琥珀色の戯言

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【読書感想】クリストフ・ルメール 挑戦 リーディングジョッキーの知られざる素顔 ☆☆☆☆

内容紹介
JRAリーディングジョッキークリストフ・ルメールの素顔に迫る!


外国人騎手として初となる、JRAリーディングジョッキーを獲得したクリストフ・ルメール
母国フランスはもちろん、日本、イギリス、アメリカなど、
世界を舞台にG1勝利を重ねる名手が、信頼する著者に明かした「競馬」へのあくなき想い。
出生から現在まで、ナンバーワンジョッキーの知られざる一面、素顔に迫る!


本編では、ディヴァインプロポーションズ、プライド、ナタゴラスタセリタといった海外の愛馬たち、さらには、ハーツクライウオッカサトノダイヤモンドレイデオロ、アーモンドアイなど、日本の愛馬たちとのエピソード、レース回顧もたっぷり収録。
これを読めば、クリストフ・ルメールのすべてが分かる!


 ルメール、ああルメール
 人気の本命馬に乗ると、2016年の桜花賞メジャーエンブレムや2017年の桜花賞ソウルスターリング、2018年NHKマイルCのタワーオブロンドンのようにまさかの敗戦を喫し、これはルメールでも無理だろう、と思った連闘のモズアスコットで安田記念を制し、昨年の有馬記念ではずっと馬券に絡んでいなかったクイーンズリングで2着。
 個人的には、買うと来ないし、買わないと来る、ひたすら相性が悪い騎手なんですよね。
 あらためて考えてみると、騎手で人気になりやすいので、人気のときは過剰に信頼しすぎないほうがいいし、人気薄のときも騎手の腕で持ってくることがあるので積極的におさえておく、というのが良さそうではあるのですが。
 2017年の日本ダービーレイデオロに乗っていたルメール騎手が、スローペースのなか、大胆にも道中の早い段階でポジションを上げていき、そのままゴールまでもたせて勝ったときは、「外国人騎手って、思い切ったことをやるなあ(横山典弘騎手もときどきこういう騎乗をやることがありますが)」と驚いたものです。条件戦とかならともなく、ダービーで、だものなあ。
 ルメール騎手は、あれは無謀な賭けではなかった、と語っているのです。
 

 スタートして僅か800メートル。レイデオロは一気に脚を使い、後方からアッと言う間に2番手まで進出した。ダービーはご存じのとおり2400メートルのレースである。まして東京競馬場は最後の直線が長いコース。それだけ早く動いていくことに抵抗はなかったのか……。
「ジッとしているほうが抵抗を感じる。それくらい遅い流れでした」
 それにしてもこの大舞台でマクり気味の進出。これでもし末脚をなくせば批判されかねない騎乗ぶりである。相当の度胸を感じさせるが、それについてはニヤリと笑った後、口を開いた。
「僕は彼のデビュー戦からコンビを組んできました。ダービーの前も2週にわたって美浦トレセンまで出向いて乗っていました。だから彼がどんな馬で、どういう調子かもよく分かっていました。動かして行っても掛かったりすることはない。充分にコントロールできると信じて、ゴーサインを出しました」
 自信を持って進出し、自信を持って抑えた。そして、実際にスムーズに動いて好位に取りついたのだ。
「2番手まで来たところで抑えると、リラックスしてそこで折り合ってくれました」
 最内を逃げる横山典弘騎乗のマイスタイルを射程圏に入れ、直線へ向く。
「終始、手応えは良かったです」
 だから早仕掛けにならないよう、待ちに待った。そしてラスト1ハロン。機は熟したとばかり追い出すと、パートナーは先頭に躍り出た。
「押し切れると思える位置まで来てから追い出しました。先頭に立った後、シイさん(四位洋文)のスワーヴリチャードが来たのは分かったけど、そこで追ったらレイデオロはまた反応してくれました。
 その時点で勝利を確信したと言う。最後は2着スワーヴリチャードに4分の3馬身差をつけて、ついに日本ダービーを制覇。それもクリストフ自身、3週連続となるG1勝利で決めてみせた。


 この本を読んでいて感じるのは、ルメール騎手というのは、自分が乗る馬の癖や特徴、いまの状態を的確に掴んでレースに臨んでいる、ということなのです。
 傍からみれば、「なんでこんな乗り方するんだよ!」というようなときでも、それなりの理由があるのです。どの騎手だって、負けようと思って乗っているわけではないし、乗るのは馬なので、思い通りにいかないことはあるとしても。

 ちなみに、レイデオロドバイシーマクラシックでの4着については、こんな話をされています。

 予想通りのスローペースとなったが、ハナに行ったのはコメントに反してホークビル。パドックから少々気合いの入る面を見せていたレイデオロは中団より少し後ろで折り合いに苦労していた。
「全然ペースの上がるところがなくて、掛かってしまいました」
 そう語るクリストフに、日本ダービーを勝ったときのようにマクっていく手はなかったのか? と問うと、彼は小首を傾げた後、口を開いた。
「ダービーのときは馬がすごく落ち着いていたので、ああいう騎乗ができました。でもシーマクラシックのときは気負っていたから、マクっていけばおそらくアウトオブコントロール。一気に突っ走ってしまい、最後はいっぱいになってしまうと判断しました」
 だから動くに動けずにいた。しかし、いつまで経っても流れが速くなることはなく、ゴールまでの距離がどんどんなくなっていった。そして、最後に余力充分のホークビルが抜け出すと、追走勢は誰も彼に追いつくことはできなかった。それはレイデオロも同じで、結果、4着に敗れてしまった。
「最後は伸びて”さすが”というところは見せてくれました。でもペースが遅かったぶん、速い上がりになったので追いつくことはできませんでした。せっかく力のあう馬なのにそれを世界で証明できなかったのはすごく残念でした」


 観ている、馬券を買っている側からすれば、こんなスローペースだから、道中で押し上げていけよ!レイデオロはそれでダービーを勝っているのに!って言いたくなるのですが、騎手からすれば、ああいうマクりができたのは、ペースだけではなくて、馬の精神状態が落ち着いていたから、だったのです。
 とはいえ、ダービーでレースの流れのなかでああいう判断をするというのはすごいことですよね。うまくいかなければ叩かれることは確実ですし。


 日本の調教師は、フランスの調教師に比べると、騎手に細かい指示を出すことが少ないそうです。フランスでは、どの調教師も「先頭には立たずに前で折り合いをつけて、直線抜け出すようなレースをしてくれ」というオーダーを出すことが多いそうで、「全部の馬にそういう指示が出されていたら、そりゃ、みんなが指示通りの競馬をするのは無理だよね。でも、そういう調教師からの強いプレッシャーのなかで経験を積んできたことが騎手としてプラスになっている」とルメールさんは語っています。


 ルメール騎手っていうのは、「平常心」の人なんですよね。
 レース前は「勝てると思う」「馬の状態は良くなっている」と言っていたのに結果は惨敗、とか、後方待機のまま見せ場なし、とか狭いところに突っ込んでいって包まれ、抜け出せず、みたいなのを見せられることも多いし、その一方で、ハーツクライディープインパクトに勝った有馬記念のように「この馬、こんな競馬もできるのか」と驚かされることもある。
 観る側は一喜一憂しているのだけれど、ルメール騎手は、うまくいったときも、結果が出なかったときも、ひとつひとつの結果を引きずることは、あまりないみたいです。


 2017年の桜花賞、馬場が悪化したこともあり、断然人気ながら3着に敗れてしまったソウルスターリングに対して、ルメール騎手はこうコメントしています。

「人気に推してもらったのに勝てなかったことは残念です。でも、G1で3着なら決して恥ずかしい結果ではありません。彼女はやっぱり走る馬です。ポテンシャルが高いことは何ら変わらないので、この後、巻き返してくれることに期待します」


 単勝1.4倍という圧倒的な人気で負けてしまったソウルスターリングに対しても、前向きなコメントなんですよね。言葉どおり、ソウルスターリングオークスを快勝します(その後また低迷しているのですが)。
 言われてみれば、人気は人が決めることであって、G1レース、しかも馬場コンディションが悪いなかでの3着というのは、けっして悲観すべき内容ではありません。騎手というのは、すべてがうまくいって勝てることもあれば、どんなに強い馬に乗っていても、やることなすこと裏目裏目で負けてしまうこともある。他の馬に邪魔されてしまうこともあれば、レース中に馬が怪我をしてしまうこともある。そんななかで、ルメール騎手は、常に置かれた状況でできるだけのことをやるし、結果が出なくても、ポジティブ思考で、気持ちの切り替えが上手いのでしょう。
 観ている側からすれば、「3着じゃダメなんだよ!」って言いたくなるんですけどね、やっぱり。


 同じ年にJRAの騎手となったクリストフ・ルメール騎手とミルコ・デムーロ騎手なのですが、デムーロ騎手は母国イタリアの競馬がほとんど破綻していて、騎手を続けていくには外に出るしかない状況だったそうです。それに比べて、ルメール騎手の母国フランスの競馬は安定していて、賞金的にもヨーロッパの中では恵まれていたのです。にもかかわらず、JRAへの移籍を選んだ理由をルメール騎手はこう語っています。

「日本の競馬はとても魅力的でした。毎週すごく多くのファンの方々が声援を送ってくれます。それはもうフランスではあり得ない人数で、ジョッキーとしてのモチベーションもグッと上がります」
 加えて競馬場や開催の管理も行き届いていた。そこで妻のバーバラに相談した。すると……。
「二つ返事で賛成してくれました。短期免許で何度も来日したとき、バーバラもよく一緒に来ていたので日本の文化や食事、国民性をよく理解していました。そして、ある意味、僕以上に日本が好きだったんです」


 子供たちはさすがにけっこう渋ったみたいなのですが、なんとか説得し、日本で大きな成功をつかんだルメール騎手。やっぱり、プライベートがうまくいっている、というのは、大事なことだよなあ、と痛感させられます。
 ルメール騎手がダービーを制したときには、バーバラ夫人も涙を流していたそうです。


 これだけの成績をあげる騎手というのは凄いんだなあ、「平常心」って大事だなあ、と思いながら読み、ちょうどその日に行われた函館記念、僕はルメール騎手鞍上で断然人気のトリコロールブルーで勝負したのです。
 
 結果は、直線の短い函館で、そんな位置どりから届くわけないだろ、という残念騎乗で全く見せ場のない6着……
 競馬って、本当に難しい。


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