琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ラットマン ☆☆☆☆


ラットマン

ラットマン

焦燥。倦怠。狂おしい嫉妬。猜疑。謎に包まれた死。
ようこそ。ここが、青春の終わりだ。
姫川亮は30歳。高校時代の同級生とロックバンドsundownerを結成して、もう14年になる。エアロスミスが好きで、コピーをして、物真似っぽくてもいちおうのオリジナル曲も作って、細々と続けてきた。
姫川はギタリストで、高校を卒業したあと、精肉会社の営業マンをしている。ボーカルは竹内。フリーター。ベースは谷尾。商社に勤めていて、今は総務主任だ。ドラムは小野木ひかりが叩いていた。姫川の恋人だ。2年前にバンドを抜けた。今はひかりの妹・桂が担当している。
ひかりは妊娠しているという。中絶したいという。結婚の話は出ていない。姫川は、猜疑心を抑えられない。また、自分の心が桂に移っていくことも、抑えられないでいた。桂は、自分の姉に似ている気がするのだ。
姫川には二歳上の姉がいた。姫川が七歳のときに、自宅の二階から落ちて死んだ。父が後を追うように病死した。今、姫川には、連続した悲劇に心を深く閉ざしてしまった母親しか残されていない。
sundownerがいつも練習しているスタジオ“ストラト・ガイ”の閉店が明らかになった日、事件が起こる。姫川たちの過去と現在をあぶり出し、未来へと導くように。そこでは何が見えるだろうか。
亡くすということ。失うということ。胸に迫る鋭利なロマンティシズム。注目の俊英・道尾秀介の、鮮烈なるマスターピース

これは確かに、「鮮烈なるマスターピース」だと思います。
全編に流れる「大人になりきれない年齢の大人たち」の倦怠感と出てきた小道具を見事に消化する謎解き。
そして、その謎解きそのものが、「大人への通過儀礼」になっているという芸の細かさ。
読んでいて、「上手いなあこれは」と唸らずにはいられませんでした。
道尾秀介さんの作品は、「複雑なトリックや何重ものどんでん返し」という技術的な面が先に立ってしまい、ちょっと読者をおいてけぼりにしてしまっているのではないか、と今まで感じることが多かったのですが、この『ラットマン』は登場人物の年齢や設定(まあ、そういう背景の人なら、考えが偏っていてもしょうがないのかな)もあって、僕も素直に「自分の青春が終わったとき」のことを思い出しました。理性にだけでなく、感情にも響くミステリです。

ただ、あえて難点を挙げるとするならば、僕は正直「被害者がすごくかわいそう」でしょうがないんですよね、これ。
何がかわいそうって、友達のくせに、誰ひとりその人の死を本気で悲しんでいるように思えないところが。
いくらなんでも、これはちょっとみんな「友達甲斐がなさすぎる」のでは……
あと、ひかりと桂の関係についても、ちょっと僕にはよくわかりませんでした。

少し気になるところも書きましたが、最近読んだミステリのなかでは白眉でしたし、「面白くてそんなに分厚くないミステリを読みたい」という方にはオススメできる作品です。
しかし、『カラスの親指』もそうだけど、道尾さんって、作中に出てきた小道具や言葉をうまく回収するのが本当にうまいですよね。
2009年は、この人の年になるような気がします。

HERO ☆☆☆☆☆ (再掲)


HERO スタンダード・エディション [DVD]

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解説: 2001年にフジテレビ系列で放送され、同局歴代ナンバーワン大ヒットドラマとなった「HERO」の劇場版。初の映画版では、ある傷害致死事件をめぐる巨大な陰謀劇に、主人公の検事・久利生公平が立ち向かっていく。久利生役の木村拓哉、彼の事務官役の松たか子らレギュラーメンバーが再集結するほか、松本幸四郎森田一義タモリ)、イ・ビョンホンなど超豪華キャストが参戦。全シリーズを踏まえた映画オリジナルの展開に注目。

東京地検城西支部に再び戻った久利生(木村拓哉)は、ある傷害致死事件の裁判を任されるが、容疑者が初公判で犯行を全面否認、無罪を主張したために思わぬ事態を迎えてしまう。被告側の弁護士・蒲生(松本幸四郎)は“刑事事件無罪獲得数日本一”の超ヤリ手。さらに事件の背後には、大物政治家の花岡練三郎が糸を引いていることを突き止める。 (シネマトゥデイ

こんなベタで狙いすました「テレビドラマの映画化」を絶賛するのはなんだかちょっと悔しいのだけれど、すごく面白かったです。
もともと僕が「法廷もの」とか「検事・弁護士もの」が大好きである、そして、ドラマ『HERO』の熱心な視聴者だった、ということもあるのでしょうが、観終わって、「面白い映画だったなあ!」ってスキップしながら帰りたくなりましたよ。そして、「明日から仕事、頑張ろう」と、ちょっとだけ元気にもなりましたし。

ほんと、内容的にはツッコミどころは満載の映画なんですよこれ。「久利生公平、最大の危機!」って、どこが危機なんだかよくわからなかったし、あの事件の「証拠」って、車が見つかった時点で現場に残った塗料とか分析すれば十分だろう、と。そもそも、蒲生弁護士の言ってることって、どう考えても「屁理屈」だし、韓国までわざわざ行く理由も、現地の警察の態度も不可解です。はっきり言って、「法廷劇」としては、「最低」とまでは言わないけれど、「平均以上ではない」でしょう。
それでもボクはやってない』とかを観てしまったあとでは、あまりに芝居ががっているように(芝居だけど)見えますしね。

でも、僕はやっぱりこの映画を観ていて、すごく楽しかったし、嬉しかったんですよ。
久々に雨宮舞子に会えたしね。
僕は松たか子の大ファンで、木村拓哉は「どうでもいい、あるいはちょっと嫌い」なのですけど、このドラマを観ていると、「普段は福神漬けを食べたいなんて思わないけど、やっぱりカレーに合うのは福神漬けなんだよなあ」と感じます。
もちろん、松さんがカレーで、キムタクが福神漬け。
結局、松たか子のキャリアにおいて、「大成功」を収めたドラマの相手役って、ほとんど(全部、かも)キムタクなんですよね。
これはもう「相性」だとしか言い様がないのかもしれません。

今回の『HERO』を観て最初に感じたのは、「雨宮(=松たか子)、年とったな……」ということだったのですけど、この映画に関していえば、僕にはこの「6年間のブランク、30歳になってしまった松たか子」というのが、とても効果的というか、しみじみと魅力的だな、と感じられました。ドラマの『HERO』のときは、久利生という強烈な個性に、ただ圧倒されて惹かれていくだけのように見えた雨宮は、この6年間、いったいどういう気持ちで久利生を待って(って、本当に6年間も黙って待っていたとして、今回いきなりああいう態度だとしたら、久利生は相当酷い男だとは思いますが)、自分の心と向き合ってきたのだろう、って想像すると、僕は雨宮の「純情」に心を打たれずにはいられません。それでも、久利生の前では強がってしまって、「仕事を全力でサポートする」という形でした愛情表現ができない、不器用な雨宮!ああ、せつない……

雨宮が「大人」になっただけ、今回の『HERO』は、不器用な大人の恋愛ドラマとして成熟したのではないかな、と僕には感じられましたし、だからこそ、すごく満足できたんですよね。僕にとっての今回の『HERO』は、雨宮舞子が主役の恋愛映画だったのです。
僕は主人公カップルが終始ベタベタ、ネットリしているような、いわゆる「カップル向けの恋愛映画」ってすごく厭なんですけど、これなら許せる、というかすごく共感できるんだよなあ。

そうそう、松本幸四郎さんは相変わらず「オーラが出ている」わけですが、その一方で、松たか子さんとの共演となると、観客としてはどうしても「父親と娘」というイメージが頭に浮かんできて困りました。

松本幸四郎が演じる蒲生弁護士を事件現場で見かけて)
久利生「今の人、知ってる?」
雨宮「いえ、ぜんぜんっ」

こういうシーンが出てくるたびに、「父親の顔を忘れたんかいっ!」と、一瞬考えてしまうんですよねやっぱり。
本人達は全然気にしていないのかもしれないけど、キャスティングとしては、ちょっと観客の感情移入度を下げてしまうのではないかな、とそして、この映画、そういう「豪華キャストなんだけど、ちょっと狙いすぎなのでは……」と言いたくなるような「微妙な」キャスティングが一部でされているのも事実。そのへんは、「お祭り」として割り切って観るべきなのでしょうが。

まあ、いろいろ書いたのですが、僕はこの映画にすごく満足できましたし、これほど「元気が出る映画」というのもそんなに無いんじゃないかな、と思います。「感動できる映画」「映画らしい映画」じゃないかもしれないけど、ドラマ『HERO』が好きだった人は、絶対に楽しめますよ。

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