琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ルポ 貧困大陸アメリカ ☆☆☆☆☆

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

教育、医療、防災、そして戦争まで……
 極端な「民営化」の果てにあるものは?

 高い乳児死亡率。一日一食食べるのがやっとの育ち盛りの子どもたち。無保険状態で病気や怪我の恐怖に脅える労働者たち、選択肢を奪われ戦場へと駆り立てられていく若者たち―尋常ならざるペースで進む社会の二極化の足元でいったい何が起きているのか? 人々の苦難の上で暴利をむさぼるグローバル・ビジネスの実相とはいかなるものか。追いやられる側の人々の肉声を通して、その現状に迫る。

この本の詳しい紹介はこちら(岩波新書編集部)

最近「アメリカ」がらみの本ばかり読んでいるような気がするのですが、この本はそのなかで最も印象に残りました。
「自由の国」「アメリカン・ドリームの国」の救いようのない「現在」が、200ページあまりの新書のなかにギッシリ詰まっています。
読みすすめていくと、とにかくひたすら暗澹とした気分になるのは、これが「海の向こうの遠い愚かな国の話」ではなくて、まさに「日本が同じ道を辿ろうとしている国、目標としている国の姿」だからなのでしょう。
アメリカでは、医療保険の大部分を「民営化」し、「市場競争」に投げ込みました。その結果起こってきたことは、

アメリカの乳幼児死亡率は乳幼児1000人あたり6.3人(世界43位、ちなみに日本は3.9人で世界4位。1位は2.3人のシンガポール)【CIAが発表しているランキング】

「医療費負担」は、「クレジットカード負債」に次いで、自己破産の直接原因の第二位(ハーバード大学のワレン教授による)

という現状です。
アメリカは、「世界有数の先進医療技術を有する国」のはずなのに……

 アメリカ医療制度の最大の問題点は、これまでも見てきたように増加する無保険者の存在だ。医療保険未加入者の数は2007年の時点で4700万人、この数は毎年増え続け、2010年までには5200万人を超えると予想されている。
 無保険者が増え続ける最も大きな理由は、市場原理導入の結果、医療保険が低リスク者用低額保険と病人用高額保険に二分されてしまったことだ。
 ウォールストリートの投資分析家たちは、医療損失が85%を超えると配当が期待できないとし、投資対象としての保険会社に対して医療損失が80%以下であることを期待する。投資家たちから見離され株価が低下することを最も恐れる保険会社は、医療損失を減らすためになるべく病人を保険に加入させないようにする。
 保険会社が企業と契約し、就労可能な「健常社員」の方を優先して加入させた結果、国民は健康な間は会社を通じて安い医療保険に加入できるが、一度病気になり会社で働けなくなった途端、高額な自己加入保険か無保険者になるしか選択肢がなくなってしまう。
 メディケイド(低所得者用の公的医療扶助)に加入するという最後の選択肢を使うには、貯金をすべて使い果たし「貧困ライン以下」のカテゴリーに入らなければならない。
 ニュージャージー州ウエスト・ニューヨークに住むカルロス・モラレスは電気技師として民間の会社に勤務中、事故で背骨を傷めた。会社を通じて加入していた保険で治療費の大半は支払われたが、その後職場復帰を拒否され無保険者となった。
 「会社に戻ることを拒否された時、残された選択肢は2つだけでした。この国に大勢いる無保険者の1人となるか、支払い能力を超えた医療費を払いながら貯金を使い果たしてメディケイド受給者になるかです。自分には家族がいるので結局メディケイドの方を選びましたが、働いて収入を得ると受給資格を取り上げられてしまうため、今は元気なのに働かずブラブラ暮らすしかなくなってしまいました。
 アメリカ合衆国全体で医療サービスへ支払われる金額は年間1兆7000億ドルで、アメリカ国内総生産の15%以上を占めている。医薬品の購入金額も世界一で、1人当たり年間728ドルを医薬品購入に費やしている。だが2000年にWHOが出した世界医療ランキングではアメリカの医療サービスレベルは37位と非常に低い(日本は10位)。

要するに、「一度病気になってしまうと、民間保険には入れず、職場からも復帰を拒否されて収入もなくなり、ひたすら『転落』していくしかない」というのが、いまのアメリカの現状なのです。民間の医療保険は、「健康な人から保険料を集めるためにあるもの」で、保険会社は「患者に医療を受けさせないほど評価される」という恐ろしいシステム。
この話については、マイケル・ムーアの『シッコ』という映画を観ていただくのがいちばん手っ取り早いので、興味がある方はぜひ。
マイケル・ムーアの作品なので、とても「面白く」観られますよ。「これを日本が参考にしようとしているのか……」と思うと、全然笑えなくなりますけど。

そして、いまのアメリカでは、医療だけではなく、「戦争」すら、もう「経済活動の一環」でしかないのです。
というか、「戦争」こそが「アメリカの貧困ビジネスの象徴」。
新兵不足を補うため、貧しい地域の学校に入り込んで「入隊すれば学費が援助してもらえるぞ!」とアピールする軍のリクルーター(でも、実際に援助される金額は彼らが宣伝しているよりはるかに少額で、実際にそのシステムで大学を卒業できる人は利用者の20%くらい)、多重債務者に「海外での高報酬のトラック運転手の仕事」をもちかける人材派遣会社のブローカー(ただし、彼らの派遣先はイラク!!)。
「このままのたれ死ぬか戦争に行くか」という「究極の選択」で、彼らは否応なく戦場に駆り出されていくのです。

 国内では経済的状況を含む個人情報が本人の知らないところで派遣会社に渡り、その結果、生活費のために戦地での勤務につき死亡する国民の数も急増する一方だ。彼らの動機は愛国心国際貢献といったものとは無縁であるとみなされるため、戦死して英雄と呼ばれる兵士たちと違い、むしろ「自己責任」という言葉で表現される。
 グローバリゼーションによって形態自体が様変わりした戦争について、パメラは言う。
「もはや徴兵制など必要ないのです」
「政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから。ある者は兵士として、またある者は戦争請負会社の派遣社員として、巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを支えてくれるのです。大企業は潤い、政府の中枢にいる人間たちをその資金力でバックアップする。これは国境を超えた巨大なゲームなのです」

「州兵」に入隊したところ、いきなりイラクに派遣された日本人の若者とのこんなやりとりも紹介されています。

「自分がイラクにいる意味を考えたりはしましたか」
「何のためにです? マンハッタンで寿司屋や運送業のアルバイトをしていた時と、何ら違いはありませんよ。機械的に体を動かして金を稼ぐ時に感情は邪魔です。それが日雇いの肉体労働であっても、戦争であっても」
 思わず加藤さん(仮名)の顔を見つめると、彼は静かにこう言った。
「それまで政治になんか興味なかった連中が、イラクに行った途端にいのちの価値を考え始め、間違っていると叫び反戦に立ち上がる。平和な国のマスコミはそんなストーリーを期待するでしょう。でも現実はそうじゃない。貧乏人の黒人が前線に行かされるというのも正しいとは言えません。今は、黒人も白人も男も女も年寄りも若者も、みな同じです。目の前の生活に追いつめられた末に選ばされる選択肢の一つに、戦争があるというだけです」

「希望は戦争」という「31歳フリーター」の論文が日本では話題になり、僕はそれを読んで「日本はここまで行き詰っているのか……為政者たちが、もうちょっと若者も希望を持てる社会にしないと、日本の未来はどうしようもないんじゃないか……」と不安になったのですけど、なんのことはない、アメリカを支配している人たち(あるいは、日本もそうなのかも)は、「希望は戦争という若者」をニヤニヤしながら見つめているのです。
「希望は戦争、そう、そりゃよかった。じゃあ、お望みの戦場でしっかり使い捨てられてくれよ」
僕は、イラク戦争を「アメリカの正義」という余計なお世話のイデオロギーに基づくものだと思い込んでいましたが、現代のアメリカにとっての「戦争」は、もう「正義の押しつけ」ですらない。
単なる「経済行為」であり、「究極の貧困ビジネス」。
そのあまりに周到かつ傲慢なカラクリに、ただただ打ちのめされるばかりです。

この本を読んでいると、「とりあえず貧しいアメリカ人じゃなくてよかった……」
というようなことをつい考えたくなるのです。ところが、日本の「現実」はそんなに甘いものじゃない。

 2006年7月に公表された対日経済審査報告書(OECD)のデータによると、「OECDにおける相対性貧困率ランキング」において、日本はアメリカに次いで第二位になっている。相対性貧困率とは、すなわちその国の格差レベルを指す。国内に中間層が厚く存在していれば、この数字の上昇にはブレーキがかかる。だが、アメリカの後を追った結果、日本の中間層は貧困層に転がり落ち、格差は急激に拡大しつつあり、さらにこの先「教育格差」が進めば、国内は一部のエリートとスペシャリスト、低賃金労働者という三層に分かれ、この所得格差は強固に固定化されていくだろう。

アメリカ自身が、「次のアメリカになるのは日本」だと予測しているのです。
一億総中流時代」は、もう過去の幻想。

「今のアメリカ」を知ることは、「このまま進んでいった場合の日本」を知ることでもあると僕は思います。
すべての「大人」とくに、「これからの日本の針路を決める若者たち」にぜひ手にとってもらいたい本。
「硬派」ではありますが、文章は読みやすいし、具体的なエピソードもたくさん紹介されていて、けっして「難解でとっつきにくい本」ではありません。

「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と仰った某国首相も、マンガばっかりじゃなくて、今すぐこの本を読め!


シッコ [DVD]

シッコ [DVD]

↑このDVDもあわせて観ていただくと、いっそう「現状」が理解しやすいと思います。
参考リンク:『シッコ』感想(いやしのつえ)

アマゾンって……ジャングルの?


※これは実話です。


 最近驚愕したこと。
 職場の飲み会で、専門職(っていうか看護師さんです)の20代の女性たちと話していたのだが、われわれ30代男性が3人で「Amazonの便利さ」について力説していると、彼女たちは、なんだか怪訝そうな顔をして黙って聴いていた。
 まさか、と思いつつ、
Amazonって、知ってるよね?」と尋ねると、
「アマゾンって……あの、ジャングルの……ですか?」

ええーーーっ!
僕たちはかなり悶絶してしまったのだけれども、その場にいた20代女子4名は、誰ひとりとして『Amazon』が何であるのか知らなかったのだ。
中学校や高校の頃からネット使ってきているはずなのに……

僕みたいに日頃ネットばっかりやっている人間にとっての「常識」っていうのは、けっこう偏っているのかもしれないなあ、と思った話なので、記録しておきます。
倖田來未の羊水の話も、大野病院の事件も、僕の周囲では、そんなに話題になっていなかったしねえ。

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