琥珀色の戯言

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【読書感想】「うまい!」の科学 データでわかるおいしさの真実 ☆☆☆


Kindle版もあります。

たまごかけごはんのおいしい食べ方は?ビールは苦みかキレ、どっち?牛丼チェーンで一番おいしいのは?プリンはやわらかめ派、かため派?食に関する論争はたくさんあるが、「味」や「おいしさ」は主観や好みで語られるので、決着がつかない。しかし、最新技術で味は数値化できる!「うまい!」の真実が少しずつ見えてきた――。商品ブランディングや味覚のデータ化を手掛ける味のスペシャリスト「味香り戦略研究所」が、おいしさとは何なのか、徹底解説。


 食べ物の好みには、子供のころからの食習慣や地域性の影響がありますし、個人差って大きいですよね。
 飲食店や食品メーカーは、そんな中で「なるべく多くの人に来てもらえる、買ってもらえる味」を追求しているのです。
 ケンタッキー・フライド・チキンやコカ・コーラのレシピは門外不出、とか、食品メーカーには、味見をする伝説の人がいる、というような話はよく耳にしますし。
 何百年単位で、「よりおいしい、より売れるもの」が開発され続けているにもかかわらず、今でも、お菓子や清涼飲料水の新製品は出され続けているのです。
 ある程度の「傾向」はわかってきても、「正解」は出ない。
 健康のための減塩が推奨される一方で、激辛食品を愛する人もいるわけですし。

 そんな「食」は、しばしば「どれが一番おいしいのか論争」に発展します。争いが絶えない(?)きのこの山たけのこの里サッポロ一番の塩味とみそ味、などなど。おいしさは好みや主観で語らえるため、決着はつきにくく、結局は多数決に持ち込まれ、悔しい思いをした、なんて経験をした方もいるかもしれません。
 もし、この主観的な「味」を数値化して、客観的に見ることができたら……。その「もし」をかなえるのが、この本です。
 申し遅れました、私は「味香り戦略研究所」の高橋貴洋です。
 味香り戦略研究所は、九州大学の都甲教授が開発した世界初の味覚センサー(インテリジェントセンサーテクノロジー社製)を用いて、味を数値として見える化し、商品開発や改良の提案をしている企業です。さらに味以外にも、においや食感などを測定することで、よりヒトが感じるおいしさを追求し、データベース化を行っています。昔の音楽が楽譜によって後世に伝えられていくように、味を数値化した「食譜」を作ることができれば、おふくろの味や地域の食文化がいつでも再現可能になるのです。
 もし、味が数値となって見えてしまったら、明確に勝敗がついてしまうのでは? と、「断固として〇〇派」の人や、それこそ製品をつくっているメーカーさんはやきもきしているかもしれません。しかし、安心してください。味に勝ち負けはありません。


 この本の冒頭で、著者は読者の「嗜好性」をおおまかに6つの「味タイプ」に分類しています(読者は簡単な質問に答えていくだけです)。
 6つの味タイプは「甘甘タイプ」「甘旨タイプ」「甘じょっぱタイプ」「苦旨タイプ」「塩酸っぱタイプ」「苦酸っぱタイプ」となっています。
 ちなみに僕は「甘旨タイプ」だそうです。
 
 この本を読むと、売れている商品というのは、メーカーがどこまで科学的に分析しているのかはわかりませんが、ちゃんと考えてつくられているし、似たような商品に感じる「きのこの山」と「たけのこの里」も、差別化されているということがわかります。

 (袋めんの)サッポロ一番の好きな味のアンケートをとると、みそが38%、塩が33%、しょうゆが22%となりました。
 味のデータもみてみましょう。3種の味の平均値を、基準(ゼロ)として、グラフにしめしました。うま味と塩味に着目すると、塩、しょうゆ、みその順に強くなっています。「塩」はその名前のごとく塩味に力強さがありますが、うま味の余韻は控えめでさっぱりとした後味であることがうかがえます。「塩」は、セロリやカレーのようなにおいが含まれているのも特徴で、この香りはコクを感じさせることができるといわれています。また塩味が利いたパンチのある味わいなので、具にはみずみずしい野菜類が合いそうです。
「みそ」には特徴的なコクがあり、後味であるうま味の余韻もしっかりしていることから、奥深いどっしりとした味わいです。塩味は強くないため、野菜を入れてしまうと味を薄めてしまうかもしれません、そのため、ゆで卵やうま味・塩味をプラスするチャーシューとの相性が良いでしょう。
「しょうゆ」は、複雑さ・コクが少なく澄んだクリアな味わいで、キレもあり清澄ともいえる味わいをしめしています。ゴマや胡椒と一緒にシンプルにいただくと良いかもしれません。
 これらの分析結果から、それぞれの調味料の特徴が昭和の時代からきちんとつくり分けられていたということがわかります。これは、サンヨー食品の技術力の賜物ともいえるでしょう。味がきちんとつくり分けられているからこそ、それぞれの「派閥」ができたともいえるかもしれません。
 また、それぞれの塩味などを加味すると、合う具(野菜やチャーシュー等)が異なるのも、重要な点です。これは、おそらく、それぞれに家庭の味がある、ということでもあるでしょう。味は3種類ですが、各家庭でいろいろな具が足されて、無数の「サッポロ一番といえばあの味!」という記憶が、日本中にあるのかもしれません。


 著者によると、「みそは苦旨タイプに、塩は苦酸っぱタイプ、しょうゆは甘甘タイプ、甘旨タイプ、甘塩タイプ、塩酸っぱタイプに選ばれる傾向があるでしょう」ということです。でも、僕は「甘旨タイプ」なのですが、ずっと「サッポロ一番は、みそ味」なんですよね。子供のころからずっと馴染んできた味というのは、やはり、大きいのでしょう。

 サッポロ一番にしても「調味料を変えることによる、ちょっとした味の違い」のようで、食べる側にとっては、「やっぱりこれ」というのがあるのです。
 そして、味の科学的な分析が行われる前から、メーカーも経験則で、「どれか一つの味が正解というのではない」ということを理解していたのです。
「みそが38%、塩が33%、しょうゆが22%」というのは「絶妙な棲み分け」ではありますよね。「みそ派」としては、塩やしょうゆ派がこんなにいることが意外なのだけど、他の派閥の人もみんなそう思っているのだろうな。


 著者は「本能的にほとんどの酒類はおいしいはずがなく、ビールや焼酎、日本酒よりも低アルコール飲料やリキュール、甘いカクテルをおいしく感じるのが本来」だと述べています。

 では、お酒初心者はどのようにしてお酒を飲めるようになるのでしょうか?
 毎日少しでも摂取することで慣れていき、飲めるようになるのです。食行動心理学でいう「単純接触効果」というものです。もちろん、毎日飲めば慣れるからといって、無理は禁物です。お酒初心者は、「飲む機会があれば無理をせずに挑戦してみる」のが望ましいでしょう。毎日摂取──でお喜びの諸先輩方は、初心者が同じように酒を飲み交わせるようになるまで、節度ある飲酒をお続けください(笑)。
 なお、「嫌いなもの(ビール)」と「好きなもの(甘いものなど)」を交互に食べるとより効率的です。コーヒーも同じで、ミルクや砂糖を入れてラテにして飲むよりも、ブラックコーヒーとケーキを交互に食べたほうが、コーヒーを飲めるようになるためには効果的なのです。この単純接触効果を狙った方法は、最低でも10回以上はトライすることで効果を上げます。
 それにしても、なぜ毒のシグナルともいえる苦味を人は求めるのか?
 それには、胃にも苦味のシグナルをキャッチする苦味受容体が存在することが関係していると考えられています。苦味を感知すると胃酸分泌など消化が促進されることがわかっており、それが、人が苦味を求める所以であるというわけです。実際、胃薬の研究では、舌のうえで苦味を感じ、胃でも苦味を感じると、よりその効果が出る(オブラートに包んで飲むと効果減)ことが報告されています。つまり良薬口にも胃にも苦くなくてはいけないのですね。ともあれ、苦いビールは消化促進にも一役買っていることがわかります。


 ビールもコーヒーも、慣れるのにそんなに苦労しなかった僕からすれば、あえて飲めるようにならなくても良いのではないか……という気もするのですが、飲めない人にとっては、美味しそうに見えるのかもしれないし、勧められることも多いので、いちいち断るのも大変なのかもしれませんね。

 「味を科学する」というのは面白い試みであるのと同時に、今のところ、科学的な分析が万能ではない、というのもよくわかる本だと思います。
 

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