琥珀色の戯言

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【読書感想】文豪春秋 ☆☆☆☆

文豪春秋

文豪春秋


Kindle版もあります。

文豪春秋 (文春e-book)

文豪春秋 (文春e-book)

芥川賞を私に下さい」と選考委員の佐藤春夫に手紙を出した太宰治中原中也小林秀雄のある女性をめぐる三角関係。谷崎潤一郎の「細君譲渡事件」……教科書に載るような文豪たちも、実生活ではワイドショー顔負けの様々な事件を起こしていた。それらを文藝春秋創業者・菊池寛がこっそり教える漫画版文壇事件簿。漫画に描くのは、『有名すぎる文学作品をだいたい10ページぐらいのマンガで読む。』シリーズで知られるドリヤス工場さん。同シリーズは、又吉直樹氏が日本テレビ系「世界一受けたい授業」で三度にわたって取り上げ、累計50万部以上になっている。今回の本には、又吉直樹氏が以下のような推薦コメントを寄せている。
「面白かった!常識を超えた変態性を知ると、その作家の作品に触れたくなるのが不思議。楽しみながら、読書欲を掻き立ててくれる漫画です」
(登場する文豪たち)
太宰治 中原中也 川端康成 檀一雄 坂口安吾 谷崎潤一郎 宇野千代 国木田独歩 永井荷風 岡本かの子 夏目漱石 直木三十五 石川啄木 山本周五郎 志賀直哉 向田邦子 若山牧水 須賀敦子 樋口一葉 久米正雄 泉鏡花 江戸川乱歩 島崎藤村 林芙美子 中島敦 与謝野晶子 澁澤龍彥 吉屋信子 菊池寛 芥川龍之介


 2020年の感覚からすると、「文豪」というのは立派でとっつきづらい存在のような気がするのですが、このマンガで紹介されているさまざまなエピソードを読むと、彼らは作品とともに、私生活でさまざまな話題(スキャンダル)を提供する存在でもあったようです。日本では「私小説」というジャンルが隆盛だったこともあって、プライベートをさらしたり、作家どうしでの交流から色恋沙汰で揉めたりすることも、よくあったのです。
 今、彼らの作品を読む僕は「昔のできごと」だと俯瞰してみることができるのですが、当時の人たちにとっては、太宰治の女性問題など、今のYahoo!!ニュースの「あいのり桃」を僕がみるのと同じような感覚で眺めていたのかもしれませんね。
 自分をコンテンツにしてお金を稼ぐ、話題集めをする文化というのは、YouTuberや炎上ブログ以前から、日本にずっと存在していたのです。

 自らは文学賞を受け取らず、「純文学」と「大衆文学」の境界はないと常々主張していた山本周五郎さんの名前が冠された「山本周五郎賞」が没後につくられ、今や、権威ある賞のひとつと認知されていることや、作家の虚淵玄さんの祖父が、谷崎潤一郎さんと縁がある人だったことなど、意外なエピソードもたくさん収録されています。


 与謝野晶子さんの項より。

「余談だが「君死にたまふこと勿れ」で歌われた弟は無事生還し、終生晶子と仲がよかった」
「ああ、よかった」
「またその後の太平洋戦争では、晶子の四男が出征する事になるのだが、その時の歌は「反戦的」とは言い難い内容であり、そのへんは一貫していない」


 ある人に対する歴史的な評価というのは、その人物の一番インパクトがあった行為や時期についてなされることが多いのです。
 この場合は、与謝野晶子も年を重ねて「転向」してしまった、と考えるべきなのか、日露戦争の時代には、まだ「言論の自由」がそれなりに尊重されていたけれど、太平洋戦争のときには、世の中に反戦的な思想や表現を受け入れる余裕がなくなっていた、ということなのか。
 太平洋戦争から。敗戦後の日本で「一貫していた」日本人は、ほとんどいないわけですし。


 この本での文豪たちの紹介の「案内役」は菊池寛さんなのですが、菊池寛さんは、『文藝春秋』を成功させ、文学の商業化に大きな功績を残した人でもあります。

 現代の雑誌でも人気企画の一つである「座談会」は菊池が最初に始めたものであり、会話中の「笑い」等の表記も菊池の発明である


 文豪もまた「人間」である、ということ。
 みんな「スキャンダル」を起こした人たちを糾弾し、排除しようとするけれど、結局のところ、そういう「人間のドロドロした話」が求められ続けていること。
 こういう人たちが、どんな小説を書いたのか、ちょっと興味はわいてきますよね、とりあえず。


文豪どうかしてる逸話集

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文豪たちの悪口本

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  • 発売日: 2019/05/28
  • メディア: 単行本

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