- 作者: レンタルなんもしない人
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2019/04/17
- メディア: 単行本
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内容紹介
【なんでこんなに優しいんだろう。】「ごく簡単な受け答え以外、できかねます」
twitter発、驚きのサービスの日々。本当になんもしてないのに、次々に起こる
ちょっと不思議でこころ温まるエピソードの数々。行列に並ぶ、ただ話を聞く、絵画のモデルになる、一人カラオケに付き合う、
掃除をしているのを見ている、ドラマに出演する、行けなかった舞台を代わりに見る、
カレーを一緒に食べる、ヘッドスパを受ける、裁判の傍聴席に坐る、映画を見る、
ボウリングに付き合う、ブランコをこぐのを見守る、ラーメンを食べる、深夜の徘徊に同行する、
言われたとおりのコメントをDMで返す、離婚届に同行する、なんもしないホストになる……etc「なんもしない」というサービスが生み出す「なにか」とは。
2018年6月のサービススタートから、
2019年1月31日「スッキリ」(日本テレビ)出演まで、
半年間におこった出来事をほぼ時系列で
(だいたい)紹介するノンフィクション・エッセイ。
僕は書店でこの本を見かけるまで、「レンタルなんもしない人」のことを知りませんでした。
いや、これだけネットに入り浸っているのだから、どこかで名前や活動を見かけていた可能性が高そうなので、まったく観測範囲になかった、と言うべきなのだろうか。
こんなに有名そうな人なのに……ネットというのは、人それぞれ、「見えている世界」が違うし、それは年々顕著になってきている、ということなのでしょうね。
この本では、「レンタルなんもしない人」が、2018年6月の活動開始から、2019年1月31日にテレビ番組『スッキリ!』で紹介されるまでの半年間にやってきたことを日記のような形で追っています。
こういう本をつくる場合には、話題になったり、印象的だったりという、いくつかのエピソードを深く掘り下げていく方法もあったと思うのですが、この淡々とした日記形式は、「レンタルなんもしない人」の雰囲気に合っているように感じました。
【利用規約】(以下暫時追加)
「レンタルなんもしない人」というサービスを始めます。
一人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ一人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。
国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。
ごく簡単なうけこたえ以外なんもできかねます。
こんなルールでスタートした「レンタルなんもしない人」なのですが、僕がリアルタイムでこれをネットで見ていたら、「こんなの誰が利用するのだろう?」としか感じなかったはずです。
思いついたのが「出張先などで、一人で焼き肉に行きづらいときに、一緒に行ってもらう」ということくらいかな。
そうだ、オフ会に一緒についてきてほしい。
僕は案外なんでもひとりでできてしまうし、「なんもしない人」が傍にいたとしても、「なんもしない人」として扱う自信があんまりないのです。
とりあえず、場所取りとかチケットの並びとかは想像できるのですが、それに関しては、早々に「あんまり興味が持てないのでやめます」と宣言されています。
そもそも、それは「なんもしない人」がやることでもなかろう、と。
しかしながら、この本を読んでいくと、世の中には「とりあえず誰かに、そこにいてほしい」というニーズが少なからずあるということに気付かされます。
僕が知っているこの半世紀くらいでは、今ほど「おひとりさま」が生きやすい時代はないと思うのだけれども、それでも、「ひとりでは生きづらい、居づらい場所」というのが、世の中にはたくさんあるのです。
それは「こちら側の思い込み」の場合が多いのかもしれないけれど。
「焼肉食べ放題の店に行って全力で食べたいけれど、友達とだとどうしても遠慮してしまうのでついてきてほしい」とか、「ドラッグストアめぐりが趣味だけれど、ひとりで長時間店内にいると怪しい人だと思われるので一緒に来てほしい」とか、「引っ越しのときに、誰かに見送ってほしいのでお願いします」とか、読んでいると、「ひとりではやりづらいけれど、知り合いに頼むのはハードルが高いこと」って、世の中にけっこうあるんですよね。
なんとなく、人のぬくもりがほしいけど、自分の世界に介入されたくない、ということも。
人と人との関係とかつながりにはさまざまな状態があって、「レンタルなんもしない人にお願いするくらいが、ちょうど良い距離」が、いまの世の中には存在している、というだけのようにも思われます。
【9月24日】
この「レンタルなんもしない人」という活動、「新手のヒモ」「新手の乞食」「単なる無職」など散々な言い表し方をされることが多くてよく気が沈むんですが、以前出たAbemaTVの番組で、ふかわりょうさんが「面白い船が集まる港」と表現してくれて、それを時々思い返すことで気を保っているとこある。
「貯金がある」「家族が応援してる」といった条件をつけて「良し」とされることが多いので、あえて言いたいのですが、貯金がなく、家族が反対してても別にいいじゃないかという気持ちもあります。人間の営みをすべて「飯の種」と捉えなければ気が済まない思考回路っぽい人には「自分はライター業をやっていて、今は取材に集中している段階と言える。交通費や諸経費の不安なしにいろんな経験ができるのだから、取材のやり方としてうまいでしょ」みたいに説明してます。
これはこれで、本人にとっては「不本意」なのでしょうけど。
ただ、読んでいると、利用する側にも、「なんもしない人の存在を必要としている」というよりは、「話題になっていて、ネットではけっこう影響力がある人のネタにされることによって、何かの宣伝をしたい、自分をアピールしたい」という宣伝媒体としての利用価値を見出している人が少なからずいるように感じました。
そして、利用する側も、「どんな面白いことをレンタルなんもしない人に頼むか」という「大喜利」になっていったように見えるのです。
それもまた、「織り込み済み」ではあったのだろうか。
たまに「写真を撮ってほしい」「部屋の片付けを手伝ってほしい」「〇〇を買ってきてほしい」など、なんかさせようとしてくる依頼が来て身構えてしまうんですが、人間をレンタルできるサービスはほかにもあることを忘れないでほしい。人になんかしてもらいたい方はおっさんレンタルをご利用ください。
こないだの大学院入試に合格した例に限らず、実際にレンタルしなくても効果が出る現象は稀ながら起こっている。具体的には、一人で行きづらい場所があるときに「レンタルなんもしない人をレンタルしたい」とつぶやくと、フォロワーの誰かが気にかけて同行してくれる流れになるなど。
正直、レンタルさせてくれる基準がよくわからないところもあるのですが、この「レンタルしたい表明によって、他の人が立候補してくれる」なんていうことも起こりうるのがネットの面白いところなのですよね。
そして、こういう活動をやっている人ならではの「依頼」が来ることもあるのです。
新年会に向けて、人と一緒にご飯を食べることのリハビリをしたいので食事に同席してほしいという依頼。極度の人見知りかと思いきや”会食恐怖症”という病気で、特定の人を除き、人とご飯を食べると吐き気など不調が現れるらしい。同僚から食事に誘われたときの断る理由も尽きてきたそうで大変そうだった。
こういうのも、相手が「なんもしない人」だからこそ、頼めるのではないか、と思うんですよ。
そして、自分の身の回りに、そんな人がいるなんて想像もしなかった人たちにも、「レンタルなんもしない人」を通じて、認知されたのです。
実際は「なんもしない」というのは、けっこう才能がいるのではないか、とも思うんですよ。
僕などは、仕事で人の話を聞いているときも、昔話が長くなりはじめると、「これはつらい……誰かPHSを鳴らしてくれ……」と、心の中で叫んでしまいます。とはいえ、それを表面に出すわけにもいかず……
「何もしない」かつ、「何もしないことに苛立っていると周囲に感じさせない」というのは、けっして簡単じゃないはず。
これはある意味、高度な専門職のような気もするのです。
とはいえ、多額の報酬が発生すると、また違うプレッシャーがお互いにかかってしまうのでしょうね……
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コミケにて「おっさんレンタル」で売り子をお願いした話 (バンブーコミックス エッセイセレクション)
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