琥珀色の戯言

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【読書感想】こだわりバカ ☆☆☆☆

こだわりバカ (角川新書)

こだわりバカ (角川新書)


Kindle版もあります。

こだわりバカ (角川新書)

こだわりバカ (角川新書)

内容紹介
飲食店の〈こだわり〉、大学の〈未来を拓く〉、企業の〈イノベーション〉…いま日本中に似たり寄ったりで響かない「空気コピー」が蔓延している! コピーライターが教える、本当に「選ばれる」言葉の創り方。


 「こだわりバカ」って、物事に執着しすぎる人のことを批判しているのだろうか?と思いながら読み始めたのです。
 ところが、実際の内容は「ごだわっている人批判」ではありません。
 コピーライターである著者が言いたいのは、「こだわっている人批判」ではなくて、「こだわり」という言葉を安易に使うような人は、それで自分が損をしている、みんなの中に埋没していしまっていることに気づいていない、ということなのです。


 なんで「こだわり」って言葉を使っちゃダメなの? みんな使っているのに。
 そう、「みんな使っている」ことこそが、この言葉がいま、「使うべきではない」大きな理由なんですよね。


 著者は、最初にこんな話をされています。

 道を挟んで2軒のそば屋があるのを発見。似たような店名で外観も同じような感じ、値段も変わらなそう。どちらの店が繁盛しているかもわからない。仮に店をAとBにしましょう。
 それぞれ店舗の看板に以下のキャッチコピーが書かれていたとします。


A. 厳選したそば粉を使用。こだわりの一枚をぜひ!
B. 一年中「新そば」気分を味わいたいあなたへ。
季節で一番おいしい「玄そば」を取り寄せ、
毎日必要な分だけ皮をむき挽いています。


 さて、あなたはどちらの店を選んだでしょう?
 多くの方がBを選ばれたのではないでしょうか?
 しかし実際には、Aのようなキャッチコピーを掲げている場合が多いのです。
 それはなぜでしょう?


 著者は、「こだわり」という思想を否定しているわけではありません。
 「こだわり」という言葉についても、「もともとネガティブな意味が強かった言葉を最初に使いはじめた時点では、けっこうインパクトがあったのではないか」と述べています。
 ところが、現在のように、みんなが「こだわり」という言葉を使うようになってしまうと、「ありきたりで、具体的な情報は何も書かれていない、手抜きキャッチコピー」になってしまうのです。
 同じ言葉でも、使われる時代や周囲の状況によって、効果があったり、逆効果になったりするんですね。

 毎日放送の「水野真紀の魔法のレストランR」という番組のプロデューサーである本郷義浩さんはその著書『うまい店の選び方魔法のルール39』(KADOKAWA)の中で、以下のように述べています。


「こだわりの料理」
「旬の食材」
「伝統の技」


 この3大禁句を、メニューやホームページ、チラシ、パンフレット、広報資料などに使っている店は、いくら口コミでよい評判を聞いても、店選びの選択肢に入れないことにしました。
 料理人は誰でも、食材の仕入れ、下ごしらえ、調理、味つけ、盛りつけなど、料理をおいしくするために試行錯誤し、手間隙をかけ、工夫をこらしています。「つまり料理にこだわる」のは、当たり前だと思うのです。料理をする人にとって、一番言わなくてもいい言葉、言うまでもない言葉が、「こだわりの料理です」「食材にこだわっています」なのです。


 本当に「こだわっている」のであれば、そんなありきたりの言葉を安易に使わないはずではないか、ということなんですね。


 この本のなかでは、日本の大学のスローガンが「世界にはばたく」「未来をひらく」「グローバル」など、あまりにも定型句ばかりであることも指摘されてます。
 ほんと、こんなのばっかりだよなあ、と笑ってしまいました。
 自治体のキャッチコピーも駄洒落やポエムに占拠されています。
 こういうコピーは、あまりにもふざけすぎていると、問題になってしまう可能性があり、「やりすぎるよりは無難に」というのも、わからなくはないんですけどね。
 でも、それならば、なぜそんなコピーなど作る必要があるのか、とも言えるわけで。
 近畿大学の「みんなが偏差値で『このくらいのレベル』だとイメージしてきた大学の序列に挑戦する」ようなブランド戦略は、大きな話題を呼び、近大の受験者は大幅に増えてきています。
(ただし、それには言葉の力だけではなく、女子トイレをキレイにしてパウダールームをつくるなどのハード面での工夫も効いているのです)


 でも、「こだわり」が使えなかったら、どうすればいいんだよ?
 そう思いますよね。
 これを読みながら、「なーんだ、こだわりこだわり言っている連中は、なーんにも、こだわっていないじゃないか」と嘲笑することは簡単なのだけれど、「じゃあ、あなたが『こだわり』という言葉を使わないでコピーを作ってよ」と頼まれたら、どうすればいいのか?


 そのあたりのヒントも、この新書には書かれているのです。
 著者は、「言葉を強くするための3カ条」として、
(1)常套句を避け、できるだけ具体的に書く
(2)言葉の化学反応を考える
(3)圧縮して言い切る
 という3つのテクニックを解説しています。


(1)については、こんな感じです。

 常套句は本書で何度も出てきていますが、手垢のついた決まり文句のことです。常套句を使うと言葉はてきめんに弱くなります。
 例えば、以下のようなお店の紹介文があったとしましょう。

 当店ではくつろぎの空間でこだわりの鍋料理をおもてなしの心で提供しています。


 これでは、鍋料理を提供する店なら、どこでも流用できる典型的な空気コピーであることは、本書を読み進めていただいているあなたであれば、すぐに理解できるでしょう。これを少しでも強いフレーズにするには、より具体的に書くことです。
 例えば、以下のように。

 お座敷に掘ごたつで完全個室。
 名物「鰯のつみれ」が自慢のちゃんこ鍋で心の芯まで温まれ。


 大学のスローガンでも考え方は同じです。「世界」「未来」「はばたく」「拓く」などの言葉をより具体的に変更するだけでも、強い言葉になる可能性が高くなります。


 なんとなく「こだわりの」と書いてしまうことで、自分の「こだわりのなさ」を露呈してしまう。
 そういうのって、文章を書いているときにも、よくありますよね。
 コピーライターのような職業文筆家でなく、僕のようにブログを書いているだけの人間にとっても、とても参考になる新書でした。
 まずは、何気なく、みんなと同じ言葉を使ってしまっていることに「気づく」ことから始めないと、次には進めないのだよなあ。


「コト消費」の嘘 (角川新書)

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