琥珀色の戯言

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【読書感想】ルポ 中国「潜入バイト」日記 ☆☆☆☆

ルポ 中国「潜入バイト」日記 (小学館新書)

ルポ 中国「潜入バイト」日記 (小学館新書)


Kindle版もあります。

ルポ 中国「潜入バイト」日記(小学館新書)

ルポ 中国「潜入バイト」日記(小学館新書)

内容(「BOOK」データベースより)
理解しがたい超大国・中国のリアルな姿を知りたい―そんな想いから、ジャーナリストの著者が現地に移住し、6年にわたって様々な「潜入アルバイト」を敢行。上海の寿司屋、反日ドラマ、パクリ遊園地、ホストクラブ、爆買いツアーのガイド等の職場に、ライターという身分を隠して潜り込んだ。彼らと同僚として働くことでわかった、日本人の知らない中国人の本質とは。渾身の潜入ルポ。


 「中国」に関する話題も、最近はけっこうみんな食傷気味、という感じもします。
 それは悪いことばかりじゃなくて、こちら側にとっては、その存在感に慣れてきた、という面もあるのではないでしょうか。
 「パクリ放題」とか「爆買い」のようなネガティブなイメージで報道されることも少なくなってきましたし。
(「爆買い」については、それをアテにしていた人たちにとっては、悲しむべきことかもしれません)


 著者は、日本のマスメディアによって切り取られたイメージではなく、現地で一緒に仕事をすることによって、「生身の中国人」を知ろうとしたのです。

 私は大学卒業後、地方新聞社で記者として働いた後、フリーライターに転じたが、日本で仕事が途切れたことがきっかけとなって中国に渡った。中国では中国人とルームシェアなどをしながら、主に週刊誌で現地の情報をレポートした。そのかたわら、日本人がいないようなディープな現場に身を置き、中国人とともに働くことで、もっと深く中国および中国人のことを知りたいと考えた。
 まずはじめに上海の寿司屋に潜入し、次に反日ドラマに日本兵役として出演。続いて山東省の田舎町にあるパクリ遊園地で七人の小人とともにパレードを踊り、さらに婚活パーティーで中国人の彼女を探した。最後に上海の高級ホストクラブに勤務したあと日本に帰国し、都内で爆買いツアーのガイドや中国人留学生の寮の管理人をやったりもした。


 上海市内に10数店舗あるチェーン店の寿司屋で、著者は寿司職人として働きはじめます。
 そこで、著者は、こんな光景を目にしたのです。

 一息ついたところで、キッチン内のメンバーに自己紹介した。20代前半の男性5人ほどと、洗い場は中年女性2人。日本の職場のような堅苦しさがなく、みんなフランクでいいやつだった。
 眼鏡をかけた先輩コックの横に並んで一緒にサラダを量産していたところ、ギョッとするような光景を目撃した。先輩はスプーンを使って手際よく缶詰のコーンを盛り付けていたのだが、手が滑ってスプーンを床に落っことした。だが、床から拾い上げるとスプーンの裏と表を一瞬じっと見つめ、汚れがないことを確認すると、そのまま缶のなかに戻して使い続けたのだ。
 中国人の感覚では、とにかく「視覚的に汚れが見えない状態」であれば問題ないと判断する傾向があるらしい。床に落ちても、目で見て汚れていなければ、洗う必要はないというわけだ。目で確認する暇があったら、水道で洗った方が良いと思うのだが……。目視点検するだけマシというべきか。
 サラダ用のレタスがなくなったのでどうしたら良いかと先輩に聞いたら、冷蔵庫から新しいものを出して洗ってちぎれと言われた。レタスを洗うのにボウルか何かを使うのかと思ったら、そうではない。先輩は洗い物用の薄汚れたシンクにいきなりレタスを2~3個放り込むと、蛇口を勢い良くひねって水をため、ジャブジャブと洗い始めた。水中で丸いレタスを両手で半分に引きちぎり、さらに細かく破砕している。せめて、シンクをたわしかスポンジで磨いてからにしてほしい。
 彼らはシンクに食べ物が触れても特に汚いとは思わないらしく、アサリのみそ汁のオーダーが入った際には、ゆでたアサリをシンク排水口(ストレーナー部分)に突っ込んで流水ですすいで洗っていた。粗雑に扱われる食材たちを、彼らは自分でも食べたいと思えるのだろうか。


 この本を読んでみると、中国の人たちは不衛生だ、というより、基本的な衛生観念が異なるのだ、と感じます。
 本当に「確認するより、サッと水洗いしたほうが、はるかに簡単だし安心」だと僕も思うのですが……
 上海のチェーン店、しかも、生ものを扱う寿司店でこういう状況なのだから、田舎や他の料理店も、推して知るべし。
 まあ、なんでも「抗菌」になってしまっている日本も、それはそれでやりすぎではないか、と思うところもあるんですけどね。


 あと、いまの中国というのは、労働者の流動性が高い社会で、それだけに「仕事を見つけやすく、辞めやすい」みたいです。

 せっかく慣れてきたところなのに心苦しかったが、この日の仕事終わったあと、店長に辞意を伝えた。
「すみません、ほかの仕事が見つかったので今日で最後にしたいのですが……」
 と少し緊張しながら伝えたところ、
「そうか、わかった。今までありがとう」
 と拍子抜けするほど淡々と言われた。中国人は頻繁に転職する傾向があるので、すぐに辞めてしまうスタッフなど珍しくもないのだろう。この日に限らず、一日の勤務が終わっても「お疲れ様でした」などの挨拶は一切なく、何となくバラバラと帰って行く。とことん個人主義なのだ。同僚たちには、引き止められたり今後について聞かれたりするのが面倒だったので、敢えて何も言わなかった。


 この本に書かれているかぎりでは、日本人が中国で働く、ということで、すごく差別的に扱われたことはなかったようです。
 そういう会社には、働く前に門前払いされているのかもしれないし、広い中国のことなので、上海のような都会と田舎とでは、全然違うのかもしれませんが。

 
 著者は、中国で婚活パーティーにも参加しているのですが、「日本人に対して、どういう反応をされるだろうか」と身構えていたのです。ところが……

 日本人はモテるのだろうか、それとも逆に反日感情で嫌われるだろうか、と気になっていたが、国籍を聞かれて、
「日本人です」
 と答えても、
「あっそう、中国語上手だね」
 という程度のものだった。プラスにもマイナスにも作用していないようで、日本人だからモテる、あるいは嫌われるということは特に感じなかった。ちょっと拍子抜けだ。
 後日、1990年代から上海に滞在しているという日本人男性に話を聞いたところ、
「90年代は外国人=お金持ちのイメージがあり、なかでも日本人地理的にもっとも身近な外国人だった。水商売の女性にとっては、日本人と結婚することに家族の運命がかかっており、日本人というだけでモテたのは事実。今ではすっかりそんなことはなくなりましたね」
 と話していた。この十数年間の間で、日本人=お金持ちのイメージは完全に崩壊してしまったようだ。


 それだけ、中国が豊かになった、ということなのでしょうし、日本が経済的に停滞しているのも事実です。
 ただ、それだけに、少なくとも都会や知識層では、あからさまな反日感情みたいなものは薄れてきているようにも感じられます。

 その後、中国の動画サイトで”問題作”として話題となった反日短編ドラマがある。中国でもヒットした日本のホラー映画『リング』の主人公、貞子を反日ドラマ仕立てに仕上げたパロディ作品だ。
 ドラマのなかでは、日本兵から奪ったフィルムを中国兵が再生すると、画面のなかから、あの貞子が出てくる。だが、中国人民の優しさに触れた貞子は次第に人間らしい心を取り戻し、中国共産党に入党。村の青年と愛し合うようになる。だが、そこへ日本軍が攻撃を仕掛け、村は全滅。復讐心に燃えた彼女は「人民の貞子」となって、日本軍に報復するというものだ。
 ワンパターンに凝り固まった従来の反日ドラマに対する、ある種風刺や諧謔も込められているのだろう。見ると、今までにない新世代らしいユーモアすら感じるのだが、中国共産党はこんな作品は許さなかった。動画は公開から間もなく削除され、中国国内ではもう見ることができなくなっている。


 日本人の僕にとっては、「なんなんだこれは……」と腹立たしくる「反日ドラマ」なのですが、中国のクリエイターたちにとっては、「反日というフォーマット」に従ってさえいれば、その枠内では比較的表現の自由度が高いみたいなのです。
 昔の日本のポルノ映画や海外のホラー映画のように、「キワモノ」であるからこそ、規制がゆるくて、やりやすい面もあるのです。


 いまの中国の熱量や中国人のしたたかさ、そして、もう、「日本人である、ということが良くも悪くも特別ではなくなりつつある」ことが伝わってくる本でした。
 中国というのはあまりに人が多くて広い国だから、「中国人はこうだ!」と言い切るのは難しいのだとしても。


なぜ中国人は財布を持たないのか

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