琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】棚からつぶ貝 ☆☆☆☆

棚からつぶ貝

棚からつぶ貝


Kindle版もあります。

棚からつぶ貝 (文春e-book)

棚からつぶ貝 (文春e-book)

内容(「BOOK」データベースより)
初めてのご飯がドッキリだった「一生ついていこうと心に誓った人」、トライアスロン中に心を打ち抜かれた「背中で見せる理想の上司」、南極でテントが壊れても平気な「素敵なじじい」、全力で泥水に飛び込む「おもしろ女優」ほか、「拝啓 安室奈美恵さま」「わたしの新しい家族」etc.等身大のイモトアヤコが出会った、旅先での人々、芸能界の友人たち、大好きな家族、そして夫。初のエッセイ集。


 イモトアヤコさん、初のエッセイ集。
 僕はけっこう芸能人の文章(中には、ライターさんが「聞き書き」しているものもあるはず)を読むのが好きなのです。
 彼らのエッセイには大きく分けて2種類あって、室井滋さんや伊集院光さんのように「書いているネタや文章が面白くて、著者に思い入れがない人でも楽しめる」ものもあれば、檀蜜さんのように「著者を知っているからこそ面白い」タイプもあるのです。
 もちろん、その「複合型」もある、というか、売れているものには、その割合はそれぞれですが、両方の要素があるのですけど。

 このイモトアヤコさんのエッセイ集を読みながら、僕はずっと考えていたのです。
 正直、書かれている内容は、そんなに面白くはない。イモトさんの身辺雑記や交友関係がほとんどなのだけれど、驚くような話は出てこないし、感動的なエピソードがあるわけでもない。他人の悪口や批判も書かれていない。

 ところが、僕はこのエッセイを読みながら、ずっと「なんだか気分が良かった」のです。ああ、イモトさんって、本当に「いいやつ」なんだなあ、と嬉しくなってくるんですよ、これを読んでいると。

 こういうのを「人徳」と言うのだろうか。
 内容よりも、イモトさんへの好感度の高さで最後まで寄り切られてしまった、というエッセイ集なのです。

 同じ事務所の後輩芸人、中村涼子さんとキャンプに行ったときの話。

 前回の反省を生かし、今回のキャンプはかなり快適。
 まず初夏という最高の季節。レンタル用品も豊富な初心者キャンプ場。その上で斧やバーナー、着火剤にカセットコンロを持参。キャンプ場近くの道の駅で地元のお野菜や味噌、カッコつけてウイスキーを買い、着いてテントを設営しながらの乾杯、清流できゅうりを洗い丸かじり。まさに夢見ていた理想のキャンプ。
 途中、なぜか涼子の周りだけ虫がたかり計4回、目に虫が入っていた。本当に申し訳ないのだが笑い転げてしまった。もちろんキャンプ自体が楽しいのもあるけど、やはり一番は涼子と一緒だったということだ。
 出逢って13年。多分、涼子に隠していることは何ひとつないと思う。
 以前すごくすごく悲しいことがあった時。もう思いっきり笑うことはないかもしれないと涼子に話を聞いてもらっていたその時。私の座っていた椅子が突然ぶっ壊れて私は後ろにひっくり返った。次の瞬間、2人とも思いっきり爆笑していた。
 涼子といると楽しい。元気になる。癒される。恥ずかしいとか人にどう思われるんだろうかとか考えずにお互いにやりたいこと、将来の夢をワクワクしながら話し、いいねと言い合う。そしてそのまま行動するのだ。


 あらためて読み返してみると、こういう薬にも毒にもならないような「いい話」を素直に読めてしまうのは、やっぱり、書いているのが「イモトアヤコ」だからだと思うんですよ。
 こういうエッセイとかって、人の悪口とか腹が立ったこととかを書いたほうが、盛り上がりそうな感じがするじゃないですか。
 でも、徹底的に、そういう「トゲ」みたいなものが、イモトさんのエッセイからは抜かれているのです。むしろ、「他人の悪口を書くくらいなら、別にウケなくてもいいや」という覚悟すら伝わってくるのです。

 イモトさんがそういう人だからこそ、周りの人も、イモトさんを尊重しつつ、イモトさんのためには、厳しい内容でも、言うべきことを言ってくれるのかもしれません。

 『イッテQ』の総合演出・古立さんについて書かれた回より。

 10年前、初めて古立さんが24時間テレビの総合演出をされた時、私はランナーに選ばれた。そして126.585キロというバカみたいな距離を走った。走り終え皆さんに褒めて頂き、私もかなり舞い上がり、意気揚々とお迎えのタクシーに乗ろうとしたその時だった。
「イモト、これはこれだから」
 と古立さんは言い放ったのだ。
 いやいや今日くらい調子に乗らせてよ! 全身筋肉痛のおなごによくもそんなこと言えるわ! こちとら126.585キロ1日で走っとんじゃ!と心の中で叫んだが、今思うとまさにその通りなのだ。
 むしろ「頑張ったね」とか「お疲れさま」を通り越して、一番愛がある言葉なのではないか。浮かれたまま、何かすごいことを成し遂げたのではと勘違いしたまま生きることの怖さよ。その3日後にはいつも通りの海外ロケを入れてくださったことにも感謝している。


 イモトアヤコさんは、この本を読んだかぎりでは、驚くほど「ふつうの人」なんですよね。気分の浮き沈みもあるし、調子に乗ってしまいそうなところもある。でも、そういう浮かれているところを他者に指摘されたら、自分を振り返ってみる「素直さ」が伝わってくるのです。
 大きな仕事を成し遂げたあとに、「これはこれ」と言い放つ古立さんは凄いけれど、これが言えたのは、「イモトアヤコなら、こんな厳しい言葉も、ちゃんと聞いてくれる」と思っていたからこそ、なんですよね。
 イモトさんというのは、「みんながサポートしてあげたくなる人」だというのが、このエッセイ集を読むと伝わってきます。

 この「これはこれだから」って、本当に良い言葉ですよね。気持ちの切り替えがうまくいかなくて、クヨクヨしがちな僕は、これを読んで以来、良いことがあったときも、悪いことに遭ったときも、「これはこれだから」と心の中で呟いています。
 ずっと何かを続けていくためには、気持ちの切り替えって、本当に大事なのです。悪いことだけじゃなくて、良いことに対しても。

 書いてあることはそんなに面白くはないはずなのに、読んでいるうちに、いつのまにか機嫌が良くなっていた、そんなエッセイ集なのです。


イモトアヤコの地球7周半

イモトアヤコの地球7周半

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