琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

「有名人になる」ということ ☆☆☆


内容紹介
「この本は、わたしのこの数年間の「有名人になる」という不思議な体験について、当事者の視点からまとめたものです。
どうやったら有名人になれるのか、そのとき得られるものは何か、失うものは何か。
わたしの記憶が新しいうちに、正直に、赤裸々に、事実をまとめました。なってみたい方、知りたい方の参考になることを目指しました。」


なぜ、勝間和代は、有名人となることを目指さなければならなかったのか?
そして、「有名人になる」と、どういうメリットがあるのか? どういうデメリットがあるのか?そして、実際、有名人になる方法論はあるのか?
有名人はいかにつくられ、いかに利用されているのか? そして、「終わコン」「有名人」としてのブームはどのように終わるのか?
なかなか当事者からは語られないリアルな体験を、勝間和代がロジカルに分析。それが、企業のマーケティング戦略と何ら変わらないこと、
そして、組織に頼れないフリーエージェントの時代、誰にとっても開かれたひとつの選択肢でもあることがわかります。

 勝間さんがこのタイトルで本を出すと耳にして、「ダメだ、この強力な釣りタイトルに負けて読んではダメだ……」と自分に言い聞かせていたのですが、ガマンできずに買ってしまいました。
 しかも、オビには西原理恵子さんの「勝間がまた嫌われそうな本出してる。」とのコピー。西原さんは優しいですね。このコピーによって、読者は「先に言われちまったか」とややクールダウンしてから読み始めることになると思うので。


 で、どうツッコミを入れようかと思いながら読み始めたのですが、率直に言うと、「ああ、有名人って、けっこう大変なんだなあ」と、比較的素直に読むことができました。

 では、なぜわたしは有名人になろうとしたのでしょうか。
 じつは、人生のミッションに向けて独立してはじめた金融のビジネスに敗れた、というのがそもそものきっかけでした。事務所の運営と社員の雇用、家族の扶養、そして、当初目指していたそのミッションを実現するために、なんらかのビジネスにチャレンジしなければならなかった。そして、そのとき選んだのが、「有名人になる」というビジネスだったのです。

 勝間さんが「『有名になること』そのものをビジネスとして考えた」というのは素晴らしい戦略だと思いますし、「有名になるための方法」も具体的な指南ではありませんが、概念としては納得できるものです。
 「人前に出るのも、大人数も苦手だった」という勝間さん。
 でも、だからこそ、「どうやったら、有名になれるか考え抜いた」のだろうなあ、と思います。


 あと、これを読んでいると、「有名人をつくるシステム」というのが、世の中には存在しているということがよくわかります。
情熱大陸』なんて、その冠たるものですよね。
 勝間さんは、『情熱大陸』に出演するために、できるかぎりの自分のプレゼンテーションを行ったそうです。
 ああいう番組は「旬の人」が取り扱われているイメージがありますが、「メディアの側が視聴者に売り出したい人」を登場させることも少なくないのです。

 とはいえ、「え、そんな! 有名人って、なろうと思ってなれるものなの?」という疑問が読者の方に浮かぶと思います。このことについては、あとでくわしく説明しますが、さまざまなチャレンジはすべて「確率論」です。すなわち、確率が低い勝負であっても、それを繰り返し行っていけば、いつかは負け続ける確率が下がっていって、どこかで必ず勝てるのです。
 たとえば、確率5%の勝負を50回行って、全部の勝負に負ける確率はたったの7.7%です。100回行うと、全部の勝負に負けるのはわずか0.6%。すなわち、ほんのわずかでも可能性があることがあれば、負ける確率が高いのは百も承知でそれでも勝負を続けていくと、いつかは回数の勝負で勝てるのです。
 ただ、多くの人はそのような努力を50回、あるいは100回は続けません。しかし、もしチャレンジしてもとくに失うものがなければ、勝負をし続けることです。そうすれば、必ず勝てます。
 わたしは多くの有名タレント、有名経営者にインタビューする機会を得ましたが、ほんとうに、すべての人の共通するのが、この「じゃんけん、じゃんけん、またじゃんけん」の精神です。

 バラエティなどのお仕事で、お笑い系の方といっしょになることがあります。ロケ中の待ち時間、ロケバスの中などでいろいろな方に、「なぜブレークする芸人さんと、そうでない人がいるのか」という質問をすることにしています。
 すると、答えはいつも同じです。


「どのくらい、芸人になりたいと思っているか」

 
 「結果に左右されず、確率が高い方法をやり続けること」というのは、本当にその通りなのでしょう。
 最後に勝負を決めるのは、ある種の「切実さ」であることも。
 有名になったあとは、それまでの「貯金」を使い果たしてしまい、新しく学んだことで本を書かなければならなかったので、どうしても内容が薄くなってしまった、というような、自省もされていますし。


 そもそも、有名人って、けっしてラクじゃない。

 「有名人になる」ことの大きなデメリットは、いつでも、どこでも、誰かが見ている可能性があるということです。
 とくにいまはツイッターフェイスブックで目撃情報が書き込まれる時代です。
 驚いたことに、とある女性タレントさんと二人でコンサートに行って、その帰りにレストランで食事をしていたら、なんと、5つくらい離れた席に座っていた男性がずっとツイッターフェイスブックで、わたしたちの会話や食事風景の実況中継をしていたのです。

 ツイートされていたのは、食事や会話の内容など、「他愛もないことばかり」だったそうですが、これはたしかに、気が休まらないだろうなあ、と思います。
 後日、「誰々が食事をしているところに居合わせた」なんていうネタにされるくらいだった時代は、まだ平和だったということなのでしょう。
 プライベートでの気楽な噂話でも、誰かがそれをツイートしてしまえば「公の発言」になりかねませんし。


 でもまあ、この本を読んでいると、勝間さんの弱点というか、「なぜ、勝間和代はアンチをこんなに生んでしまうのか」もよくわかるんですよね。


 「長続きするために」の項で、勝間さんは、村上春樹さんのことを、こう書いておられます。

方法1 コンテンツを出し惜しみする
 村上春樹さんなどが典型ですが、相手がお腹がいっぱいにならないよう、少し飢餓状態になるくらいなゆっくりとしたペースでコンテンツを出していきます。そうすることで、ブームを長引かせることができます。
 ただし、この方法がとれるのは、「いつまでも、ちょっとしたファンでも忘れずに待っていてくれる」たいへん質の高いコンテンツをつくりあげる自信と能力のある人だけです。

 いやいやいやいや、村上春樹さんの仕事ぶりもよく知らないのに、「出し惜しみ」認定とは……それこそ、ネットの慣用句「ヤンが卿なら、そう思う」というやつで、村上さんの作品をずっと追いかけている僕に言わせると、村上さんはああいうペースでしか書けない人、なんですよ。
 出し惜しみしているから寡作なのではなくて(というか、エッセイなども含めると、最近はけっこう書かれてますよね)、自分で納得できるものを書こうとすると、あのペースになってしまう、というだけのことです。
 もちろん、それでは食えないとなると、粗製濫造せざるをえないのでしょうけど。


 そして、この新書を読んでいて、僕がいちばん驚いたのは、「はじめに」に書かれていたこの言葉でした。

 2008年5月、大手顧客の日本撤退で、とうとう会社の定期収入の大半が途絶えるという事態になりました。しかし、下手にそこまで一年ほど軌道に乗っていたため、給料を払っている社員はいるし、情報端末やその他機器の残リース代はあるし、事務所の家賃も払わなければならない。それは、とてもではないけれども、わたしの当時の細々とした執筆・講演料でまかなえるような金額ではありませんでした。


「社会的責任投資ファンドをするはずだったのにできなかった投資顧問会社
「たまたま襲ってきたリーマンショックによる顧客の急激な離散と社員への責任」
「あまり深く考えずに行って来た個人的な執筆・講演活動」


 人生のアヤとはおもしろいもので、この三つの現象が訪れたときに、突然、まさに天啓のようにひらめいたのが次のような考え方でした。

 ちょっと待ってください勝間さん。
 あなたが町工場の経営者であれば、「たまたま襲ってきたリーマンショック」というのは「ああ、たしかに不運でしたね」でしょう。
 でも、勝間さんは「経済評論家」ですよね。
 『お金は銀行に預けるな』って本、書いてますよね。
 あなたを信じて投資した人は、けっこう酷い目にあったのではないでしょうか(念のために書いておきますが、僕は勝間さんの「被害者」ではないです)。
 そういう著書を売ったことの責任は、「あれは『たまたま』だから」「私は運が悪かった」で済む問題なのでしょうか?
 自分が原発のコマーシャルに出演していたにもかかわらず、福島原発の事故後、東電に公開質問状を叩きつけ、「こんなことができたのは私だけ」って自慢げに言っていたのは誰でしたっけ?
 もちろん、電力業界の圧力の前に沈黙してしまった人もいたでしょう。
 しかしながら、いままで自分が電力業界と繋がっていたことを思い返して、声をあげることができなかった人も多かったはずです。


 勝間さんは「有名人だからアンチが多くなりやすい」のは確かです。
 でも、僕が勝間さんを苦手としている理由は「自分のモノサシでしか、他人を判断することができないところ」「自分の誤りを反省するそぶりもなく、自分のことは棚上げにして、平然と他人を責めるところ」なのです。


 ただし、勝間さんは、悪いことばっかりやっているわけではないですよ、著者印税の20%を寄付していたり、シングルマザーに希望を与えているのも、事実だと思います。


 この本、「有名人」のメリット、デメリットが書かれていて、「勝間和代からみた、率直な世界観」が印象に残ります。
 でも、結局のところ、この本に書かれているのは、『有名人になる』ということ」ではなくて、「『勝間和代になる』ということ」なんですよね。
 「勝間和代になりたい人」と「勝間和代ウォッチャー」以外は、読む必要のない本だと思います。


 この本って、明らかに「勝間和代ウォッチャー」めがけて書かれているんだよなあ。
 ほんと、ここまで徹底して「自分を売り物にしている」というのは、ある意味すごいことだし、それに乗せられてしまっている自分が情けなくもなりました。
 

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