琥珀色の戯言

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【読書感想】社長って何だ! ☆☆☆☆

社長って何だ! (講談社現代新書)

社長って何だ! (講談社現代新書)


Kindle版もあります。

社長って何だ! (講談社現代新書)

社長って何だ! (講談社現代新書)

内容(「BOOK」データベースより)
決断するとき、誰にも相談できない「孤独」が人を強くする―。部・課長必読!これからのリーダーに必要な「資質と能力」


 この本が書店でベストセラーランキングに並んでいるのを見るたびに、僕は思っていたのです。
 「社長なんて、僕には縁がない話だし、読む必要はないな」って。
 著者の丹羽宇一郎さんは、元伊藤忠商事株式会社会長で、中国の大使にもなられた、生きた伝説ともいえる経営者で、「成功者の自慢話なんだろうな」とも思いましたし。
 それは半分くらい当たっていましたし、いまの「社長像」とはズレてしまっているところもあると感じたのですが、それでも、なんらかの組織でリーダーとして振る舞う必要がある、あるいは、そういう人を見いださなければならな立場にあるのなら、一度は読んでおいて損はしないと思います。

 私は若いころから「お金を貯める」ことを知らず、社長になる時も会社の株は一株も持っていませんでした。
有価証券報告書で社長が保有する自社株ゼロと開示されるのは、いくらなんでもまずいだろう」
 そういわれて、まず3000株を買うことから始まりました。
 お金は有効に使うことをもって旨とすべきです。若いころはどんどん自分に投資すべし。初任給で年収300万円の1割を貯金すれば30万円。30万円を貯めるために、本も買わず、お酒も飲まず、何の刺激もなく頭を空っぽにして、いったい何をするつもりですか。
 だったら、うまいものを食べてもいい。旅行してもいい。習い事をしても資格を取ってもいい。結婚して子どもができるまでは自分のために有意義に使ってしまいなさい。それがすべて仕事をする活力につながります。若いころに切り詰めて貯めた小銭など、部長や役員になれば、あっという間に貯まります。


 たぶん、こういうのを読んで、「その通りだ!」と思うような人じゃないと、社長にはなれないのです。
 僕などは、いつ会社が潰れたり、クビになったりするかわからないのに、そんなムチャはできないよ……と言いたくなります。
 「自分に投資」が通用したのは、経済が右肩上がりで、終身雇用がほぼ約束されていた時代のエリート会社員のみ、なんですよね。
 
 ただ、昔の話だから、丹羽さんの話は無意味、というわけでもないのです。
 今の感覚でいえば、「仕事人間で、家事や育児は妻に任せっぱなしだった」と言うだけで「人間失格」の烙印を押されそうですが、「社長は、プライベートを後に、会社や社員のこと、公益を先に考えなければならない」というのは、「公人」としては致し方ない気もするのです(僕も古い考え方の人間なのかもしれません)。
 
 「古い」だけに、ここに書かれている内容には、普遍的な真理も含まれているようにも感じるのです。
 丹羽さんは、伊藤忠の社長時代に行った不良債権の処理などの改革がうまくいった理由のひとつとして、「社員の信頼を得られたこと」を挙げています。

 では、社員の信頼を得るにはどうすればいいのでしょう。
 まず「情報を共有する」ことです。社員が社長と同じ情報を共有して、社長の判断を信頼する。そのとき初めて社長の力が発揮できます。社員に嘘をついている社長、社員と情報を共有できない社長は、会社の改革、改善はできない、ということです。
 もちろん、「情報の共有」と言っても、ブラックボックスの部分は残ります。ある段階までそれは言えないかもしれません。しかし、いずれは明らかにしなければなりません。


 丹羽さんは「情報」は共有するべきだと仰っているのですが、その一方で、こんな話もされています。

「社長が孤独でなければ、その会社はうまく回っていかない」
 というのが私の信念です。
 私自身の体験として12年もの間、社長と会長を務め、そこに共通して求められた資質は「孤独に負けない」ことだったと思います。
 具体的には、第一に自分が抱え持っている問題や困難、情報を他人に話さない、ということです。いくら箝口令を敷いても、話せば必ず広がります。秘密は保てないと思ったほうが賢明でしょう。
 側近と呼ばれる人間でも同様です。ましてや家族は推して知るべし。
 自分がつらい状況にあるときほど、人はどうしても他人とそのことを分かち合いたくなるものです。はたして自分の判断は正しいのか。このままで大丈夫なのか。自分一人では不安になります。
 不安になって自分以外に同意なり反対なりの意見を求め、それを判断の拠り所にしようとするわけです。意識せずとも、無意識にそうして楽になりたくなります。そこを耐え忍ばなければならない。
 少なくとも自分の会社が大きな事業なりプロジェクトなりに着手するときには、話すのは最低限のことに留めるべきです。必要なことだけを話し、肝心なことは黙して語らず。「孤独に負けない」とはそういうことです。


 丹羽さんは「社長は二重人格的なところがなくてはいけない」と仰っているのですが、共有すべき情報がある一方で、他人を信用しすぎると危険もある。
 こういうところを紹介すると、やはり、権謀術数に長けていないと偉くなれないのだな、と思われてしまうかもしれませんが、実際は「権謀術数だけが得意だったために社長になってしまい、会社を傾けてしまった人」というのが多いようにも思われます。
 丹羽さんは、伊藤忠不良債権を抱えて大ピンチだったがゆえに「非常事態の人事」として社長に抜擢され、会社を救ったわけですが、大概の安定期(のつもり)の会社は、「社長の仕事に向いている人」ではなくて、「社長になるための権力闘争に勝てる人」が偉くなってしまうのです。

 「正しい判断」というのは、そのタイミングも含めてのものだということも書かれています。
 伊藤忠は、多額の不良債権を一度に処理し、そのために株主への配当がゼロになった時期があったものの、その果断な処理によって、かえってダメージを軽減し、他社よりも早い回復と成長をみせました。

 周りすべてが音無しの構えの時に、一人先んじて不良債権を一括処理した会社はそれゆえに成功しました。みんなで一斉にやっていたら、全員共倒れで回復など到底見込めなかったでしょう。

 それが成功したからといって、誰かのあとに同じことをやったら、もう手遅だった、という事例は多いですよね。
 正解は、つねに変化しているのです。

 前述したように、私は社長就任時、任期を六年にすると社内外に公言しました。つまり六年後にすっぱり社長の座を退くということです。
 なぜ六年かと言えば、経営再建にはそれくらいの期間が必要であること、そしてそれに伴う私の情熱が続くのもやはりそれぐらいだろうと判断したからです。
 私の経験から言って、六年以上かけなければできないようなプロジェクトはほとんどありません。六年間トップを務めた社長が、「まだやり残したことがある」と任期延長の理由を語る場面をときどき目にします。
 バカを言っちゃいけません。「やり残したことがある」ということは、「六年かかってもできなかった」ということです。そんな役立たずの社長に会社の将来を預けられますか。
 私が自分の任期を公言したのは、自分に対する戒めでもありました。六年も社長を続ければ、知恵も経験も自信も付いてきます。見え透いた甘言には嫌悪感を覚えても、一度甘い味を経験したら「今、辞めてもらっては困ります」というお世辞を本気にして、権力の座にしがみついてしまうかもしれません。
 ならば先に引き際を決めて宣言してしまおうと考えたわけです。内外に宣言した以上は、いやでも守らなければならなくなります。
 長く続けることが力のある証拠だと思っておられる社長も数多く目にしますが、百害あって一利なしでしょう。むしろトップにいる期間は、一定期間を超えれば短ければ短いほどいい、というのが私の持論です。
 社長、あなたがいなくても、世の中はちゃんと回っていくものです。過去、大企業の社長が替わったために会社が潰れたという事例を私は寡聞にして知りません。


 丹羽さんの業績のなかで、いちばんすごいのは、「公約を守って、社長の座を6年で降りたこと」ではないか、と僕は感じました。
 どんなにすぐれたリーダーでも、長い間権力の座にいると、周りはイエスマンだらけになり、自制しているつもりでも、「忖度」されるようになってきます。
 どんなに素晴らしいリーダーでも、「権力は腐敗する」のです。
 みんな、リーダーになったときはそう思っていたはずなのに、「自ら身を引く」ことができる人は、ほとんどいません。
 それほど、権力を持つというのは魅力的であり、場合によっては、権力を失う恐怖も感じるものなのでしょう。

 わかっていても、「潔く去る」のは難しいんですよね。
 それは、歴史が証明していることでもあるのです。


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