- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 白夜書房
- 発売日: 2019/10/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
世界に誇る漫画文化の立役者たちに
プロインタビュアー吉田豪が迫る!月刊誌『BUBKA(ブブカ)』の目玉連載ページがついに一冊の本に。
日本が世界に誇る文化の一つである「漫画」。漫画というコンテンツを通じて活躍してきたレジェンド漫画家たちの創作人生に、プロインタビュアー・吉田豪が迫ります。
名作誕生の裏で起きていた、当時の読者の想像を遥かに超えたエピソードの数々。時代を超えて愛されるキャラクターやストーリーを生み出したパイオニアたちの「13通りのまんが道」がここに。連載に登場した漫画家陣の他にも、
特別収録として、武論尊、魔夜峰央のインタビューも掲載。【登場漫画家ラインナップ】
※掲載順バロン吉元
「漫画を描くのも本気の遊びのひとつ 真剣にやらないとおもしろくない! 」平松伸二
「漫画の中で悪さをやってるので 私生活は平凡な人生を歩んでます」寺沢武一
「俺の話は90%近くが嘘 今話したことも半分以上が嘘だね」ちばてつや
「力石が死んだあとは苦しくってね 毎回吐くことを想像しながら描いてて」一峰大二
「梶原一騎さんと真樹日佐夫さんには 足向けて寝られないよね」小林まこと
「俺は多分サボるタイプなんで 漫画の内容で悩んだことがないんです」えびはら武司
「僕が藤子スタジオに入る前は お茶くみの子がアシスタントでした」日野日出志
「俺は博打打ちのせがれだから 漫画に人生を賭ける決心をした」のむらしんぼ
「まいっか、みたいになるんですよ 最後は酒を飲んで酔ったもの勝ち」谷村ひとし
「70年代は『マガジン』で80年代は『ジャンプ』 90年代にパチンコを知って大満足ですよ」弘兼憲史
「失敗する前に失敗したときのことを考えたら 漫画家にはなっていない」武論尊
「俺は本宮ひろ志の精神安定剤みたいな位置だったから 自然と漫画の作り方を覚えたのかもしれない」魔夜峰央
「『翔んで埼玉』を読み返したとき こんなこと描いていいの?って思いましたから」
いろんなマンガがあるけれど、それを描いたマンガ家にもいろんな人がいるものだなあ、と思いながら読みました。
作品の内容や主人公のキャラクターというのは、マンガ家の人格がかなり反映されている場合もあれば(本宮ひろ志先生とか)、正反対のことも多いのです。
『ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』の平松伸二先生は、吉田豪さんのインタビューに、こんなふうに答えておられます。
──(吉田豪):浮気はしないと公言しているくらいで。
平松伸二:浮気はできないです。しないというよりできない。だって僕、漫画を描く以外に能がないんで、あとは奥さんに全部やってもらってますからね。お金のことも、掃除洗濯炊事はもちろんそうだけど、奥さんと離婚したらホント困っちゃうんで、奥さんは大事です!
──そのためにも浮気とかは一切しない。
平松:男だから100パーセントないって言ったら噓になるけど、ウチの両親はすごい仲良かったんですよ。子供のときは夫婦ゲンカを見たことがないぐらいで、結婚っていうのはこういうものなんだなっていう刷り込みがあるんで、僕も浮気だとか酒を飲んで暴れるとか、そんなことはしないって刷り込まれて。
──お酒も飲まないんですよね。
平松:飲まないですね、だから漫画のなかでいっぱい悪さしてるじゃないですか。女が出れば強姦するし、人は殺すし。僕のなかにあるドロドロした部分は全部漫画のなかに吐き出してるんで、現実の自分の生活のなかでそういうことをしようとは思わないんですよね。
──じゃあ漫画を描かない期間は危険ですね(笑)。
平松:ハハハハハハ!
僕が『週刊少年ジャンプ』を読み始めた頃(小学校高学年くらい)、平松先生の『ブラック・エンジェルズ』が連載されていました。
決め台詞、「地獄におちろ〜!」は、当時、僕の周りではけっこう流行っていたのです。
あんな反社会的な(だからこそ、子供心に響いたのだとは思いますが)作品を、こんなに品行方正な人が描いていたとは……
作品にして昇華することによって、こんなに堅く生きられる人もいる、と考えるべきなのか、堅実に生きている人の頭の中に、あれほどの暴力性が詰まっていることもある、ということなのか。
そういえば、『こち亀』こと、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を40年間描き続けてきた秋本治先生の仕事術を書いた本でも、秋本先生が真面目にコツコツ仕事をこなしていく様子が紹介されていました。
週刊誌で漫画を長期間連載するということそのものが、かなりのハードワークで、マメでしっかりした人じゃないと難しいのです。
そう考えると、赤塚不二夫先生の遊びっぷりなどは、逆にすごい。
赤塚先生の場合は、アシスタントに優秀な人がそろっていて、ひとりでやる仕事の負担を減らせていたからこそ、だったのでしょう。
マンガの絵のクオリティの平均というのは、年々アップしていく一方なわけで、いまのマンガ家は大変だろうな、と思うのです。
この本のなかで、とくに僕の印象に残ったのは、ちばてつや先生の回でした。
ちばさんのお母さんが、書いたマンガを「検閲」していて、性的なことを描きにくくなってしまった、という話や(読み切りでキスシーンを描いただけでも怒られたそうです)、弟のちばあきおさんの思い出も語られています。
僕はちばさんが、あきおさんをマンガの世界に導いたことを後悔している、という話を聞いたことがあったんですよ。
このインタビューのなかでも、ちばさんは、「忙しさのあまり、弟さんたちをマンガの道に引き込んでしまったけれど、自分も描いて苦しかったから、あんまりこういう世界に入らないほうがいい、と思っていた」と仰っています。
ちばてつや:ましてや、あんなに器用な男(ちばあきおさん)が毎日苦しんでましたから。でも、やっぱりいいものが描けたときはすごいうれしそうな顔してて、それは私も母親も気がついたし、母親は「てつや、もう止めなさい。あの子が苦しんでいるのもう見たくないよ」なんて言うぐらいでしたけど、どんどん漫画を描くようになっていったんですよ。でも、あんまり創作の苦しみみたいなものを感じたんで、もうちょっと彼が鼻歌まじりでできる、もっと得意なものがあったんじゃないかなってずっと思ってたんでね。結局、41歳で亡くなりましたけど、それまで描いたものを私はあんまり見てなかったんですよ。あとで読んでみたらとてもいい話を描いてたし、ホントにいい仕事したなと思ったんで、短かったけど本当にいい人生だったなといまは思っています。
──忘れられない作品を遺した人ですしね。
ちば:よく言われるのが、「ちばさんよりも弟さんの作品のほうが好きでした」って。
──え! そんなこと言われるんですか!?
ちば:「ちばさんの作品も読むけど、どっちかっていうとあきおさんの『プレイボール』とか『チャンプ』とか、ああいうのが大好き」って言われて、どうもありがとうって。
──カチンとはこないんですね(笑)。
ちば:それはないです。うれしいですよ。
僕は子どもの頃、ちばあきおさんの『キャプテン』『プレイボール』を読んで、ものすごく感動した記憶があるのです。谷口キャプテンが大好きで。
僕自身は、あんな努力とは無縁な人間なのですが、あのひたむきさには、そんな人間をもひきつける魅力があったのです。
お兄さんのちばてつやさんが、こうして、「短い人生だったけれど、いい仕事をして、本当にいい人生だったといまは思っています」と仰っているのを読んで、僕は涙が止まらなくなりました。
これを読めただけでも、この本を手にとってよかったなあ、と思っています。
なんだか真面目なところばかりを紹介してしまいましたが、『コブラ』の寺沢武一先生の、どこまで信じてよいのかわからないインタビューとか、『とどろけ!一番』の、のむらしんぼ先生の波瀾万丈の半生など、「何なんだこの人は!」と言いたくなる回もたくさんあります。
武論尊さんの回では、『北斗の拳』のケンシロウの胸の7つの傷について、「完全にファッションとして『つけといてくれ』と言ったのだけど、後で『なんだ、シンがつけたことにすればいいじゃん!」と思いついた」というエピソードが語られています。
そう思いついたとき「俺は天才的だなと思って自分で惚れぼれした」そうです。
こういうエピソードは、読んでいてニヤニヤしてしまいますし、確かに「天才的」ではありますよね。
少年マンガから青年マンガまで、幅広い「レジェンド」たちが、それぞれの個性を丸出しにして語っている、貴重なインタビュー集だと思います。
これを読んでいると、手塚治虫先生や、藤子・F・不二雄先生と吉田豪さんの化学反応が見てみたかったな、と考えずにはいられないのです。
- 作者: 吉田豪
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