- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/05/30
- メディア: 単行本
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内容紹介
この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない――。これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編。
伊坂幸太郎さんの書き下ろし新作。
仙台で東日本大震災に被災された伊坂さんが、この作品で何を語るのだろうか、と楽しみにしていました。
読み始めての印象は、「これ、伊坂版『進撃の巨人』?」
壁に囲まれた町があり、強力な外敵が侵入してくる、というシチュエーションに、喋る猫、謎の生き物、クーパー。
「人間が透明になる」という言葉に、『冷たい熱帯魚』を思い出してしまったのですが、それはさすがに僕の考え過ぎだったかもしれません。
まあ、なんというか、「どこかで聞いた、あるいは読んだことがある物語を組み合わせたもの」という感じで、懐かしさと同時に、「なんか古めかしいなあ」という気がしたんですよね。
ストーリーに関しては、あれこれ書くとネタバレになりそうですし(この時点でも、けっこうネタバレかも)、意外などんでん返しというよりは、ちょっと御都合主義という印象が強かったのですが、この物語のなかで、伊坂さんが語ろうとしている「コミュニケーションを難しくしているものは何か?」というテーマには、なんだかとても心に響くものがありました。
「どうせ相手の気持ちなんてわからない」「長いものには巻かれておけ」
そんなふうに考えてしまいがちな僕に、「本当に、それでいいの?」と、静かに語りかけてくるような物語なんですよ。
正直、「取り越し苦労」なんじゃない?って言いたくなるところもあります。
でも、僕は伊坂さんの『モダン・タイムス』のときに、伊坂さんのあまりの心配性っぷりに苦笑したんですよね。
ところが、その後のgoogleのやりかたをみていると、伊坂さんは「炭鉱のカナリア」として、あの作品を描いたのだな、ということがわかってきました。
「検索している」つもりで、実は「検索させられている」社会への警鐘。
『夜の国のクーパー』は、「伊坂幸太郎らしくない」「どこかで読んだような話をツギハギしたもの」ではあるのですが、僕にとっては、「なんだかすごく引っかかる作品」でした。
「俺を信じるかどうかは、おまえたちの自由だ。どんなものでも、疑わず鵜呑みにすると痛い目に遭うぞ。たえず、疑う心を持てよ。そして、どっちの側にも立つな。一番大事なのはどの意見も同じくらい疑うことだ」
「それだけでもずいぶん違うだろうね」私はそれを、気休め以上のつもりで言った。お互いに意識を変えないでいれば、猫と鼠の関係は平行線であるだろうが、ほんのわずかでも相手に寄り添おうと向きを変えれば、二つの線はいずれ、どこかで交錯するかもしれない。可能性は残る。
「疑うこと」と「信じること」
どちらも生きていくためには必要だけれど、常に両立させていくのは難しいこと。
いろんな価値観が押しつけられてくる時代だからこそ、流されずに、自分で考えようとしなければならないのですよね。