化しているからです。例えば「昨日の試合でAの戦い方で勝った。今日、同じ相手に同じ戦法を使ったら負けた」。こういうことが、当たり前に起こります。ずっと同じことをやっていたら勝てません。
プレイヤー人口が増えたこと、情報が共有されるようになったこと。大きくこの2つの理由で、攻略の速度は飛躍的に高まりました。常に新しい一手が研究され、それが披露されることが、また新たな一手を生むきっかけになるのです。日々状況が更新されているので、時間をかけていると更新された情報に対応していないやり方になってしまいます。
同じ「反復」でも、昔はコツコツ時間をかけて準備をし、本番に臨めばよかったけれど、今は、いわば「小さな本番」を繰り返して学び続けないと、努力が全部ムダになってしまうのです。
ときどさんは、「負けに慣れること」や「仲間と実際に顔を合わせて対戦し、新しい戦法を惜しみなく繰り出して相手の反応をみて、切磋琢磨しあうことの重要性」を説いています。
新しい戦法があれば、大会まで隠しておけば、少なくともその大会のあいだくらいは、有利に戦えるのではないか、と思うのですが、ときどさんは、それでひとつの勝負に勝つことができたとしても、グループで協力してレベルアップしていくメリットのほうが、長い目でみればずっと大きい、と考えているのです。
僕は読みながら、これはまさに、将棋の世界で、棋士たちが実力を認め合った者どうしで「研究会」をつくって切磋琢磨して強くなっていったのと同じだなあ、と思っていました。
プロゲーマーの世界は、プロ棋士の世界と似ている。
AI(人工知能)が、コンピュータ同士での対戦を重ねることによってデータを積み重ね、強くなっていったのと同じ道を、いまの人間のプロたちが辿っているのです。
もしかしたら、人間というのは、汎用性は高いけれど、ひとつの目標に特化しにくいコンピュータなのかもしれません。
こんなに努力をして、ふたたびプロゲーマーとして頂点に上り詰めたのか……と感心してしまうのですが、ときどさんは、自身について、こう述べています。
東大卒というだけで「勉強を頑張ったんですね!」「意志力がありますね!」と言われるのですが、残念ながら僕の場合はそうした言葉はまったく当てはまりません。実は、僕は極度の面倒くさがりで、物事を続けたり、継続したりするのが本当に苦手です。週1回のインターネット配信のために移動するのがダルいので、会社(配信の撮影場所)に住んでいたくらいです。
そういう人が何かを本気で継続したい、やり遂げたいときに意志の力に頼っていると、何も実現しません。大事なのはダメな自分を前提にして、それでもなんとか努力が続く「仕組み」を作ってしまうこと。自分が「動く」のではなく仕組みに「動かされる」ようにするのです。
僕は半世紀近く生きてきて、「面倒くさいことがものすごく苦手」な人の中に、「ちゃんと仕組みを作って、勤勉に生きていくのが、結果的には、いちばん面倒くさくない」という結論に至った人が少なからずいることを知りました。
面倒くさがりを突き詰めたゆえに、傍からは、ものすごく勤勉にみえる人って、存在するんですよ。
ときどさんは、まさにこのタイプではないかと思います。
怠け者の僕が重視しているのが「家」です。家はプライベートな空間と思っている人が多いせいか、プロゲーマーでもそれほどこだわっている人がいないようです。だからこそ、差をつける余地が残されれていると思っています。
僕が普通の生活で最も気を付けているポイントは、家を、必要以上に居心地のいい状態に「しない」ことです。
僕の部屋には驚くほど何もありません。大きな家具はベッドのみ。テレビはもちろん冷蔵庫すらないので、『情熱大陸』の密着取材に来たテレビクルーの人たちも驚いていました。たまに遊びにくる友人知人もドン引きして、「つまんなくない?」とよく聞いてきます。確かに、部屋にいるときはつまらないです。
僕が家をこんな環境にしているのは、練習やジムに行くのが億劫にならないためです。もし家が快適で、寝転がると気持ちいいソファやいつでも見られるテレビがあったら、面倒くさがりの僕は、すぐにゴロゴロして家から出なくなってしまいます。日常生活の中で、家で家事をしたり、片づけをしたりする時間はバカになりません。モノを減らす最もよい方法が、小さい家に住むこと。僕は、いくらたくさん賞金をもらったとしても、ワンルーム以上の広さに住むつもりは今のところありません。
こういう生活を自分ができるか、と言われると、僕には全く自信がありません。たまにビジネスホテルに泊まると、余計なものが何も無い空間が、すごく新鮮なのだけれど、それは、あくまでも「適度にゴチャゴチャした、住み慣れた部屋」があるからなのです。
でも、「プロゲーマーとしての自分のルーティンを守る」ためには、自分の意志の力を過信するよりも、こうして、「家にずっと居づらいような状態にしておく」ほうが確実ではありますよね。
ときどさんは、なるべく仕事場の近くに住むことやエレベーターの乗り降りの時間をなくすために1階の部屋に住む、などということも意識しているそうです。
ここまで真似をするのは難しいなあ、と思ったのですが、「家にものを置かずに、寝るだけの場所にしてしまう」なんていうことは、本気であれば、誰にでもできることなのです。
こんなに頑張っているのに、なかなかうまくいかない……と悩んでいる人は、ぜひ一度読んでみてください。
その努力のしかたは、もう時代遅れなのかもしれないから。