琥珀色の戯言

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【読書感想】ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
ヤングケアラーとは、家族の介護を行う一八歳未満の子どもを指す。超高齢社会を迎え、介護を担う若い層も増えているが、その影響は彼らの学業や日常生活にも及んでいる。本書はヤングケアラーの現状について、調査データ、当事者の声、海外の事例、現在の取り組みを紹介。周囲に相談できず孤立したり、進路の選択を左右されたりする状況といかに向き合うべきかを考える。人口減少時代の家族のあり方とケアの今後を問う一冊。


 18歳未満の「子ども」が、家族を介護するなんて、酷い話だ。親や周囲の大人、行政は何をやっているんだ……と思いながら読み始めたのです。
 
 でも、この本で語られているのは、「子どもが『ヤングケアラー』として家族を介護するべきではない、という理想論ではないのです。


 家族のケアを行っている「ヤングケアラー」について、世界で最初に目を向けたのはイギリスだったそうです。
 イギリスでは、1980年代末からヤングケアラーの実態調査や支援が行われてきました。

 2011年のイギリスの国勢調査では、スコットランドウェールズを除くイングランドだけで16万6363人のヤングケアラーがいると報告されているStatistics 2013)。5~17歳の人口に占めるヤングケアラーの割合は地域によっても違うが、ロンドンでは2.2%、北西部では2.3%、南東部では1.9%という数字が示されている。

 日本にも、ヤングケアラーは多く存在している。総務省が2013年に発表した「平成24年就業構造基本調査」では、15~29歳の介護者の数として、17万7600人という数が挙げられている(総務省統計局2013:第203表)。しかし、日本では、子どもや若者が家族のケアを担うケースへの認識自体、まだ充分に広まっていない。
 実際、「平成24年度就業構造基本調査」によれば、同年の介護者55万3800人の8割近くは50代以上であり、学齢期にケアを担う子どもや若者はこうした介護者のなかでは見えにくくなっている。


 少子化が進んで総人口が減少し、一世帯あたりの人数も減っている日本では、大人だけでは、介護の負担をすべて担うのは難しくなっているのです。
 
 そもそも、僕の「子どもに介護をさせるなんて、子どもは自分のことだけに集中させてあげたいのに……」という考え方も、高度成長期以降の日本経済が強く、人口が増えていた時期だからこそ、ではあるんですよね。

 おそらく一番大きな違いと思われるのは、今日の日本では、多くの子どもが介護や家事やきょうだいの世話をするとは想定されていないことだ。これは、子どもの貧困の議論にも重なる論点である。


 いまの日本には、「子どもはとにかく勉強して、良い成績をおさめてくれればいい」という家庭もあれば、「子どもが介護を負担してくれたり、アルバイト代を生活費として家に入れてくれたりしないと、生活が成り立たない(食べていけない)という家庭もあるのです。

 格差が拡がり、それぞれの住む世界には、同じような境遇の人たちが集まって、お互いの姿が見えづらくなってもいます。
 勉強さえしてくれれば、という家庭でも、受験戦争で疲弊していく子どもも大勢いるわけですが。


 著者は、イギリスでの調査結果と、2015年に新潟県南魚沼市、2016年に神奈川県藤沢市で行われたヤングケアラーに関する調査について、このように述べています。

 南魚沼市の調査でも、藤沢市の調査でも、子どもがしているケア内容として家事が多く挙げられたが、これは、イギリスのヤングケアラー全国調査の結果とも一致する(Dearden and Becker 2004:7)。

 イギリスでは、1959年、1997年、2003年にヤングケアラーを対象とした全国規模の調査が行われた。
 6178人のデータを分析した2003年調査が示したヤングケアラーの傾向としてふれておきたいのは、

(1)子どもたちがケアしている相手の大半は母親であり(59%)、ひとり親家庭の場合にはそれが母親である率がさらに高くなること(70%)。

(2)支援サービスを使っている子どもの平均年齢は12歳であったこと

(3)子どもが行っているケア内容として多いのは、家事と感情面のサポートであること

(4)子どもの年齢が上がるにつれてケアの仕事が増え、ジェンダー差も大きくなること(特に家事と身辺ケアは女子のほうが男子よりも行う比率が高くなる)

(5)370人もの子どもが週に20時間を超えるケアをしていたこと

(6)ケア負担が大きな子どもは、自分の友人づきあいや部活、遊び、勉強や宿題に充分な時間を使えず、11~15歳のヤングケアラーの4人に1人は教育上の問題を抱えていたことの6点である(Dearden and Becker 2004)。
 南魚沼市藤沢市で行われた調査は、調査項目がイギリスの調査と同じではなかったが、それでも、子どものケアする対象は母親が多かったこと、子どもが行うケア内容として多いのは家事であることなど、日本のヤングケアラーとイギリスのヤングケアラーには共通点が見られた。家事に比べて、子どもが入浴・トイレの介助といった「身辺ケア」を行うことは少なく、可能であればそれらは避けられる傾向にあったという点も、イギリスで指摘されてきた通りであった。
 一方で、ケアの内容に関して、イギリスの調査と比べた時に日本で目立つのは、「きょうだいの世話」をしている子どもの多さである。


 ヤングケアラーは、日本だけに存在するわけではなくて、「病気の親、家族を子どもがサポートする」というのは、世界中で行われていることなのです。
 その立場にない僕は、「子どもに『そんなこと』をさせなくても……」と思ってしまうのだけれど、ケアを頼む側の立場からすれば、「赤の他人に家の中に入ってこられて気を使う(あるいは、お金がかかる)よりも、自分の家族(子ども)を頼りたい」という面もあるんですよね。
 この本で紹介されている当事者の子ども・若者たちの言葉を読むと、子どもたちの側からしても、「なんで子どもである自分がこんなことを……」という不満よりも、「家族だから、自分ができることはしてあげたい」という意識のほうが強いのです。
 その結果、家のことで手一杯で、勉強についていけなくなったり、欠席が多くなったりして学校をやめてしまうことも少なくありません。
 そうして、勉強できなかった若者たちの多くが、正社員になれるような仕事には就けず、貧困が再生産されていく……


 家族だからといって、そこまでやらなくても……と外野が言うのは簡単だけれど、すべての家族が自分自身のために生きる、と「介護」を投げ出してしまえば、どうなるのか?
 行きつく先は、「介護が必要になった人間は、見切る」という社会なのかもしれません。
 本当にギリギリのところになれば、そうするしかなくなってしまう。
 あるいは、進化した介護ロボットなどによる「人間不要の介護」をすすめていくか。


 当事者である「ヤングケアラー」の多くは、ケアはきついけれど、それ以上に、ケアをやっていることへの社会の無理解がつらい、と感じているのです。

 私がこれまで話を聞いてきた元ヤングケアラーや若者ケアラーは、「あなたがしなくていいんじゃない?」「親に任せろ」「施設に入れればいいんじゃないの」「おばあちゃんの介護と自分の将来のどっちが大事なの?」といった言葉を投げかけられていた。祖父の介護をしていた若者ケアラーの一人は、「言われたことは正論だと思ったけれど、自分の生活で実際にそれができないとなると、自分が悪いのか、祖父母や両親が悪いのか。という気持ちになってしまう」と語っていた。
 現状として、子どもがヤングケアラーとして自分の体験を話すと、それは、親に肩身の狭い思いをさせることにつながっている。家族に複数の要介護者を抱え、娘と一緒に必死に介護してきた女性は、娘がヤングケアラーとして話した体験談を読んだ親戚から「そんなことまでさせていたの」と言われ、非難されているように感じてしまった。そうでなくても、子どもに申し訳ない気持ちを抱いている親は多い。
 なぜ、重いケアを担う子どもや若者を知った時の反応として、まわりの大人が充分にケアを担っていないのではないか、と思われがちなのだろうか。なぜ、子どもを年齢相応の子どもらしくさせてあげられない責任が、まわりの大人にこれほど帰されるのだろうか。この構造については、しっかり考えてみる必要がある。そうしないと、ヤングケアラーは、ますますケアの経験を語れなくなってしまうからである。自分が話したことで家族が傷つくのであれば、そこまでして話そうとは思わない。それは、多くのヤングケアラーが抱いている率直な思いである。


 僕自身も、「周りの大人は何をやっているんだ」と、この本の最初のほうを読みながら感じていたのです。
 著者も、初めてヤングケアラーの話を聞いたときには「お母さんは何をしていたのだろう」という疑問を抱いた、と告白しています。

 現実的には「ヤングケアラー」という存在をすぐに無くしてしまうことは不可能でしょう。
「家族だから助け合う」という常識は、そう簡単には変わらない。
 お金さえ出せば済む、という問題じゃないし、そのお金だって、なかな出せないのが日本の現実です。
 そうであるのなら、ケアラーたちの身体的、経済的、そして精神的な不安を少しでも軽減できるように、自分が「ヤングケアラー」であることを学校でも伝えられ、彼ら自身も適切なサポートとケアを受けられるようにしていくしかないのです。


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