ある日ボニーは、幼稚園の工作で作ったお手製のおもちゃのフォーキーを家に持って帰る。カウボーイ人形のウッディが、おもちゃの仲間たちにフォーキーを現在のボニーの一番のお気に入りだと紹介。だが、自分をゴミだと思ってしまったフォーキーはゴミ箱が似合いの場所だと部屋から逃亡し、ウッディは後を追い掛ける。
2019年、映画館での16作目。
平日のレイトショーで、観客は20人くらいでした。
この『トイ・ストーリー4』の公開がアナウンスされたとき、僕は正直、「余計なことするなよ……」と思ったのです。
それは、『トイ・ストーリー3』で、この世界がほぼ完璧な形で「完結」したから。
この『トイ・ストーリー4』を観終えて、僕は最近ニンテンドースイッチで久々に通してクリアした、『逆転裁判1・2・3』と、その続編である『逆転裁判4』のことを思い出しました。
このシリーズも『3』でほぼ完璧にその世界の伏線を回収していたのですが、のちに発売された『4』では、それまでの主人公の弁護士・成歩堂龍一から新しい主人公にバトンタッチしようとしたものの、成歩堂やこれまでのキャラクターの人気が高く、また、成歩堂自身も微妙な登場の仕方をしていて、批判の声が強かったのです。
せっかくこれまで積み上げてきた世界観を台無しにされた、こんなの『逆転裁判』じゃない、と。
個人的には、『逆転裁判4』は、『3』の異様なまでのクライマックスの盛り上がりはないけれど、ひとつのゲームとしては、当時の携帯機でこれを上回るアドベンチャーゲームは少ないだろう、というデキではあったんですよね。『逆転裁判』の正式な続編でなければ、良作として評価されたのではないかと思うのです。
「思い入れのあるキャラクターをないがしろにしやがって!」と続編に対して怒りや苛立ちを感じることは少なくないけれど、思い入れがあるキャラクターだからこそ、人々はゲームを買ったり劇場に足を運んだり、その扱いに心を揺さぶられたりするのです。
『スター・ウォーズ』もエピソード7、8も観るのがけっこうきつかったな、そういえば……
fujipon.hatenadiary.com
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ヒットが約束された「続編」をつくるために、せっかく「良い思い出」になっていたキャラクターたちを新しいキャラクターの踏み台にしたり、またひどい目に遭わせたりするというのは、不快なんですよ。
でも、その作品を見届けずにはいられなくなってしまう。
やたらと前置きが長くなってしまいましたが、この映画の感想をシンプルに言うと、単体の映画としてはかなりの良作、『トイ・ストーリー』の続編としては微妙(というか、続編を作ることそのものが蛇足だと思う)、でも、これまでの思い出の積み重ねがあるウッディやバズの話だからこそ、「沁みる」映画でもある。
僕はウッディのフォーキーへのこだわりに、「そうは言っても、ボニーはすぐフォーキーに飽きてしまうし、なくなったら一晩くらい悲しんで、また他の大事なおもちゃを作るだけだよ」と大人目線で思っていました。
僕自身も、そういうふうに「大事だったはずのおもちゃ」のことを忘れてしまってきたから。
それでも、ウッディは、ボニーの「いま」のために諦めなかった。
そして、『トイ・ストーリー』は、「ひとりの子どもの成長に寄り添い続けるおもちゃの物語」でもある、いや、あった。
この『トイ・ストーリー4』は、むしろ、大人向けの映画ではないかと思うのです。
ウッディは「誰かのおもちゃ」(って、どうも不穏な表現ではありますが)であることに誇りを抱いていたし、ウッディの忠誠心が人々の子ども心を動かしてきたのです。
しかしながら、今作では、ウッディの「思い」は、空回りしているというか、ウッディは「ボニーのために何かをしてあげる」ということに、失われつつある自分の存在意義を賭けてしまっています。
「子どものために」という名目で、「自分の幸福のイメージ」を子どもに押しつけ、「やっぱりお父さん(お母さん)がいないとダメでしょ?」と子離れできない親のようになってしまっている。
ウッディは、そのこだわりが、自分自身をも束縛していることに気づいていないのです。
ピクサーのジョン・ラセターは以前「『トイ・ストーリー』のオモチャたちは、ピクサーのスタッフの分身である」と言っていたそうです。
『1』から24年、古参のスタッフたちは、みんな年を重ね、「親」にもなっていきました。
そのスタッフの子どもたちも、もう、それなりの年齢になってきた。
親たちも、子どもから離れて、「年齢を重ねた、自分自身の生き方」をあらためて見直す時期がやってきたのです。
少し視野を広げれば、これまで自分が正しいと思ってきたこと、社会の規範だと考えてきたこと以外にも、いろんな生き方や可能性はある。
僕はこの映画、『天気の子』とテーマが似ているのではないか、と思ったんですよ。
これまで自分自身を縛ってきた「帰属意識」や「社会規範」への懐疑と、それを打ち破るカタルシス。
逆に言えば、こういう映画が、今、このタイミングで相次いで公開され、大ヒットしているのは、「多くの人が、いまの社会から受けている『同調圧力』みたいなものに大きなプレッシャーを感じている」からなのかもしれません。
ただし、ピクサー(ディズニー)が老獪(?)なのは、これまでの社会規範に沿った生き方を否定しているわけではなくて、「これまでのやりかたで幸せになれる人もいるんだよ」というメッセージも忘れていないところなのです。
みんなちがって、みんないい。
突き抜けてしまった感のある『天気の子』に比べると「万人受け」するけど、インパクトは抑え目になってもいます。
『トイ・ストーリー3』の続編だというより、「もうひとつの『トイ・ストーリー』あるいは、『シティハンター』と『エンジェルハート』の関係、みたいな感じで観ると、素晴らしい作品だと思います。それができないから、僕も含めて、多くの人が「うーん」って考え込んでしまうのですが。
まあでも、もうちょっとバズや昔の仲間にも活躍してほしかったかな。
あと、戸田恵子さんの声が好きです。「あんパーンチ!」(違わないけど違う)
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