琥珀色の戯言

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【読書感想】本当はこんな歌 ☆☆☆☆


本当はこんな歌

本当はこんな歌

内容紹介
週刊アスキーで掲載していた町山智浩の連載を書籍化。意味もわからず歌っていた洋楽ロック歌詞の本当の意味や、アーティストが作詞作曲に至った背景を解説。40曲を取り上げる。

洋楽の歌詞の本当の意味、といえば、僕が最初に思いだすのは「王様」の「こ〜そくど〜うろの〜ほし〜」なんですよね。
僕はそんなに洋楽を聴いてきたわけではなかったのだけれども、あらためて言われてみれば、「意味」よりも、「雰囲気」と「知っている単語」で、まあ、こんな歌なんだろう、と勝手に解釈していました。
しかし、あらためて、考えると、マドンナの「パパ・ドント・プリーチ」(Madonna / Papa Don't Preach)なんて、すごい歌詞ですよねえ。いや、正直、僕は当時「パパに襲われそうになる女の子の歌」だとなんとなく思っていたりしたわけです。ああ恥ずかしい。


でもまあ、そんな「間違い」は、僕だけのものじゃなかったみたいです。

 ビートルズの歌で邦題が間違っているので有名なのは、なんと言っても『ノルウェーの森』だろう。シタールの響きが異国的なのでノルウェーの森を想起させる曲ではある(シタールはインドの楽器だけど)。でも、原題は『Norwegian Wood』。複数形Woodsなら「森」だが、Woodだと「木材」になる。つまりこれは北欧製の白木の家具のことなのだ。日本では白木の家具は「おしゃれ」とか「かわいい」と女の子に人気だが、欧米ではウォルナットやローズやチェリーと比べると、杉の家具は最も安物。この歌は、女性の家を訪ねたことを歌っている。彼女の部屋には白木の安っぽい家具があった。彼女は泊めてくれても、セックスさせてくれなかった。しかし『白木の家具』では村上春樹のベストセラーにはならなかっただろう。

村上春樹さんの『ノルウェイの森』は、英語でも『Norweigian Wood』と訳されています(実は、英語ではさりげなく『Woods』に変わっているのではないかと思って調べてみたのです)。
村上さんが、本来の意味を知っていて、このタイトルをつけたのかどうか僕は知らないのですが、英語圏の人たちは、どう思ったのだろう。
しかし、町山さんが紹介されている「彼女は泊めてくれても、セックスさせてくれなかった」という歌詞の意味は、ワタナベと直子の関係そのもの、だとも言えますよね。


この本を読んでいると、「ロックスター」と呼ばれる人たちは、本当にいろんなものを背負って闘っているのだなあ、と思い知らされます。
そして、日本のロックがラブソングばかりであることに、ちょっと寂しさを感じもするのです。
実際には、いろんなことが歌われているのだけれど、ヒットしているのがラブソングばかりなのだろうか……
斎藤和義さんが、原発事故を受けて、自らのヒット曲の替え歌『全部ウソだった』をネットで発表し、物議を醸しましたが、この本を読んでいると、むしろ、「あのくらい、ロックスターにとっては当然のこと」なのかもしれません。


パール・ジャムの『ジェレミー』という歌について。

 ネット時代になってから、初めてこの歌の背後の事実がわかった。ジェレミーの新聞記事を見つけたのだ。
 1991年1月9日朝、テキサス州リチャードソンの高校二年生のクラス。二時間目は英語。女性教師は、前回欠席したジェレミー・ウェイド・デル(16歳)に、学校の事務局に行って欠席届を取ってくるよう指示した。ジェレミーは無断欠席が多く、父親と共にカウンセリングを受けていた。母親は離婚して家を出て行っていた。
 しばらくして教室に戻ってきたジェレミーは、欠席届の代わりに357マグナムのリボルバーを持っていた。教師も生徒も凍りついて動けない。ジェレミーは黒板の前に立つと、横にいる教師にこう言った。
「先生、僕は、やりたかったことがあるんです」
 そして、リボルバーを口にくわえて引き金を引き、頭を吹き飛ばした。


(中略)


 パール・ジャムエディ・ヴェダーは新聞でこの記事を読んだ。そのとき、彼に甦ったのは顎の痛みだった。子供の頃、みんなと一緒になってイジメたブライアンに殴られた顎の痛みだ。それは二番の歌詞で歌われている。
「ジェレミーの記事は短かった」。エディはインタビューで回想している。「命がけの復讐なのに、こんな短い記事にしかならなかったんだ。彼が死んだところで、きっと明日も今日と変わらないだろう。みんな忘れてしまうだろう。だから君が本当に復讐したかったら、生き続けるしかないんだ」。
 PVで血まみれになるクラスメートはジェレミーの返り血を浴びただけ。PV監督は「友達を撃ったと誤解されているのは困る」とグチを言っているが、それは1999年のコロンバイン高校乱射事件で現実になった。

こういう「もの言うロッカー」たちの姿には、なんだかすごく胸を打たれます。
彼らは、有名になっても、「自分の言葉で社会に訴える」ことをやめない人たちなのです。
その一方で、私生活では、けっこうムチャクチャなことをやっている人もいるんですけどね。


マリリン・マンソンが元音楽ライターだったり、エミネムが「ストーカー的なファン」に悩まされていたりといった、いままで僕が知らなかったミュージシャンたちのエピソードも満載です。


この「本当はこんな歌」って、『週刊アスキー』に連載されており、僕も読んではいたのですが、そんなに特別な印象はありませんでした。
でも、こうして単行本にまとめられたものを読んでみると、ロックの歌詞というのはまさに「時代の鏡」だし、それを歌っていたアーティストたちの「背景」が、あまりにもドラマチックなものばかりなのに驚かされました。
町山さんの文章だけではなく、谷門太さんの「歌とアーティストの解説」がシンプルかつ的確で、すごくわかりやすいですし。


また、町山さんも「おわりに」で書かれているのですが、さまざまなアーティストの有名な曲の版権をしっかり取って、こうして本にするというのはかなり大変な仕事だったのではないかと思います(三宅貴久さんが「版権取得に奔走してくれた」そうです)。


洋楽ロックのファン、というわけでもない僕にもこれだけ楽しめたので、ファンにはたまらない一冊、だと思います。
もしかしたら、ファンにとっては、ずっと美化してきた自分のイメージを裏切られ、「ずっと知らないほうがよかった……」っていうエピソードもあるかもしれませんが。

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