読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】芸能人はなぜ干されるのか?: 芸能界独占禁止法違反 ☆☆☆☆


芸能人はなぜ干されるのか?

芸能人はなぜ干されるのか?


Kindle版もあります。
[asin:B015T56TF0:detail]

内容(「BOOK」データベースより)
「バーター」「共演拒否」で芸能プロダクションに絡め取られたテレビ局。芸能界の中枢で蠢く談合組織で調印された「秘密協定」の謀略。バーニングプロダクションケイダッシュジャニーズ事務所吉本興業による「市場独占」の醜悪。「暴力団」による芸能界支配の裏面史。マスコミがひたすら黙殺する日本最大のタブー「芸能界」を震撼させる乾坤一擲の書!


 「芸能界の暗部」みたいなものをこんなに生々しく描いて許されるものなのだろうか?
 いやまあ、読んでみると、「ある関係者から聞いた」というような話も多くて、衝撃的な内幕のどこまでが「事実」なのだろうか?と考えてしまうところもあるのですが、情報源を明示するのは難しいだろうしなあ。
 

 芸能人と芸能プロダクションの「力関係」と、そういう関係ができあがってきた歴史について語られている労作です。
 ちょっとした噂話を集めた軽い読みものなのだろうな、と思いきや、質・量ともにかなりのものでした。
 紙版は2014年4月に出たらしいのですが、僕はこの本が最近、AmazonKindle版でセールになるまで、存在を知りませんでした。
 出版社が大手ではない、というのはあるのでしょうけど、「大手メディアでは、話題にしにくい本」であり、「外国の企業」であるAmazonは空気を読まなくて済むためにプッシュできた、ということなのか、とか推測したくもなります。

「タレントは所属事務所を独立してはならない」
「タレントは事務所の移籍をしてはならない」
「タレントは所属事務所の指示に従わなければならない」
 これが「芸能界の掟」と呼ばれる芸能界に特有のルールだ。
 タレントは一般の労働者が当然、持っている労働基本権(自主的に労働することを妨害されない権利、労働組合を作り加入する権利、労働組合加入を強制されない権利、雇用者と団体交渉を行なう権利、合法的に争議を行なう権利など)を持っていない。それを阻んでいるのがタレントを管理する「芸能プロダクション」、あるいは「芸能事務所」であり、それを組織化した「日本音楽事業者協会音事協)」のような事業者団体の存在だ。

 SMAPの解散騒動で、「事務所の力」が社会的にも再認識されることになりました。
 SMAPほどの「大物」で、ずっと事務所のために貢献してきて、ジャニーズ事務所にはまだ稼げるタレントが大勢いるにもかかわらず、彼らは「事務所に謝罪するか」「干されるか」の二つに一つしか無くなってしまったのです。
 この本ではジャニーズ事務所のことも書かれていて、社長の「禁断のスキャンダル」についても言及されています。
 

 現在の芸能界で、若い男性アイドルはジャニーズ事務所が一手に握っています。
 「もし、あの所属タレントの独立に協力するのなら、もうウチのタレントは、お宅の局の番組には一切出演させませんよ」と言うだけで、相手は折れるしかなくなってしまうのです。
 あるいは、「他所の○○を使うんだったら、ウチは今後協力しませんよ」でもいい。
 別に暴力やお金を使わなくても、男性アイドルタレントを「独占」しているジャニーズなら、それだけでいい。
 逆に、もし男性アイドルとして芸能界で生きていこうと思ったら、「ジャニーズ事務所の世話になるしかない」のです。
 どんなに厳しい条件であっても、それしか選択肢がない。
 同じことが、お笑いの世界での吉本興業にもあてはまります。
 吉本所属のタレントは、よく「吉本のギャラの安さ」をネタにしているのですが(まあ、ネタにできるだけおおらかだ、と考えて良いのかもしれませんけど……)、それがお笑いの世界で生きていくためには、もっとも「王道」であることもまた事実です。
 市場を「独占」していることが、何よりも大きな武器になる。
 そして、芸能人には「独占禁止法」は適用されない(厳密に言えば、法的にどうかはわからないのですが、それを法廷に訴える人はいないと思われます)。


 その「タブー」に触れると、仕事を失ったり、身の危険を招いたりすることもありえるのです。

 著名な芸能評論家を紹介してもらい、一緒に取材に赴いたことがあった。
 その評論家は、当初、「俺はバーニングもヤクザも怖くない」と威勢が良かったのに、私が芸能界の問題について意見を述べ始めると、虚を突かれたような表情をして、うろたえ始め、仕舞いには「タレントは、今の状況に満足しているんだ」とトーンダウンした。
太平サブロー・シローは、吉本興業から独立して、まったく仕事がなくなりました。これに音を上げたサブローは吉本に土下座して詫びて、ようやく許されましたが、復帰の条件は3カ月ノーギャラ、独立しようとするタレントへの説得、先代の会長の墓参りをすること、というものでした。まるで奴隷みたいな扱いですよね。それでもタレントは、現状に満足していると言えますか」
 と私が反論したところ、その評論家は、「そんなのは嘘だ。芸能プロダクションのタブーっていうのは、ヤクザと同和と在日と脱税なんだ。もう、この話はやめよう」と会話を打ち切り、企画自体も立ち消えとなった。


 この本によると、他の吉本興業所属のタレントたちが東京に進出して人気を得ていくなか、会社の方針で、「大阪にいて漫才を続けていくこと」を求められたサブロー・シローさんが、自分たちの活動の自由を求めて独立しようとしたことが、「干された」原因だったそうです。
 もちろん、売れるためには事務所の力というのは必要不可欠なのでしょうけど、労働者側としては、「辞めようとした人を今度はお前が説得しろ」とか、「墓参り」まで求められるというのは「いきすぎ」ですよね。
 

 事務所の側としては、タレントの移籍・独立を「自由化」すると、引き抜き合戦になってしまい、収拾がつかなくなり、ギャラも高騰して利益も減るということから、「移籍・独立に対しては厳しく対処する」というのが「共通認識」になっているのです。
 ジャニーズ事務所だけが、強権を発動しているわけではないのです。
 普段は競争相手のはずの芸能事務所どうしでも、業界全体の利益を守るために「タレントの独立・移籍」に対するペナルティでは「協調」していきます。
 ジャニーズの場合には、お金とは別の問題が若いタレントたちにはあることを、著者はほのめかしています。
(実際は、「そのものズバリ」がこの本の中には書かれているのですが、ここでは割愛)
 ただ、この本を読んでいると、マネージメント料を10%に設定した良心的な事務所は経営がすぐに厳しくなってしまった、という話も出てくるので、タレントを育て、売れっ子にするのにはお金がかかるし、事務所側にもそれなりの言い分はありそうなんですけどね。
 

 泉ピン子さんの「独立トラブル」についての、こんな記述もあります。

 2000年に事務所とのトラブルが発覚した。ピン子は1999年秋から暮れにかけて金に困って、事務所に立て替えを求めたが、事務所はこれを断った。ピン子は「これじゃ、年を越せない」と言って、年末に35年所属した佐藤事務所から独立した。事務所側は、翌年4月になって、ピン子との間に金銭トラブルがあることをマスコミに明らかにし、ピン子が出演した舞台のギャラの差押えを申請し、訴訟を提起した。
 事務所の主張によれば、69年の4万円以降、事務所はピン子に対し、言われるがままに、お金を立て替え続け、それが積もり積もって3億5000万円強にも上ったという。事務所は何度も返還を求めたが、ピン子はそのたびに独立をチラつかせ、お金を引き出し、シャネルなどの浪費に充てた。
 タレントの独立騒動というと、「干される」という話になりがちだが、ピン子の場合はそうはならなかった。
 佐藤事務所はピン子の他に牧伸二と数人のタレントしかいない小さな事務所で、売上げの大半をピン子1人が稼いでいたという。95年に事務所の社長、佐藤昭が死去すると、経理担当だった妻の佐藤綾子が会社を引き継いだが、営業のことはまったく分からず、頼りになる後ろ盾もなかった。
 佐藤事務所がピン子から徴収するマージンはギャラの20%と、業界の標準からいうと高くはない。ピン子からの立て替え要求に苦慮した佐藤綾子は、夫の生命保険を解約したり、老後資金や子供の預金まで取り崩して、工面した。ピン子から求められ、自力では着れない派手なコートを30万円で買い取ったこともあったという。
 一方、独立後のピン子は、旧知のプロデューサーなどに自ら出向いて営業して回り、特に脚本家の橋田壽賀子やテレビプロデューサーの石井ふく子との関係が盤石で仕事も途切れなかった。
 これが弱小プロダクションとタレントの力関係だ。芸能プロダクションはタレントにナメられてはならない。さもなければ、泉ピン子のようなパワータレントに骨の髄までしゃぶられてしまう。


 この他にも、新居の家具代として、数百万円をプロダクションのツケにしたという小柳ルミ子さんの話も出てきます。
 これらが事実であるならば(著者はどちらかといえばタレント寄りのスタンスなのにあえてこれを書いているということは、信憑性は高そう)、事務所のほうが「弱者」ですよね、この場合。
 タレント=善、事務所=悪、というふうに思いがちだけれど、事務所側からすれば、「つけあがらせると、とんでもないことになる」という恐怖感もあるはずです。
 まさに、弱肉強食の世界。
 裏切ったタレントを「干す」ことはできても、それで自分が儲かる、というわけではありませんし。


 この本は2014年4月に出ていますから、「SMAP解散危機」より、ずっと前に書かれています。
 今回、2016年1月に発覚した「SMAP解散危機」で、「ジャニーズ事務所への忠誠を貫いた」と報じられている木村拓哉さんですが、木村さん自身も、1990年代後半から、たびたび移籍が噂されてきました。

 1995年度、ジャニーズ事務所は芸能プロダクションの所得ランキングで吉本興業を抜いて1位となり、年間総売上は30億円に達した。ジャニーズ事務所が日本一の芸能プロダクションの座を獲得できたのは、ジャニーズ史上最高のアイドルグループ、SMAPによるところが大きい。
 だが、ジャニーズ躍進の立役者であるにもかかわらず、SMAPの待遇は良くなかった。特にSMAPで一番の人気を誇った木村拓哉の不満は大きかった。当時の報道によれば、月額の基本給はたったの20万円程度だったという。CDの売上やCMの件数によって歩合給が多少加算されるとも言われていたが、木村は納得しなかった。そこで、浮上したのが独立・移籍問題だった。


 実際に、木村さん側は、某大手事務所に移籍を打診したそうです。
 結局、ジャニーズ事務所側の巻き返しもあり、これは実現しなかったのですが、木村さんの待遇は改善されました。

 移籍の話は消えたものの、木村は実利を得ることに成功した。
 木村の動きに慌てたジャニーズ事務所は、基本給を20万円から50万円にアップさせた。歩合給を含めると、木村の年収は2000万円を超すようになったという。さらに、木村を懐柔するための「アメ」として、1996年12月、写真集『木村拓哉』が発売された。発売元は時刻表などを刊行するJTBパブリッシングで、発行元は同年3月に設立された川島インターナショナルという、マルチメディア制作のベンチャー会社だった。
 川島インターナショナルの親会社はインテリアや呉服の販売を手掛ける京都の川島織物で、木村の父親が営業マンとして勤務していた会社だった。写真集のスタッフクレジットを見ても、「プランニング・コーディネーター」として父親の名前が連ねられていた。写真集制作に際してジャニーズ事務所はノータッチで、定価4000円、35万部の印税はジャニーズを通さず、木村に振り込まれたという。


(中略)


 以降も、木村の独立・移籍にまつわる噂はくすぶり続けることとなる。毎年、木村とジャニーズの契約更新時期である秋になると、SMAPの解散説や木村の独立・移籍の噂が囁かれるようになった。
 記者会見の席で、そうした質問が出ても、木村ははっきりNOとは言わず、はぐらかした。マスコミを使って独立をチラつかせながら、ジャニーズにプレッシャーをかけ、好条件を引きだそうという腹だったのだろう。
 2000年、木村は工藤静香と結婚したが、工藤が所属するパープルという事務所はバーニング系列だと言われていた。この「政略結婚」により、木村はバーニングと太いパイプを持つことになった。ジャニーズとの関係がこじれた際のカードを木村は手にしたのである。


 繰り返しになりますが、これは、今回の「SMAP解散騒動」の前に書かれたものです。
 すべて事実とは限りませんし、「政略結婚」だなんて失礼じゃないか、とも思うのです。
 でも、これを読むと、報道で「SMAPの5人のうち、木村拓哉さんだけがジャニーズ残留を選択した」理由は、必ずしも「お世話になった事務所を裏切れない」だけではないような気がします。
 残りの4人にとっては、木村さんを残して独立すると、ジャニーズ事務所だけではなく、今をときめくバーニングとの関係悪化も避けられないでしょう。
 そういう背景が語られず、木村拓哉さんの「義理堅さ」ばかりが語られるのが、いまの芸能メディアなんですよね。
SMAP解散を回避してほしい、という国民の声」も、事務所側にうまく利用されてしまった。


 読めば読むほど「芸能界には深入りしないほうがよさそう」だと思えてくる一冊です。
 まあでも、「辞めようという人への有形・無形の圧力」とか、「裏切り者扱い」なんていうのは、芸能界の専売特許じゃなくて、僕の周囲にも少なからず転がっているんですけどね。