- 作者: 椎名誠
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2019/09/21
- メディア: 文庫
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Kindle版もあります。
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内容紹介
完全カキオロシ三部作ファイナル!知られざる台湾の裏側へ乱入!ビールだマグロだ宴会だ! 過去最大の怪しいメンバーが台湾東南の田舎町に集結。ニワトリに包囲された一軒家で目的のない大集団合宿を敢行する。謎のうどんと格闘し、離島でマグロを狙い、小学生に真剣野球勝負を挑み、即席楽団が町を練り歩く。ひらひらやふにゃへらを相手にシーナ隊長はどう立ち向かうのか? 抱腹絶倒暴飲無駄酔的満腹御礼の完全カキオロシ三部作ファイナル!
本編に加えて、シーナ隊長や隊員が「あやしい探検隊」を振り返る座談会を巻末に収録。さらに盟友・沢野ひとしによるイラスト、四コマ漫画を豊富に散りばめたファン必携の一冊。
椎名誠さんの「あやしい探検隊」シリーズの(いちおう)最後の作品。
一作目の『わしらは怪しい探検隊』が上梓されたのは1982年だそうですから、もう40年近く前になるんですね。
僕がはじめて読んだのは1990年くらいだったと思うのですが、体育会系は大の苦手だったにもかかわらず、『あやしい探検隊』シリーズにはすごく魅力がありました。
自分とは縁遠い世界だったからなおさらなのかもしれないけれど、男だけで「合宿」をしながら自然のなかで朝からビールを飲み、夜は焚火をしながらの大宴会。
若手は「ドレイ」と呼ばれて、先輩の雑用を引き受けなければならないのですが、みんな気のいい男たちで、一緒にいられるのが楽しくてたまらない、という感じなのです。
とはいえ、今の世の中では、若手の雑用係を「ドレイ」と呼ぶだけで、批判されてしまうのではないか、と心配になってきます。
単純なコトなのだが「どうして我々は合宿なのだろう?」という個人的疑問である。
このシリーズは最初から今回までずっと大勢の男どもと大小様々な旅に出ている。テント旅から今回のような合宿形式まで、必ず大勢だ。
これは単純にいうと、つまりおれがこういう野郎部隊で遊ぶのが、とくにみんなで野外で焚き火なんかを囲んでビールを飲んで酔うのが単純に好きだからなのだろう。
一人で都会の片隅のバーかなにかのカウンターの端のほうに座ってドライマティーニ―なんか頼み、ハードボイルドみたいな顔をしているのがいやなのだ。
浜辺で一人背中まるめて焚き火しつつ飲むこともできるが、目をはなしていると海に飲み込まれてしまいそうで油断できない。
考えてみると「そもそも」はおれが19歳ぐらいのときはじめて親元からはなれて都会のオンボロアパートの一室に暮らした。そのとき仲間を集めた。友人の沢野ひとし(今はイラストレーター)木村晋介(今は弁護士)、高橋勲(会社経営者)の三人に声をかけ「おいおいみんなこれからは合宿の時代なのだ。セーネンはひとりで暮らしているとロクなことを考えないが4人いればなんとかなる。いやそういうのが4人も集まるとろくでもないことになるかもしれないがそんなコトをおそれず合宿しなさい。そういうふうにするように法律で決まっているんだ」と強引によびかけ、このときも4人で暮らすことにさしたる目的も目標もないまま合宿生活に入ったのである。それ以来、おれの「合宿人生」がはじまった。
だから現在、合宿の旅をする、というのはおれの身にそなわった「趣味」以外に人生でめざすところの聖なる主軸、目標そのものであること以外なにものでもないのである。
思えば、椎名さんは50年くらいこうして「合宿」をさまざまな人たちと続けているわけです。そして、それを描く文体も、40年前とそんなに変わっていないように感じます。
これは、とくに意識せずにそうなっているのか、それとも、椎名さんには「『探検隊』は、この文体で書かなくては」という気持ちがあるのだろうか。
今回、『あやしい探検隊』は、台湾の一軒家を借りて合宿生活を行っているのですが、最後まで読んでも、本当に「身の回りの雑記と食べ物と隊員たちの行状記」が書かれているだけで、イベントといえば、地元の小学生と野球対決したことくらいなんですよ。
これを一冊の本にできて、読む側も「うんうん、今回も『怪しい探検隊』だな」って、納得できるという荒業は、椎名さんにしかできないような気がします。
我々の間ではこんにちはの次の挨拶コトバとなっている「まずはまあビールですなあ」という友好言語がかわされ、素早く冷たいビールが届けられた。
台湾ビールは大瓶で150円くらい。安め感があるが、我々がフルメンバーで合宿体制にはいったら覚悟しておかなければならないことがあるんだよ、と竹田が今回の前半の世話役となる似田貝をいろいろ脅かしている。
いちばん現実的で卑近な例は三年前の、今回と同じような規模の済州島合宿であった。
「ビールは缶も瓶もまずは100本は用意しておくこと。それらは常に冷たくしておかなければならない。ビールが切れると即座にヒタイの血管2~3本がブチブチ切れて暴れる奴がいる」
フムフムと似田貝がメモしている。まだその目に真剣さが足りない。似田貝には「スナックを経営するんじゃないんだからそんなには……」という甘さがあるのだろう。それを見破った竹田が怒る。
「具体的に説明しようか。前回の済州島のとき一日平均8人が宿泊したが、一日に平均2ダースの缶ビール、2ダースの瓶ビールが消えていった。しかし済州島のときは、1本90円のマッコリ(コメ原料の炭酸白酒、ワイン程度のアルコール度)があってビールのあとはそっちへ移行していくヒトが多かったが、この台湾の田舎町はマッコリのようなものはないからそのあといきなり米酒とかウイスキーになる。いずれも現地産。サケにうるさい、いや意地汚いこの集団がそっちの方向にうまく移行していくかがモンダイだな。前回済州島合宿のときも通訳およびアテンド係にやとった学生が『これは酒飲研究会かなにかの強化合宿ですか』と聞いたくらいなんだ」
「なんとなくわかってきました。すべてはサケですね」
と似田貝。
「そういうわけではなくちゃんと昼間は島のフィールドなどでタンケンのふりをしているんだけれど、とにかく隊員が基本的にみんな呑むんだ。誰かが呑みだすと損得勘定でほかの者が負けじと呑みだす。みんなそのヘンの思考の構成が幼稚なんだ。で、呑みだすと止まらない、という法則があり、これはフレミングの左手の法則に近いほど盤石のものになっているんだぞコラ!」
そのあたりの竹田のドーカツまじりの必死の解説を似田貝が正確に理解したかどうかはわからなかったが、事実そのあと繰り広げられた連日のわしらの態度、行動が「有無」をいわせなかったのは確かだろう。
今や、飲み会でも、相手に無理に飲ませる「アルコールハラスメント(アルハラ)」が問題視される時代です。僕自身は、無理にお酒を勧められなくなって助かっているのですが、心底酒を飲むことが好きな人たちにとっては、肩身が狭くなっているのかもしれませんね。
こうして、体育会系の雰囲気やお酒が好きな人たちだけで集まると、余計な気をつかわなくても済むのでしょうし。
「怪しい探検隊」がはじまった1980年頃は「飲む人たち」が真ん中にいて、飲めない人たちは隅っこで時間が経つのを待っていたのだよなあ。
大勢で飲んで、バカ話をして、騒ぐ。
いつのまにか、「それは単なる迷惑行為」になってしまいました。
昔だって、みんなそう思いつつ言えなかっただけかもしれないけれど。
単行本は2016年に出ているのですが、読んでいて、なんだか自分の若い頃を思い出さずにはいられなくなりました。
椎名さん、もう70代なんだよなあ。それでも、椎名誠であり続けているのはすごい。
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