琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜゲームをすると頭が良くなるのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

「ゲームなんて時間の無駄ではないか」と思っている人は少なくないでしょう。しかし、最新の脳科学や心理学の研究によると、ゲームにはさまざまな効用があるといいます。たとえば……。

■ゲームで海馬が大きくなって、活性化する
■アクションゲームは短期記憶、空間認識能力など理系の力を育てる
マルチタスクの能力も上がる
RPGやパズルゲーム、ストラテジーゲームで、問題解決能力が上がる
■「マインクラフト」などのサンドボックスゲームやパズルゲームで、クリエイティビティが上がる
■ゲームで脳が若返る
■メンタルや、周囲との関係性も改善する効果がある などなど……。

一方で、「ゲームをすると成績が下がるのではないか?」「暴力の原因になるのでは?」「集中力が下がってしまう?」と心配する人もいます。しかし、これまで行われた研究によると、ゲームをやりすぎてしまうと成績に悪影響が出てしまうものの、適度にやる分には影響はなく、むしろ、成績アップにつながる可能性も報告されています。そして、「ゲームをすると暴力的になる」「集中力が下がる」ということを示す信頼性の高いエビデンスは見当たりません。


僕は1970年代はじめの生まれで、1980年前後に「テレビゲーム」という新しい遊びに触れて、その魅力にとりつかれてしまったのです。
1983年7月15日に発売された『ファミコン』ことファミリーコンピュータによって、テレビゲームは「マニアの趣味」から、「みんなの普通の遊び」となり、今では、大人もふくめて「一般的な娯楽」となりました。

テレビゲームは「ごくふつうの遊び」になっていく過程で、ずっと批判の対象にもなってきたのです。
「ゲームばっかりやっていないで、勉強しなさい!」
そう言われたことがない子どもは少数派でしょうし、「ゲーム脳」と言われるような依存性や暴力的な犯罪との関連などが指摘され、バッシングされることも多かったのです。

僕のような「子ども時代にテレビゲームで遊んできた人たち」が大人に、親になることによって、テレビゲームは「未知の娯楽」ではなくなり、「子どもどうしの話題にもついていけなくなるし、節度を守ってやる分には、まあいいよね、面白いし(自分(親)もやるし)」と、不可避、不可欠な娯楽として認められるようになってきました。

それでも、「ゲーム依存」などの問題は依然として指摘されていますし、子どもが家でゲームばかりしていると、親としては不安になることもあるのです。


この新書は、スタンフォード・オンライン大学の校長で、哲学博士である著者が「テレビゲームの功罪についての研究の現在地」について紹介したものです。

僕は高校時代、同級生をみていて、「数学ができるやつは『テトリス』が上手い」という印象を持っていました。
「頭が良いやつは、ゲームが上手い、とくに、パズルゲームやアクションゲームが得意」で、超高速で落ちてくる『テトリス』のブロックを寸分たがわずに処理していくのをみて、こいつにはかなわないな、と痛感していたのです。
ゲームでも僕はこいつに敵わないのか、と。


fujipon.hatenadiary.com

「東大卒プロゲーマー」として知られる「ときど」さんは、著書のなかで、テレビゲームがライバルより上手くなるために、適切な努力(練習)をすることと、勉強や研究などで、問題をより効率的に解決していく能力には共通点があると指摘しています。


この『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』のなかで、世界で最も視聴されているポッドキャストの一つ『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』での、2024年11月にイーロン・マスク氏へのインタビューが紹介されています。

ディアブロ」はオンラインで多数のプレイヤーが参加するアクション・ロールプレイングゲームアメリカのBlizzard North(ブリザードノース)が開発したもので、世界的な人気を誇っています。
 ローガン氏によるインタビューは、マスク氏が「ディアブロ」の世界ランキング20位以内であることを披露したあと、ゲームが愚かな娯楽にすぎないという通説は間違っており、ゲームには重要な効用があると続いていきます。
 難しいゲームをやると、否が応でも集中する。これによって、他のことが考えられなくなり、雑念がなくなり、落ち着きを取り戻すことができる。
 これは、日本武道やビリヤードなど集中を促すスポーツと類似している。
 そんな内容をやり取りしたあと、ローガン氏が以下のように切り出します。

ローガン:最近、外科医についての研究を読みました。ゲームをよくする外科医は、手術ミスが少ないことがわかったんです。


マスク:ビデオゲームは手先の器用さを必要とするので、完全に納得がいきます。ビデオゲームがものすごく得意な外科医が、外科手術のスキルも非常に高いというのは納得できるし、それは、速い反射神経が要求されるビデオゲームがうまくなるためには、非常に高い技術が必要だからでしょう。


 ここでローガン氏が持ち出している研究論文によれば、週に3時間以上ゲームをしている外科医は、そうでない外科医に比べて、32%もミスが少なく、24%も速く手術を終えることができるというのです。まさに驚きの数字です。


僕も内視鏡が上手い同僚が「カメラ(内視鏡)の操作はテレビゲームみたいな感じで、自分は難しい手技をクリアするのを楽しみつつやっている」と言っているのを聞いたことがあります。

最新の脳科学では、ゲームをプレーすると、短期記憶の役割を果たす海馬の灰白質が増大したり、ワーキングメモリーを支える前頭葉(背外側前頭前野)が拡大、活性化することが報告されているそうです。


なんだか、良いことばっかりじゃないか、テレビゲーム。少なくとも現代、2025年の社会においては、ゲームが上手くなるための問題解決能力は、仕事で役立つスキルとの共通点が多いのです。ああ、僕の子どもたちにもゲームを好きなだけやらせておけばよかった!


……と言いたいところなのですが、そんなに簡単な話でもないようです。

 また、ゲームの悪影響を示す研究の多くは「ゲーム依存症」と言っていいほどゲームをやりすぎてしまった場合の話に限定されています。
 ゲームのやりすぎにフォーカスして、全体の傾向を俯瞰することはできず、そこで出た悪い結果をもとに、ゲーム全体に一般化することはできません。

 さらに、最近の研究から、ゲームをすると成績が下がったり、仕事のパフォーマンスが下がるのではなく、成績が低かったり、仕事がうまくいっていないと、「ゲーム依存症」になる傾向があることがわかってきました。
 つまり、因果関係が全く逆なのです。ゲームをするとうまくいかなくなるのではなく、ダメだとゲームにハマりすぎてしまいがちだというわけです。


これは、理解できるような気がします。アルコールや麻薬への依存も、根本的な原因には、「不安や不満」があって、それから逃れるために依存性物質に手を出してしまうことが多いのです。
逆に、適度なゲームはストレス解消やメンタルの安定、自己肯定感や創造性・協調性の向上につながる、という研究結果も紹介されています。

その「適度につきあえれば」というのがなかなか難しいのも事実なのですけど。
「不安や不満」が全くない人は、いないでしょうし。

ちなみに、「ゲームをやると暴力性が増す」という研究結果が一時期広まっていましたが、その後のさまざまな研究結果を総合的に解析すると、「ゲームと暴力に有意な関連性はみられなかった」というのが現在の知見となっています。

 ゲームは、やらないよりやったほうがいい。場合によっては、やりすぎのほうがやらないよりマシ。そんな結果を示す研究がこれまでにいくつも報告されているのです。
 たとえば、イギリスの10~15歳の子どもたち5000人を対象に、充実感や社交性、感情の動き、多動性や集中力などの調査が行われました。
 ゲームを全くやらないグループ、1日1時間以下だけやるグループ、1~3時間やるグループ、3時間以上やるグループ。これらの4つのグループに子どもたちを分類して、結果を分析したところ、一番いい結果が得られたのは「1時間以下」のグループ、2番目が「全くやらない」と「1~3時間」のグループ、3番目が「3時間以上」のグループでした。
 それから、アメリカの高校生を対象とした研究で、ゲームを「やらない」「ちょっとやる」「いっぱいやる」の3グループに分けて、メンタルや成績、学校や家での素行や活動の調査をしたところ、概して良い結果が出てきたのが「ちょっとやる」グループ。2番目がなんと「いっぱいやる」、3番目、つまり、最も結果が悪かったのがゲームを「やらない」グループだったのです。
 たとえば、自己肯定感、学校への所属意識、課外活動参加度などに加えて、なんと、家族とのつながり、成績までもが、この順番。「ちょっとやる」がトップで、「いっぱいやる」が次、「やらない」は最も悪い結果だったのです。

 これらの結果は、以下のような傾向を示しています。
 ゲームを適度にやっている人のメンタルやパフォーマンス、人間関係などが最も良好である。一方で、全くやらなかったり、度をすぎてやってしまっている場合には、悪い結果が見られる。場合によっては、全くやらないほうがやりすぎよりも悪い。
 ゲームはやりすぎてはいけないが、やらないよりやったほうがいい!

 この文言だけ見た方は驚くかもしれませんが、本書をここまで読んでいただいた皆さんには腑に落ちやすい事実になっていることでしょう。

 ゲームのいい効果を最大限に引き出しつつも、ハマりすぎてしまわないように、科学的エビデンスのあるゲームとの正しい向き合い方、「科学的ゲームの攻略法」を見ていくことにしましょう。

 まずは、適切なプレー時間。ゲームプレーは1日平均2時間までにしましょう。
 たとえば、平日は1時間くらいまでで、週末に2~3時間くらい多めにやるイメージでちょうど平均2時間くらいになります。
 また、ゲームの効果を最大限に活かしたければ、平均1時間までにとどめましょう。


高橋名人の「ゲームは1日1時間!」は、結果的に「正論」だったのです。
(名人は著書で、当時テレビゲームがメディアで叩かれていて、イベントで咄嗟に思いついた言葉を口にしたものだと仰っています)

いまの僕は仕事もあり、ゲームで遊べない日も少なからずあるので、「1日平均2時間まで」で十分なのですが、子どもの頃や学生時代であれば「短すぎるな……」と不満に感じたと思います。
でも、そのくらいが「適正なゲームとの付き合い方」で、「1日平均3時間以上になると効果がみられなくなりか、逆効果になりやすく、5時間以上になるとゲーム障害患者水準になってしまう」そうです。

また、0~5歳児は、タブレットやテレビゲームなどのスクリーンの使用は、空間認知能力などの認知スキルの低下につながるため、極力控えるべき、というアメリカ小児科学会のガイドラインもあります。

読んでいて、最初は「ほらみろ!ゲームは現代人の『嗜み』なんだよ!」と意気軒高だった僕なのですが、テレビゲームの良い効果を得るのも、悪い影響を受けるのも、付き合い方次第なのだな、と感じました。

正直、いまの僕や僕の子どもたちは、ゲームをうまく使いこなせていない。
そして、多くの人が、同じような状況なのではなかろうか。
ゲームって、時間を忘れるくらいのめりこめるからこそ面白くて、「適正使用」を徹底すると、物足りなくなりそうです。


まだ「ゲーム脳」「ゲームばっかりやっていないで、勉強しなさいっ!」に留まっている大人たちは、ぜひ一度読んでみていただきたいと思います。

「ゲームは1日1時間!」(が難しいのは昔も今も変わらないよね……)


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