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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

証拠調査士は見た! ☆☆☆☆


証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々

証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々

内容(「BOOK」データベースより)
子どもを運び屋にする麻薬密売人、泣き寝入りを狙う!女子寮専門強姦魔、報酬は慰謝料の3割!「別れさせ屋」の弁護士、孤独な金持ちの資産を奪う!嫌がらせ屋など、実録、日本一の事件解決屋が体験した恐怖のトラブル。


これはかなり気が滅入る内容でした。
いま、世の中には、こんなに「恐ろしい人たち」がたくさんいるのか、って。
しかもそれは、暴力団員やヤンキーじゃなくて、「弁護士」だったり、「医者」だったり、「一流企業の偉い人」だったりするのです。


「証拠調査士」という仕事、僕は知らなかったのですが、著者によると、海外では非常にメジャーで「世界160カ国で活躍している」そうです。

 証拠調査士と警察、弁護士、探偵とはどう違うのでしょうか。警察は事件の証拠がないと動けませんし、弁護士は法律のアドバイスをするのみで、証拠を集めたりはしてくれません(これを知らない方が多い)。探偵の仕事は基本的に事実確認のみ。証拠集めもしますが、相手の同意を得ずに集めることも多いため、実際に裁判では採用できない証拠も多いのです。たとえば裁判であれば勝訴が目的なので、これでは意味がありません。
 証拠調査士が証拠を集めたり、具体的なアドバイス(提案)を行い、弁護士と協力して係争に勝てるように進めていったり、証拠によって警察に動いてもらったりするわけです。
 証拠調査士は単に頼まれた証拠を集めるのではなく、依頼主が裁判や揉め事の交渉でうまくいくような集め方をします。証拠を集めて弁護士や警察などを動かし、トラブルを解決に導くのです。

この本を読んでいると、証拠調査士の仕事というのは、本当に多岐にわたっています。
探偵のような「証拠集め」や「法律相談」「相手との交渉」だけが仕事ではなくて、クライアントが孤立しないような、周囲(地域住民)との付き合い方のアドバイスまで著者は行っているのです。


この本のなかには、みんなが知らない社会の裏側(小学生が麻薬の「運び屋」にさせられているなんて、思わないですよねいくらなんでも)がいくつも紹介されています。
しかもその「入り口」は、身近なところにあるのです。

 最近の小学生はニンテンドーDSスマートフォンを通してネットと密接につながっている場合が多い。どちらも親の目が届かないところで自由にネットを楽しめてしまう。ところが、ニンテンドーDSがネットにつながることを知らない親御さんは実に多い。

僕は自分の親世代があまりにコンピュータやネットのことを知らないので、ちょっと呆れてしまうことがあるのです。
しかしながら、それはいまの子どもたちにとっても、おそらく「同じこと」で、親世代の「常識」というのは、子どもたちの「常識」とは、ズレてきているんですよね。

 ある調査では、子どもが初めて手にするネット接続機器の6割がニンテンドーDSだという。

今なら3DSということになるのでしょうが、携帯ゲーム機というのは、「ゲームボーイ」で育った僕には想像できないほど、多機能化しているのです。
むしろ、昔の携帯ゲーム機を「知っている」からこそ、盲点になりやすい面もありそうです。


また、女性からすれば「安全」そうにみえる(であろう)「女性専用マンション」についても、こんなふうに警告しています。

 その一方で、防犯の専門家や我々のような職業の人間からすれば、女性専用マンションが防犯面ではむしろ危険であるというのは、かなり以前から常識化しているのも事実だ。実際、私自身が智子さん(この本で紹介されている強姦未遂事件の被害者・仮名)以外からも同様の相談は複数受けていたし、捜査関係者や法曹関係者の友人からも、同じような事案の存在はよく耳にしていた。だから、智子さんから話を聞いたときも「ああ、またか」というのが率直な感想だった。つい先日もある大手の不動産関係者と食事をしたのだが、彼は次のように嘆いていた。
「全てとは言いませんが、女性限定のマンションはかえって危険ですよ。男性が住んでないので安全と思われがちですが、逆に男がいないとわかっているので、犯罪者からすれば窃盗や性犯罪のターゲットにしやすい。管理人が遅い時間まで常駐しているとか、大家が近くに住んでいるとかを防犯面でウリにしている物件もありますが、肝心な大家が犯人だったなんて笑えない話もありますからね」
 大家や管理人が犯人だなどと聞くと、「いくらなんでもまさか」と思う方も多いかもしれない。しかし、残念ながら、同種の事件でこのパターンはけっこう多いのだ。これも防犯関係者の間ではもはや常識である。

もし、「女性専用マンション」への入居を考えている方がいらっしゃたら、決める前に、一度この本を読んでみていただければと思います。
「犯罪者の側」からすれば、たしかに「女性専用マンション」は、「狙いやすい」のは間違いないようです。
こういうのは、おそらく、マンションを作る側、売る側にとっても常識のはずなのですが、それを教えてくれる人って、いないですよね……


この本を読んでいて、いちばん怖かったのが「組織が個人を排除するためのさまざまな攻撃方法」でした。
取引先の男性をセクハラで訴えようとした女性が、その男性が所属する大手企業から「名誉毀損」で数千万円の損害賠償訴訟を起こされた話(多くの人は、裁判で戦うことと、その費用に疲弊して、和解せざるをえなくなる)、セクハラ被害者の女性を「精神病」にして、追い払おうとする会社と、それに協力する産業医の話、そして、欠陥マンションの修繕訴えてきた住人を、さまざまな手段の嫌がらせで黙らせようとする悪徳不動産屋と管理会社の話……


この「欠陥マンション」の話を読んでいて愕然としたのは、「悪徳不動産」「悪徳管理会社」はもちろんのこと、そういう連中に「協力」してしまう「普通の住民」が大勢いるのだ、ということでした。


大手不動産会社から、最上階のマンションを買った鈴木さん(仮名)。
ところが、住んでみると屋上からの雨漏りがひどいことがわかりました。
それも、運悪く、「たまたま鈴木さんの部屋の天井だけに漏れた水が直撃した」のです。

 鈴木さんはマンションの管理会社に欠陥を訴えたが、対応した担当者は工事の瑕疵を全く認めず、「あなたの希望する屋上の改修工事を行うためには2千万円が必要。実施するなら管理組合理事会の決議を経たうえで申請してほしい。工事費は全住民の管理費に上乗せする形で徴収する」と言ってきた。
 盗人猛々しいとはこのことだが、たいていの不動産会社はこんな対応をしてくるものだ。
「冗談じゃない! 雨漏りの原因は工事の欠陥だ。その負担をなんで我々がしなければならないんだ!」
 毎日のように管理会社に赴いて抗議を続けた鈴木さんだが対応は変わらず。並行して、施行した大手不動産会社「A」にも直接抗議をしたが、帰ってくる回答は管理会社と全く同じものだった。管理会社が元締めの不動産会社から回答方法を指示されているのだろうから、当然といえば当然だ。
 それでも鈴木さんは抗議を続けた。不幸だったのは、直接の漏水被害を受けていたのが鈴木さんだけだったために、同調者が現れなかったこと。他の住民にしてみれば「うちは特に問題ないしね」ということなのだろう。

この「うちは特に問題ないから」ということで、鈴木さんの訴えに同じマンションの住民が協力しなかったということが、僕にはけっこうショックでした。
いや、管理費上がるのはイヤだというのはわかるし、揉め事を避けたいのも理解できるんだけど、こういうのって、「次は自分が被害者になるかも……」と思わないのだろうか……
結局、「自分さえよければいい」(というか、長い目でみれば、自分のクビを締めることになりかねないのだけど)人の多さが、日本という国での「個人の生きづらさ」につながっているような気がします。


著者は、この本の最後に、こう述べています。

 私は相談をしてくれた方にいつも言うことがあります。
「最後は人のつながりなんですよ」
 この考えは、どんな事件でも、相手がどんな社会的立場でも基本的に変わることはありません。それさえしっかりしていれば、ほとんどのトラブルは未然に防ぐことができます。

ご近所や親戚の「つきあい」って、めんどくさいですよね。
僕もすごく苦手です。
でも、この本を読んでいると、著者に事件解決を依頼してくる人の多くは「本人から相談された友だち」なのです。
空き巣にしても、地域とのつながりがあれば、犯罪者だって、「孤立している人」よりは、手が出しにくくなります。
わざわざ「めんどくさいところ」を狙おうとはしないから。
人がイヤになって、人を避けようとすればするほど、かえって悪いやつらに狙われてしまうという悪循環。
鈴木さんだって、周囲の人たちとのつき合いがあれば(といっても、引っ越し直後では難しいかもしれませんが)、「あいつを助けてやろう」ということで、同調者の数が力になって、交渉がスムースに進んだかもしれません。


こういう世の中だからこそ、「ご近所付き合い」みたいなのを大事にしたほうがいいのかな、と、あらためて考えさせられました。
「社会のマナー」とかいう立派なものではなく、「自分や家族を守るための共同体をつくる」ために。
気が滅入る本ですが、読んで損はないですよ、本当に。