琥珀色の戯言

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【読書感想】世界のへんな肉 ☆☆☆☆

世界のへんな肉 (新潮文庫)

世界のへんな肉 (新潮文庫)


Kindle版もあります。

世界のへんな肉(新潮文庫)

世界のへんな肉(新潮文庫)

内容紹介
キリン、ラクダ、ビーバー、トナカイ……
あいつもこいつも
食べちゃった!

世界放浪おもしろ肉エッセイ!

世界は広い。ところ変われば、肉も変わる。
100以上の国を旅して味わった、日本では食べられない動物たち。
乗るより食べたいラクダのケバブ(エジプト)。
ワインと合わせたビーバーのプラム煮込み(リトアニア)。
恋する女子大生が大好きなヒツジの脳みそサンドイッチ(イラン)。
コラーゲンたっぷりでお肌プルプルになるアルマジロ(グアテマラ)。
サンタさんの友達トナカイは、カルパッチョにして食べてしまう(スウェーデン)。
旅のおもしろさは、いい人も悪い人も、おいしい肉もまずい肉も、
ぜんぶひっくるめて“出会い"にある。
楽しい旅と忘れられない味の記憶を
直筆のかわいいイラストと共に綴る、めくるめく肉紀行!


 世界にはいろんな肉があって、それを食べている人たちがいるものだなあ……と思いつつ読みました。
 僕は食べ物に関しては保守的で、食べたことがないもの、ましてや肉となると、かなりしり込みしてしまうのです。
 しかしながら、著者の文章はすごく軽やかで、あまりおいしくなさそうな肉であっても、味や見かけについてもマイルドに表現されています。
 写真ではなくイラストで紹介されているので(それも、「肉」そのものをリアルに描いたものではありません)、資料としては価値に乏しそうなのですが、生々しい写真満載よりは、気軽に、楽しく読めるのです。

 僕がけっこうこういう「世界のいろんな食べ物話」を読むのが好きで、免疫ができている、というのもあるのかもしれませんが。
 たとえばこの本とか。

fujipon.hatenadiary.com


 この本を読んでいると、『美味しんぼ』というのが、僕の、そして日本の食文化に大きな影響を与えたことを痛感します。
 あの漫画のおかげで、「食べたことはないけれど知っている」食べ物がかなり増えたのです。


 著者がイランで食べた「ヒツジの脳みそサンド」の話。

 脳みそサンドが出来上がり、ザムザムとともに運ばれてくるころ、遅れて歩いていたおばちゃんたちも店に到着した。ああ、1個だけコッペパンから脳みそがウネウネはみだしているけど、これが私のね。


 もしかして、毛虫みたいに(食べたことないけど)、ネットリしてすんごい気持ち悪い味がするのかな?
「ねえ、ママ! あづさ、ヒツジの脳みそ食べるのはなんだって!」と言っているらしいファラの言葉に、家族だけではなく店員さんもお客さんも振り返る。ザワザワと店中大注目のなか、「脳みそはいやです」と今さら言い出すわけにもいかないだろう。
 
「い、いただきます」。意を決して脳みそのはじっこを食べてみると……あ、これは……カレー味の白子だ。ふわふわっとして、食感は絹豆腐といってもいい。なんだ、いけるではないか! 思わずうなずくと、「あ、日本人が食った!」と店中で拍手喝采
 このサンボビーチェマーグズは、ハムやチキンのサンドよりも安いのだけれど、白子と思えば高級食材だ。なぜ日本では食べないのかしら? おでん屋んで白子のかわりに出されても分からないかもしれない。コッペパンのほんのりとした甘みとも意外に合う。


 あ、この『ヒツジの脳みそ』の話、『美味しんぼ』で読んだ!
 と僕は思ったわけです。でも、「白子みたいな味」と言われても、僕はやっぱり、「脳みそを食べる」ということに抵抗があるのだよなあ。
 なぜ、筋肉は良くて、脳みそはダメなのか?と問われたら、うまく答えられないのだけれど。
 
 著者がさまざまな肉に、積極的にチャレンジしていく姿は、爽快なんですよ。
 世界を巡り歩くには、胃腸の強さと食べものへの適応力が大事なのだな、と、1か月くらい海外にいただけで「日清のカップヌードル最高!毎日これでいい!」という気分になってしまった僕は痛感しています。

 この本の面白さは、さまざまな肉とその食レポだけではなく、著者が旅先で出会った人や異文化との遭遇にあります。

 さあ、いよいよ狩りが始まる。ヒタヒタとインパラに近づき、突然、ピューッ!とすごい勢いで走り出したチーター! インパラは「キャー! 恐ろしいチーターよ!!」とばかりにパニックになって逃げ惑う。同じツアー客のフランス人は「行け、行け!」とチーター気分で叫ぶけれど、私は反対に「いやあああ! 逃げてー!!」。孤児院での狩りごっこ以来、どうも草食動物の気持ちになるのだ。


 わずか10秒。チーターは逃げ遅れた子どもインパラのお尻にガブッ! 「やったっ!」と大喜びのフランス人にドン引きしてしまったが、どうしてこんなにお国柄が違うのかしら? 昔、イタリアで人を襲うゾンビ映画を見たら、周りの観客が人間ではなくゾンビの気持ちになって見ていたのにはびっくりしたけれど、やはりヨーロピアンには狩猟民族の血が脈々と流れているのだろうか?

 僕も「逃げてー!」派になると思うのですが、襲うチーターの側に感情移入してしまう人というのもいるんですね。それが「お国柄」なのかどうかはわかりませんが。いや、動物の狩りなら、「せっかくケニアまで来たのだから、そういう場面を見たい」という気持ちもわからなくはないけれど、「ゾンビ映画をゾンビの気持ちになって見る」っていうのは不思議というか、あれって、襲われる怖さを楽しむ(?)映画じゃないの?

 この本を読むと、世界で多くの人が食べている肉には、それなりの理由があるのだな、と納得してしまうのです。
 そして、ある地域でだけ食べられている肉にも、それなりの理由と味があるということもわかります。


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