琥珀色の戯言

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遺跡の人 ☆☆☆


遺跡の人 (アクションコミックス)

遺跡の人 (アクションコミックス)

「本当」だから胸を打つ! 元売れっ子漫画家の哀愁バイト生活――。さまざまなことが重なり仕事を失った漫画家は、家にもいづらくなり、遺跡発掘のバイトを始める。ハードな肉体労働に、漫画のことなど考えられず、それでもなんだか、発掘の仕事が楽しくもあり、このままのほうが楽なような、いやいや、オレは漫画家だ……な迷走の日々を描く。掘り出したのは埋めておきたかった「自分」? これは読むブルースだ!

「元売れっ子漫画家」って、知らない人だな……代表作『レモンエンジェル』???遊人の新しいペンネームとか?
すみません、僕はわたべ淳さんのことを全然知りませんでした。
本屋で「表紙買い」してしまったこの漫画なのですが、正直、なんだか消化不良だな、という印象の作品でした。あの吾妻ひでおさんの『失踪日記』が大ヒットしたことによって、この作品もこうして世に出ることになったのだと思うのですが、

「実体験の凄さはもちろん、絵も含めた『漫画作品』として完成度が高く本当に面白い。できるだけ多くの人に読んでほしい、傑作だと思います」 とり・みき(漫画家)

と評された『失踪日記』に比べると、この『遺跡の人』は、「実体験の凄さとしてのインパクトはちょっと乏しく、『漫画作品』としての完成度はかなり低い」のではないかな、と。かなりムチャクチャやっているにもかかわらず、奥様をはじめとして周囲のサポートを得られている吾妻さんに比べると、生活のためにちゃんと頑張っているのにパートナーからは別居をつきつけられているわたべさんは、ある意味「より悲惨な状況」だと言えなくもないんですけどね。ただ、この作品では、その事実が単に陰鬱な雰囲気として流れているだけで、笑いに昇華されてもいないし、共感して泣けるほど切実でもないのです。たいへんだとは思うけど、自己陶酔的な苦労話にとどまってしまっているような……
こういう「遺跡掘り」という仕事があって、そこにいろんな人が集まってくるのだ、ということや肉体労働で日々の糧を得るということの悦びの描写など、面白いな、と思うところはたくさんなるんですけど、『失踪日記』の後発であるということが、この作品の印象をどうしても「二番煎じ」的なものにしているんですよね。
こういう「元漫画家」「漫画家志望だった人」って、けっこういるんじゃないかなあ、と思います。吾妻ひでおさんみたいに、ものすごく才能があって、とことんぶっ壊れてしまった人はあらためて再評価されるのに、わたべさんみたいに大きくドロップアウトしたわけでもなく挫折しながらも地道に日常を送っている人は「でも、あんまり面白くないんだよね……」と切り捨てられてしまう世界というのは、それはそれで理不尽であるような気もするんですけどねえ。


失踪日記

失踪日記

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