- 作者: 金成隆一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2019/09/21
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
ニューヨークを飛び出し中西部に広がるラストベルトへ。再訪のロードトリップで見えてきたトランプ王国のその後を追う。都市と地方の中間に位置し揺れる「郊外」、さらに、深南部(ディープサウス)に広がる熱心なキリスト教徒の多い「バイブル(聖書)ベルト」へ。四年半で一〇〇五人に取材した真のアメリカがここに。
2017年に上梓された、『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』の続編、というか、熱狂的にトランプ大統領を支持していた人たちの「その後」を追ったものです。
この2冊に共通しているのは、「日本の大手メディアが取材し、『アメリカの考え方』として紹介している、ニューヨークやカリフォルニアなどの『リベラルなアメリカ』ではない地域を著者が実際に訪れて、現地の人たちに直接取材をしていること」なのです。
著者自身は朝日新聞の記者であり、大手メディアだからこそ、ここまで細やかで大規模な取材ができる、というのも事実なんですよね、きっと。
言われてみれば当たり前のことではあるのですが、アメリカという大きな国は、一枚岩ではないのです。
沖縄を除いては、地域による政治的な色分けが目立たない日本に住んでいる僕には、ラストベルトやバイブルベルトに住むアメリカ人と、ニューヨークの「リベラル」たちの考え方の違いと、それでも「アメリカ」という国が成り立っていることに驚かされるのです。
「バイブルベルト」なんて、聖書に教えに厳格であろうとするあまり、進化論を否定する狂信的な人たちばかりが住んでいる地域、というイメージがあったのですが、彼らには彼らの生きかたがあるのだなあ、とあらためて思い知らされます。
日本の「有識者」の多くが、トランプ大統領の誕生を災厄のように語っていました。
トランプ大統領が誕生したのは、2016年の終わりでしたから、3年が経ちます。
ツイッターでの「暴言」や、中国との関税問題、地球温暖化対策の「パリ協定」からの離脱など、トランプ大統領ならでは、の出来事はあったものの、メキシコとの国境の壁はつくられてはいないし、オバマケア廃止も、うまくいきませんでした。
全然、公約を守れてないのでは?
支持者たちも、そろそろ、愛想をつかしているのでなかろうか。
2017年7月にオハイオ州ヤングスタウンで行われた「凱旋集会」に集まった支持者たちは、著者にこんな話をしています。
再び車に同乗した私は実現していない選挙中の公約を列挙し、「どれにも失望していないのか」と重ねて確認した。ハンドルを握るジョーが言った。「この街で暮らすオレたちは政治家がやると言ってやらないことに慣れている。トランプが約束の1割でもやれば十分だよ」
助手席のマークがうなずき、道路脇を流れる川を指して続けた。「その通り。立ち並んでいた製鉄所はとっくの昔になくなった。溶鉱炉の建設には膨大な資金が必要で戻ってくるわけがない。そんなことはわかっている。トランプには、環境規制の緩和やインフラ整備などでビジネスを刺激し、若い世代に少しでも仕事をつくってもらいたい」
著者が2018年12月末にペンシルベニア州のファストフード店で取材した男性の話。
ジャレドの話は続く。「そういえば、壁の建設ができなければトランプは失敗した大統領だ」なんてことを言っている人がテレビに出ていたけど、賛成しない。むしろ選挙で約束したことの25%でもやってくれれば、オレはハッピーだよ。それだけでも歴代の大統領よりは仕事をしたことになるんじゃないのかな」
僕がこの本を読んでいて意外だったのは、あれほど熱狂的にトランプ大統領の極端に思える政策を支持していた人たちが、失望していないことなのです。
むしろ、トランプ大統領が行った「これまでの大統領にできなかったこと」を挙げて、評価している人が大勢いたのです。
公約の「1割でも」「25%でも」と、政治や政治家に対して、もともとの期待値が低いんですよね。日本でも「本音」はこんなものかもしれません。
もちろん、「人は、信じたいものを信じる」ということで、「まず、トランプ大統領が好き」という出発点から、「いいところ探し」をしている可能性もありそうですが。
それでも、彼らの「自分で働いて食べていくこと」への強い意志には、清々しさも感じずにはいられないのです。
彼らは、常に「福祉」ではなく「仕事」を要求しつづけています。
しかしながら、彼らが望むような肉体労働で「中流の生活」が維持できたアメリカは、もうどこにも存在しない。
オハイオ州マホニング郡の民主党委員長、デビッド・べトラスさんは、大統領選挙での敗北を受けて、著者に語っています。
──民主党は今後、どう変わるべきですか?
配管工、美容師、大工、屋根ふき、タイル職人、工場労働者など、両手を汚して働いている人に敬意を伝えるべきです。重労働の価値を認め、仕事の前ではなく、後に(汗を流す)シャワーを浴びる労働者の仕事に価値を認めるべきです。彼らは自らの仕事に誇りを持っている。しかし、民主党の姿勢には敬意が感じられない。「もう両手を使う仕事では食べていけない。教育プログラムを受け、学位を取りなさい。パソコンを使って仕事をしなければダメだ」。そんな言葉にウンザリなんです。
労働者たちに民主党は自らを「労働者、庶民の党」と伝えてきたが、民主党や反トランプ派はメディアを通じて(性的少数派の人々が)男性用、女性用どっちのトイレを使うべきか、そんな議論ばかりしているように見えた。私が選挙中に聞かされたのは「民主党は、私の雇用より、誰か(性的少数派の人々)の便所の話ばかりしている」という不満だったのです。
「意識が高い人たち」が問題視していることと、「大衆」が直面している困難が、あまりにもかけ離れていることに、民主党支持者たちも、違和感を抱えているのです。
この本を読むと、トランプ大統領への支持とともに、ヒラリー・クリントンさんへの反感の強さが伝わってきます。
民主党の支持基盤が強固な「都市」と、共和党支持者が多数派の「地方」に関しては、よほどのことがないかぎり、勝つ党は動きそうにありません。
著者は、今後のアメリカの動向(そして、2020年の大統領選挙)の命運を握っているのは「郊外」ではないか、と述べています。
2018年の中間選挙(連邦下院)で、私が取材できた郊外型の3選挙区では、民主党新人が二つで勝ち、残り一つでは「トランプ隠し」で穏健派の共和党現職が逃げ切り再選を果たした。
選挙前の下院は共和党が240、民主党が195だった。これが選挙後は、共和党199、民主党235と逆転した。民主党が40議席増を果たしたことになる。
選挙分析で定評のあるサイト「ファイブ・サーティー・エイト」が分析したところ、民主党が党勢を拡大できたのは、ほとんどが郊外の選挙区だったという。
背景には、都市と地方の分断がある。ピュー・リサーチ・センターの2018年の調査によると、選挙登録した有権者のうち、都市部では、「民主党支持」「民主党寄り」と答えた人が計62%にのぼり、「共和党支持」「共和党寄り」計31%の2倍。一方、地方では「共和党支持」「共和党寄り」と答えた人が計54%で、「民主党支持」「民主党寄り」の計38%を上回った。1990年代末から都市部で民主党の、2009年ごろから地方で共和党の優位が強まり、その傾向を転換させるのは難しい。激戦区は、都市部と地方の中間にある郊外に集中しているのだ。
共和党にとって苦しいのは、郊外でトランプの支持が高くないことだ。トランプに親しみを抱く人は都市部で19%と低迷し、郊外でも31%と高くない。2020年に向けて、共和党の郊外対策が注目されている。
2020年の大統領選挙で、トランプ大統領の再選は叶うのか。
政策や人格はさておき、就任期間の景気が良ければ、結果的に支持されそうな気はします。
この本、帰還兵問題についても、丁寧に取材されていて、「日本を戦争ができる国に」と主張している人たちに、ぜひ読んでみていただきたいのです。
戦争が後世に遺すものの大きさに圧倒されてしまうレポートので。
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