琥珀色の戯言

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【読書感想】為替ってこんなに面白い! ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

2024年は34年ぶりに1ドル=160円台まで円安が急進。「このまま円安が続くのか?」と不安になっている人も多いだろう。また新NISAを機に海外の投資信託を買い始めた人にとっては、為替は大きな関心事となっているはず。そこで本書では経済アナリストの著者が、為替に興味をもった人のさまざまな疑問に、会話形式でわかりやすく解説。為替に影響を与える金利や経済の仕組みが理解できるだけでなく、なぜ為替が予想と逆の動きをするのか、短期・中期・長期的にはどう動くかなどの“相場感”まで身につく!


 「円高」「円安」という言葉を聞いたことがない人はいないはずです。
 僕自身、自分で投資をやるまでは、為替とか日経平均株価に興味はなかったのですが、自分のお金が絡んでくると、スルーもできないというか、どうしても気になってしまいます。
 人生の大部分は、「円高」のほうが、日本の通貨「円」が世界的に高く評価されているのだから良いのではないか、とか「円高なら海外旅行で買い物がしやすい」というくらいの知識で生きてきたのですけどね。

 円とドルの為替相場は、太平洋戦争後、しばらくは、1ドル=360円という固定相場制からスタートし、スミソニアンレート(1ドル=308円)という時代を経て、1973年2月より完全な変動相場制に移行しています。
 僕が物心ついた1970年代後半から80年代前半は、1ドルは250円前後で推移していた記憶があるのですが、1980年代後半から円高になっていき、1995年4月19日には1ドル80円を切る、79円75銭という市場最高値となりました。
 あの頃は、マクドナルドの100円ハンバーガーの値段はもっと下がり、円はもっと高くなっていくだろう、と思っていたのですが……


https://www.komazawa-u.ac.jp/~kobamasa/reference/gazou/yenrate/yenrate1.pdf


 2024年、いまや日本は世界のなかで、「モノとサービスが安い国」として人気の観光地となっています。
 円が高かった時代は、海外のブランドショップで「棚買い」する日本人観光客を自虐的に紹介するメディアの記事をよく見かけたのですが、今から思うと、あれは日本にとっては、ちょっと浮かれ過ぎてはいたものの、幸福な時代ではあったのでしょうね。
 最近は、「プロ野球の外国人選手も、円が安くなってしまい、ドルで払う年俸が割高になったため、獲得できる選手の質が下がった」なんて話も聞きます。スポーツビジネスの発展で、海外では日本よりもずっと人気スポーツ選手の年俸が高騰しており、Jリーグジーコリネカーがやってきた時代も、なんだか夢か幻だったような気がするのです。

 ちなみに、これを書いている時点では、1ドル155円くらい。ずっと続いていた円安から、共和党の大統領候補・トランプ氏が「ドル高がアメリカの競争力を落としている」と発言したことを受けて、少しずつ円が上がってきている状況です。

 僕は長年「円高というのは、円の価値が高い、日本が世界的に評価されているのだから、良いことなのだろう」と思っていました。
 しかしながら、国の経済という観点からみると、必ずしもそうではないのです。

──ここ数年、為替に関する報道が増えたように感じます。かつては円安で輸出産業の業績が好調、日本に来る外国人が増えて景気に貢献している、などとポジティブな内容が多かったのですが、2023年以降は円安で日本人は海外に気軽に行けなくなった、輸入品が値上がりして生活が苦しい、などネガティブな話も増えています。円安は、日本にとってプラスかマイナスか、どちらなのでしょう。


 結論から言えば、円安は日本にとってプラスです。日銀の短期(企業の景況感)を見ても、円安時には景況感が改善し、円高になると悪化する傾向があります。
 特に2023年の円安局面では、大企業製造業、中小企業製造業だけでなく、全企業で景況感が上向いています。これは日本経済にとって円安の恩恵がある証拠です。


──それは少し意外です……。


 まずは輸出企業についてお話しします。日本の製造業は海外に製品を輸出する企業が多いのですが、たとえばアメリカで得たドル建ての売り上げを日本円に戻す際、円安のほうが円換算の金額が大きくなります。
 また、日本円で見て同じ値段で売っていても、1個1000円のモノが1ドル=100円のときは10ドルだったのが、1ドル=150円になれば約6.7ドルと、円安の分だけ、海外での値段は下がりますので、販売量が増え、利益が増す可能性があります。
 これらはすぐにわかる円安のメリットですが、実は国内で生産して国内で販売する産業にとっても、必ずしも悪いことではありません。円の価値が下がれば、海外からの輸入品の価格が高くなるため、人々は輸入品より安くて質の良い国内産の製品を好むようになるかもしれません。特に農業などについては、こうした円安メリットを享受できる可能性があります。
 また、長い目で見れば、円安になると海外の人を雇うのが難しくなるため、海外に移していた生産拠点が国内に回帰すれば、それによって国内の雇用が拡大し、景気がよくなる点もプラスと言えます。


 サービス業では海外からの観光客が増えるし、儲かる企業が増えれば給料も上がって消費も増える(はず)という、円安のメリットが語られており、こんな話も出てきます。

──企業関連以外にも円安の価値はありますか?


 これは意外に忘れられがちですが、現在の日本は、経常収支(貿易収支、サービス収支、所得収支の合計)における黒字の中身が貿易(貿易収支)による黒字ではなく、第一次所得収支といって、海外への投資から得た利子や配当による黒字が中心になっています。
 日本は輸出で稼いでいると思われていますが、実は海外に投資をして儲けている国なのです。
 2024年から新NISAが始まり、海外の株式や債券、外貨預金や外貨建ての投資信託などに投資している人も増えていて、そういう人は海外投資による円安メリットを直接的に感じることができると思います。
 しかし、そうでない方も、実は公的年金や勤めている会社の企業年金の運用では、外貨建ての資産運用が含まれているはずです。ですから円安になれば、これらの運用にはプラスです。
 資産運用における円安のメリットは、日々の生活では実感しにくいですが、こうした点も回り回って皆さんにとって円安のプラス要因と言っていいと思います。


 こういう話を読むと、トマ・ピケティさんの「r>g」の話を思い出さずにはいられないのです。

fujipon.hatenablog.com
www.bank-daiwa.co.jp


 もちろん、円安にもデメリットはあるのですが、「メリットもデメリットもある」というような無難な両論併記よりも、この本のような書きかたのほうが、わかりやすいと思います。

 その一方で、「円安の恩恵は、既得権者のほうが大きそう」なのも事実なのです。
 それでも、トランプ前大統領が「ドル高への懸念を表明している」ことを考えると、「円安」の「安」という言葉のイメージは、通貨の、国の価値が下がったみたいで悪いけれど、少なくとも現在の世界でのひとつの国としては、プラス面が大きいのは確かなのでしょう。

──今は確かに円安になったし、デフレも収まった感が出てきました。ただ一方で、国民が豊かになったかというと……。


 アベノミクス以降、為替は円安に流れが変わりました。そのおかげで輸出企業を中心に、企業業績も良くなった。それ自体はアベノミクスが目指したことでしたが、今や大幅な円安とともにインフレが進んでいます。
 一方で、企業は儲かり、経済は元気になったものの、個人の生活はなかなかよくなりません。むしろ苦しいと感じる人が増えてしまいました。それは、物価の上昇に対して、賃金の上昇が追いついていないからです。結果、実質的な可処分所得(税金や社会保険料を除いた所得で、自由に使える手取りのこと。インフレによる目減りも考慮)は減ってしまった。一般庶民が苦しいと感じることが大きな問題なのは間違いありません。


 高度成長期の日本には「未来はみんながもっと豊かになるはず」という希望があったけれど、現在(2024年)の若い人たちは、「豊かになるには、勝ち組に入らないといけない」と、追い詰められているように感じます。格差は拡がっていく一方で、富裕層がより豊かになることによる全体への恩恵(トリクルダウン)が本当にあるのか、という疑問を持つ人も多いのです。


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 この新書では、質問への回答、会話形式で、専門家である著者が、なるべくわかりやすく「為替の仕組みと、為替の変化が社会、そして身近な生活環境に与える影響」について概説しています。
 率直なところ、ひとつひとつの項目については、読むと「なるほど」とわかった気分になるのですが、全体像として理解できたか、と問われると、あまり自信が持てません。けっこう複雑でめんどくさいな、と感じるところも少なからずありました。

 でも、わかるところだけでも、知っているのといないとでは大違いだと思うし、ネットや雑誌やご近所の「FIRE話」に踊らされて新NISAとかで投資信託をはじめる前に、読んでおいて損はないはず。
 「米国株をインデックスファンドで買う」といっても、米国株自体の価格変動とともに、日本から買うのであれば、為替相場の影響というのはけっして無視できるものではないから。


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