琥珀色の戯言

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【読書感想】キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
いま日本では国をあげてキャッシュレス化を推進しているが、そのはるか先をいくのが中国だ。モバイル決済が普及し、それを前提とした新ビジネスが続々と誕生。しかも、その利用履歴が国民の統治制度に組み込まれつつある。壮大な社会実験に取り組む中国の現状を詳細に紹介する。


 すごいスピードで「キャッシュレス社会」となった中国と、いまだに「現金信仰」が根強い日本。
 この新書は、中国で経済学を教えている日本人の教授が、現地で体験してきたことをふんだんにまじえながら、「キャッシュレス社会のメリット、デメリット」を紹介したものです。
 ただし、著者はこの本のなかで、「中国」というのは、あまりにも広く、その生活環境も都市部と田舎では全く異なるので、「中国」を十把一絡げで語るのは難しい、とも念押しています。

 著者は冒頭で、勤務先の近くの四川料理店(食事とお酒で一人50元(800円)程度で済むローカルレストランだそうです)での食事の様子を紹介しています。

 店には紙のメニューもあるが、私は使わない。テーブルの端に設置してあるQRコードスマートフォンスマホ)でスキャンすると、写真付きの料理一覧が出てくる。商品名をタップして数量を入力し、決定するとオーダーされる。食事後は、食べた料理の名前と品数、値段をスマホ上で確認。支払いボタンをタップして指紋認証で完了。店員は料理を運んでくる以外、一切かかわらない。
 お店への支払いはアリババの決済(支払)アプリ「支付宝」(アリペイ)を使うが、食後に友人たちと割り勘にするときは、アリババと並んで中国ではポピュラーな決済アプリ、テンセントの「微信支付」(ウィーチャットペイ)を使うのが私流。


 中国のキャッシュレス化は、ここまできていて、お客さんもこれをスムースに受け入れているのです。
 いまの日本で生活している僕の感覚としては、なんだかちょっと不気味……だと思ったのですが、よく考えてみると、食券制の牛丼店などでは、これとほとんど同じことをやっている、とも言えますよね。

 スマホの爆発的な普及に伴い、これまでパソコン上でしかできなかったオンライン決済手段を携帯することが可能となった。
 そこでテンセントは、中国人のコミュニケーションに欠かすことのできないウィーチャットに決済機能を組みこみ、「人海戦術であらゆる店のレジに自社のスマホ決済専用の2次元バーコードを貼り付けた」(2017年3月24日付「日本経済新聞」)。
 ウィーチャットペイのサービス開始が2013年8月。私が北京の街でQRコードを見かけるようになったのは翌14年頃だが、2016年頃になると、レストラン、スーパー、コンビニといった通常の販売店だけではなく、道ばたの露天商を含め、スマホで決済できない店を探すほうが難しくなった。
 もともと、モバイル決済に先鞭をつけたのはライバルのアリペイだった。今では当然のように使われているQRコード決済を最初に採用したのもアリペイだ。しかし、中国人の大半がスマホにダウンロードしているチャットアプリに決済機能をつけたインパクトは絶大であった。中国調査会社の易観の調査によると、2014年第1四半期におけるアリペイとウィーチャットペイの市場シェアは、それぞれ77.8%と9.6%であったが、ウィーチャットペイが急成長し2018年第4四半期にはそれぞれ53.8%と38.9%となっている。
 またウィーチャットペイが登場して競争原理が働いたことで、サービスの質が向上し、ユーザーに便宜をもたらし市場も拡大した。モバイル決済額は、ウィーチャットペイの普及が進みアリペイとの競争が激化した2014年から15年のわずか1年で4.8倍に増加。2012年に2.3兆元(36.8兆円)だったモバイル決済額は、2017年には約88倍の202.9兆元(3246.4兆円)にまで拡大した。決済回数で見ても同様に2014年を境に急増している。
 利用者ベースでもその傾向は見て取れる。オンライン決済の中でも、2014年以降モバイル決済の利用者数が急激に増加している。2013年末で1.25億人だったモバイル決済利用者数は、2017年には4.2倍の約5.3億人にまで達している。また、それまでオンライン決済を使ったことのなかったユーザーがモバイル決済を利用し始めたことで、オンライン決済全体の拡大にもつながっている。
 このことからも中国でモバイル決済が爆発的に増え、キャッシュレスが一気に進むきかっけとなったのが、ウィーチャットのペイメント事業参入によるものだということがわかる。


 このアリババ(アリペイ)対テンセント(ウィーチャットペイ)の壮絶なシェア争いが、中国のキャッシュレス社会をけん引している、ともいえるのです。この2社は、なんとかライバルに対して優位に立とうと、さまざまなサービスを打ち出してきました。
 日本は、現金信仰が根強いといわれますが、中国でのウィーチャットの参入のように、なんらかの起爆剤があれば、日本でも一気にキャッシュレス化が進む可能性はあると思われます。
 それを見越して、日本でもさまざまな企業がペイメント事業に参加してきているのです。


 中国は、キャッシュレス化とともに、スマートフォンでサービスを評価し、共有するシステムの普及によって大きく変わってきているのです。
 それまでは、「釣銭を投げてよこす店員」が当たり前だったのに、日本のスーパーやデパートと同等の接客がみられるようになってきたそうです。
 食の安全や迅速なサービス、接客態度の向上など、店と客の相互評価システムによって、中国人は、どんどん行儀よくなってきています。
 「他者に良いサービスをして、評価されること」「自分の評価スコアを上げること」が、中国の社会を変えているのです。
 それは「相互監視社会」だと嫌う人も少なからずいそうですが、いまの中国の全体像としては、以前よりずっと安全で過ごしやすくなっている、ただし、競争も激しくなっている、という状況です。


 モバイル決済やキャッシュレス化のなかで、様々な新しいビジネスが生まれてきているのですが、その代表格である「シェア自転車」についての「変調」を著者は指摘しています。

 中国でよく問題になっているのが放置自転車である。中国では駐輪場所が決まっておらず、「乗り捨て」ができるドックレス・タイプが主流だ。利用後に放置されて山のように積み上げられた自転車を撤去したり、路上に乱雑に乗り捨てられて交通障害となっている自転車を駐輪区域に丁寧に並べ直したりしているのは、「農民工」と呼ばれる農村からの出稼ぎ労働者たちだ。
 また、駐輪ドックの有無にかかわらず直面する問題として、「偏り」と「故障」が挙げられる。シェア自転車はその特性から配置に「偏り」が生じる。出勤時間は住宅地からも最寄りのバス停、地下鉄の駅までの利用に偏る。午前9時を過ぎると私が住む団地の周りからシェア自転車はほとんど姿を消す。退勤ピーク時は逆の流れとなる。各社ともビッグデータなどを使って需要予測をおこなっているようであるが、実際にそれに合わせて、自転車を回収、移動させて、配置場所のバランスを調整しているのは農民工である。
 もう一つの大きな問題として自転車の「故障」がある。北京の街には、チェーンが外れたり、タイヤがパンクしたり、サドルやペダルがなかったりと、故障したシェア自転車が散見される。パンクしないタイヤや、チェーンなしの駆動部を備えているタイプの自転車ですら、何らかの故障で使えないケースが多い。
 これらは日々、人間の手によって回収され、修理されているが、そうしたランニング・コストを抑えられるのも、安価で良質な労働力が豊富にある「世界の工場」で、自転車の製造、メンテナンスのコストにおいて十分な優位性を有している中国だからである。
 モバイル決済、位置情報サービス、ビッグデータなど、表面的には先端技術をちりばめたようにも見えるシェア自転車ビジネス。しかし、その実態をみれば、「安価で豊富な労働力」「世界の工場」という特性を活かした、「労働集約型」のビジネスモデルとなっているのだ。
 この「労働集約型」モデルは、シェア自転車だけのものではなく、「新経済」分野で続々と出てくる新ビジネスの多くで採用されている。ネット通販や「ワイマイ」で購入した商品を電動バイクで運ぶのも、町中に配置された無人ジムボックスやカラオケボックス無人コンビニの清掃やメンテナンスを行うのも農民工だ。

 これらの「新ビジネス」は、「人間が介在していない」ようにみえるけれど、実際は「見えないところで、安価な労働力が潤沢に使われている」のです。
 これから、中国全体がどんどん豊かになっていけば、人を雇うコストも上がっていき、これらのビジネスは成り立たなくなる可能性が高いのです。
 「新ビジネス」は、「格差」に支えられている、とも言えそうです。

 キャッシュレス化では、日本よりずっと「先進国」である中国における、現状と将来への期待と不安。
 僕は
今週のお題「母の日」
、そこまでしてキャッシュレス化を推し進める必要があるのか、とも考えています。
 外国人観光客の受け入れに関わる人たちや、国民の資産の動きを透明化したい国にとっては、避けて通れない道なのでしょうけど。


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