琥珀色の戯言

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【映画感想】孤狼の血 LEVEL2 ☆☆☆☆


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広島県警呉原東署刑事二課の日岡秀一(松坂桃李)は、マル暴の刑事・大上章吾に代わり、広島の裏社会を治めていた。しかし、上林組組長の上林成浩(鈴木亮平)が刑務所から戻ったことをきっかけに、保たれていた秩序が乱れ始める。上林の存在と暴力団の抗争や警察組織の闇、さらにはマスコミのリークによって、日岡は追い詰められていく。

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 2021年、映画館での10作目です。
 平日の夕方、公開から1か月くらい経っているということもあり、観客は僕も含めて5人でした。

 前作、『狐狼の血』は、主役の2人、役所広司さんと松坂桃李さんの演技が高く評価され、数々の賞にも輝きました。


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 この映画、R15+(15歳未満観覧禁止)なのですが、本当に、15歳とか16歳に見せてもいいの?と聞き返したくなるほどの凄惨なシーンもあるんですよ。


 そうだった、『狐狼の血』って、そういう映画だったんだよなあ……3年経つと、「役所広司さんが凄かったなあ!」という記憶しか残っておらず、覚悟せずに観はじめてしまったので、最初のほうは「作品の優劣云々ではなく、生理的にこれはキツい……」と帰りたくなるシーン満載でした。

 僕の長年の友人が、以前『プライベート・ライアン』の冒頭の戦闘シーンの凄惨さに、30分で帰った、というのを思い出しました。
 僕もこの『狐狼の血 LEVEL2』は、入場料を払っていなかったら、最初のほうで観るのをやめていたかも……
 同じ「アウトローの世界」「極道」を扱う映画で、人が死ぬシーンでも、北野武監督の『アウトレイジ』には、ユーモア、と言ってはなんですが、乾いた笑い、みたいなものが根底にあるし、あくまでも「アウトローの世界の中での殺し合い」なんですよ。

 でも、この『狐狼の血 LEVEL2』は……
 一般人が標的にされるだけで、僕の「不快、不安」はこんなに急上昇してしまうのか、と自分でも驚きました。

 先日、北九州の暴力団に関する裁判が、大々的に報道されていて、あの事件のことを思い出さずにはいられませんでしたし。

 「よくここまで容赦なくやった」と賞賛するべきなのか、「さすがにこれは、観客に恐怖と不快感を与えることを狙い過ぎているのではないか」と、げんなりするべきか。

 僕はどちらかというと、後者だったんですよ。それでも、2時間以上観ていたら、けっこう慣れるものだな、とも思いましたが。

 この映画、良くも悪くも、鈴木亮平さんがすごい。僕は『変態仮面』を熱演しているのを観て以来、鈴木亮平さん大好きなのですが、この映画を観ると、演じている役とはいえ、鈴木さんを今までと同じ目で見るのは難しくなるかもしれません。
 それほど、感情移入しづらいというか、感情移入したくない敵役なんですよ。
 いろんなものを、ただぶっ壊すために生きているような破壊神。


 こいつらもう、マル暴とかにうまくバランスをとらせるんじゃなくて、機動隊とか自衛隊とかがなんとかできんのか……


 松坂桃李さんも鈴木亮平さんも、素晴らしい役者だなあ、と感動せずにはいられないんですよ。
 でも、ふたりの頑張りを見れば見るほど、「役所広司の凄さ」を思い知らされるのも事実です。

 役所さんの大上刑事には「こういう人なら、対立している暴力団の調停役ができてもおかしくないかもしれないな」という、存在そのものの説得力がありました。

 でも、松坂桃李さんが「後継者」となると、やっぱり、「いくら警察組織がバックにいるとはいえ、こんな若造に百戦錬磨の組員たちを仕切ることができるのか?」と疑問になりますし、鈴木亮平さんが大暴れすればするほど「いくらなんでも、ここまでいかれたヤツは、極道の組織の中でも『粛清』されるだろう……」と思ってしまうんですよ。

 結局は、僕のそういう印象もまた、作り手の側の「思惑通り」だった、ということなのかもしれませんが。


 前半は「組織はそんなに甘くないだろ」とモヤモヤし、後半は「一人一人は普通の人のはずなのに、『組織』になると、ここまでとんでもないことをやってしまうのか……」と愕然とさせられます。

 国籍とか、子供の虐待とか、警察組織の裏側とか、いろんな問題が含まれているのですが、正直なところ、鈴木亮平(上林)怖すぎだろ……というのが強すぎる作品ではあります。

 僕自身は「絶対に体験できない(したくない)非日常」の時間を過ごせて、けっこう満足できた映画ではあるのですが、映画の中だけにしてほしい、というのが本音です。『仁義なき戦い』がある程度事実を参考にしているとすれば、実際に、あの時代の広島では、これに近いようなことが起こっていたのだとしても。
 『ゴッドファーザー』や『龍が如く』の人気をみても、みんな、こういう世界が、大嫌いで、大好きなんですよね、たぶん。
 人って、矛盾した生き物だなあ、と、この年齢になっても考えずにはいられません。もちろん、僕自身も(『龍が如く』とかけっこうやってますし)。


「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
 そんなニーチェの言葉を思い出します。

「反社」を撲滅してほしい。
 でも、「反社会的組織」で生きるか、社会や他人に「恵んでもらう」しかない、という人がいるとしたら……

 「反社」を失くすことは、彼らの生存権を脅かす、あるいは、「一般市民」への被害を誘発することになるかもしれない。

 僕は「反社には向かない人間」だから、彼らの気持ちはわからないのだけれど、「格差」や「差別」や「貧困」が残っている(もしかしたら拡大している)世の中で、「お前らは人に迷惑だけはかけずに、つつましく生きろよ。なんとか生きていけるくらいの金は恵んでやるから感謝しろ」と言われて、納得できる人ばかりではないだろうな、とも考えてしまうのです。
 

 世の中には、上林のような「説得できない(あるいは、説得できるのかもしれないけれどコストがかかりすぎる)反社会的気質」の人って、間違いなく存在するからなあ……


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