- 作者: 滝口悠生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/01/28
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 滝口悠生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/01/27
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受賞作だけでよければ、本谷有希子さんの『異類婚姻譚(いるいこんいんたん)』も収録されている、雑誌『文藝春秋』のこの号で全文読めます。
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内容紹介
第154回芥川賞受賞作!
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。
子ども、孫、ひ孫まで。
一人ひとりが死に思いをめぐらせ、あるいは不在の人を思い、
ゆるやかに互いを思う連帯の中で、それぞれの記憶と時間が広がってゆく。
20人あまりの生の断片から永遠の時間が立ち上がる一晩の記録。
なんとなく、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』みたいな話だなあ、と思いながら読みました
いや、いくらなんでもあの歴史的名作と比べるのはどうか、と思うし、書かれているのは現実に起こりうることばかりなのだけれども、一晩のうちに時代を行きつ戻りつしながら語られる、一族の構成員たちの歴史には、なんとなく「そんな感じ」があったのです。
ただ、その志は伝わってくるのだけれど、正直、僕にとってはあまり「面白い」とはいえない作品だったのは事実です。
3分の1くらいの時点で、「まだこれ、続くの……?」って思いながら読んでいました。
いろんな人が出てきて、それぞれの立場からのこの葬儀の席に至るまでの道のりを語ったり、みんなで誘い合わせてスーパー銭湯みたいなところに行ったりするのですが、個々のエピソードにあまり印象に残るものがなかったんですよね。
「美之」という、引きこもりなんだかそうじゃないんだかよくわからない人が、学校にするりと行かなくなってしまうところなどは、なんだか面白くなりそうな予感がしたのですが、あんまり深まることもないまま流れていってしまったし。
ただ、読んでいると、自分がこれまで参加してきたお通夜や告別式のときのことが、あれこれ頭に浮かんでくるものたしかです。
人って、そういう席でも、ずっと悲しんだり懐かしんだり、退屈がったりしているわけではなくて、とりとめもないことをダラダラと考えていたりするものなんですよね。
ああ、でもああいう行事って、実は「人って、ずっと悲しんでいるのも案外難しいものだ」というのを再確認するためにあるのかもしれないな。
子どもたちが別の世界をつくっているところなども、「そうそう、お通夜の席って、こんな感じだよなあ」って。
ただ、子どもたちがここまで羽目を外すことは無いとは思うのだけれど、僕の経験上は。
いまは、未成年の飲酒に対しても、すごく厳しい時代ですし。
走ったら危ないよ、とダニエルがベンチに座ったまま言った。
お父さんどうしたの、と秀斗はダニエルの膝に寄りかかった。大丈夫?
大丈夫大丈夫。
湯船からはこちらに向けられた秀斗の小さな尻が見え、さらに小さなおちんちんが、尻の間にあらわれては隠れた。たとえ体が宙に浮いても、だらりと垂れ下がったりしないだろう。ぷりっと張った魚の心臓みたいなやつだ。
ああ、こういう描写って、本当にうまいよなあ、と。
本当に、よくここまで「ねっとりと」細部まで描ききれたな、と感心するばかりです。
これは、内容がどうこう言うよりは、小説としての「構造」とか「骨組み」の見事さを評価すべきなのかもしれないし、選考委員好みの作品ではないかと思います。
僕は、「すごい、すごいのはよくわかったから、そろそろ終わりにしてくれないかな……」と最後のほうはページをめくっていました。
『abさんご』や『道化師の蝶』レベルの「難解さ」じゃないんですよ。
内容としては、すごくわかりやすい。
大人であれば、お通夜の夜を経験したことがない人のほうが少ないでしょうし。
どちらかというと、美味しいのだけれど、同じ味ばかりで「食べ飽きる」感じでした。
こういう作品を1年に何作かくらいは読んでおいたほうが、「読書筋」みたいなのは鍛えられるとは思うのだけれども。