琥珀色の戯言

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【映画感想】四畳半タイムマシンブルース ☆☆☆☆


あらすじ・解説
ある夏の日、大学生の「私」が暮らす京都・左京区のぼろアパート「下鴨幽水荘」で唯一のエアコンが使えなくなる。悪友の小津が昨晩リモコンを水没させてしまったのだ。「私」が後輩の明石さんと対策を相談していると見知らぬ男子学生・田村が現れ、彼は25年後の未来からタイムマシンでやって来たと語る。そこで「私」はタイムマシンで昨日に戻り、壊れる前のリモコンを取ってくることを思いつく。しかし、気ままな小津たちが勝手に過去を改変してしまう。

yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp
注意:公式サイトは音が出ます!


 2022年19作目の映画館での鑑賞です。
 映画館では10月20日までの3週間限定公開(ディズニープラスで独占配信中)で、上映館も少なめなのです、もう公開から2週間経った土曜日の昼下がりに鑑賞。これが観たかった、というよりは、他の用事があって行った商業施設のシネコンでちょうど空き時間が埋まる上映時間だったので観ました。もちろん、都合があえば観たいという作品ではあったんですけど。
 1日1回だけの上映で、観客は50人くらいでした。

 アニメ化もされた森見登美彦さんの小説「四畳半神話大系」と、実写映画化もされた上田誠さんの戯曲「サマータイムマシン・ブルース」を融合させた森見登美彦さんの『四畳半タイムマシンブルース』をアニメ映画化したものです。
 ちなみに僕は『四畳半神話大系』を読んだことも、アニメを観たこともなく、『サマータイムマシン・ブルース』も未見です。
 登場人物は、『四畳半神話大系』を踏襲しているみたいなのですが、原作を知らない僕でも、とくに観ていて支障はありませんでした。
 というか、森見さんの作品は、「これはこういう世界の出来事なのだ」と受け入れて、その世界をたゆたうのを楽しむものであって、合わない人には全く合わないのではないかと思います。公開規模が小さいおかげで、万人向けに「わかりやすく」なったり、教訓めいたお涙頂戴話になったりすることもなく、「森見ワールド」が映像化されている面もありそうです。

 僕は森見さんの小説はけっこう読んでいて(それでいて、なぜ『四畳半神話大系』は読んでいないんだ、という気が自分でもしますが)、京都を舞台にした妖しさと美しさ、懐かしさが入り混じる世界、インテリ学生たちのめんどくさくも温かい人間関係と、魅力的な、不器用で何かに夢中になっているんだけれど、どこか抜けていてつかみどころがない女の子(これは中村佑介さんが描くキャラクターの力が大きいと思います)の世界に惹きつけられるのと同時に、「でもまあ、これは偏差値が高い人のための『インテリポルノ』みたいなものじゃないかなあ」と考えるところもあるのです。なんのかんの言っても、「登場人物、すべて京大生」なわけですし。

 世の中の大部分の人は、京都大学にも、伝統的かつ濃厚な人間関係の学生寮での生活になど無縁でしょう。
 ただ、東大じゃなくて、京大が舞台だと、「なんか2022年でも、こんなことがあってもおかしくないような気がする」のも事実なんですよね。
 「どこの学生時代にもある(と思う)、暑いからという理由で、友達の部屋で何をするでもなく、ただゴロゴロしているだけの人生のモラトリアムが許される時間」を90分だけ思い出せて、最後は少し幸せな気分になって映画館を出られる作品ではあります。
 ある意味、小道具の使い方や、大仕掛けになりすぎないスラップスティック感など、いかにも戯曲、舞台の脚本っぽい映画で、原作の『四畳半神話大系』の登場人物たちが演じている劇中劇、みたいな感じなのかもしれません。


fujipon.hatenadiary.com


 結局のところ、この『夜は短し歩けよ乙女』のアニメ映画が好きだった人は、この『四畳半タイムマシンブルース』も気に入ると思うし、『夜は短し』は、僕にとっては「花澤香菜オンステージ」という作品だったので、花澤さんが出ていないこの映画はどうかと危惧していたのですが、明石さん役の坂本真綾さんもやっぱり上手かった、僕も明石さん好き!というのが結論です。
「腐れインテリのみんなは、こういう女の子、好きだよね?」「こういう学生のドタバタ劇って、若い頃を思い出すよね」、って見透かされている気もするんですけどね。さすがに50歳ともなると、こういう予定調和に満足して映画館を出る、という「大人」になってしまうもののようです。

 そういえば、これを観ていて、『めぞん一刻』を思い出さずにはいられなかったなあ。
 『めぞん』って、本当に世のモテない大勢の男子に「自分には訪れなかった甘美でもどかしく、気恥ずかしい経験」を自分に起こったことのごとくインストールしてきた作品ではありますね。


 

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