琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

2007年本屋大賞は『一瞬の風になれ』

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一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

「予想通り」ではあったのですが、2位が『夜は短し歩けよ乙女』で、しかも1位とかなりの接戦になっていたのは正直意外でした。うちのブログにもこの作品や森見登美彦さんがらみの検索で来られる方が多いな、という印象はあったのですが、ここまで高評価だとは。
1位と2位が抜けていて、そのあとに3位と4位が第二集団、そして残りは団子レース、という感じでしょうか。三浦しをんさんの『風が強く吹いている』の順位が高かったのが嬉しかったのと、伊坂幸太郎さんの根強い人気を再認識。
 しかし、『失われた町』『名もなき毒』の9位10位は、確かに分厚いしあまり読後感が良くない本とはいえ、予想外でした。審査員は、「いまさら宮部みゆきでもないだろ」とか思ってしまうのかなあ。書店員が「読みやすい本」「もう売れている本」ばっかり薦めるようなイベントになりつつあるのは、ちょっと悲しいです。「ライトノベル(的作品)優位」「残念直木賞化」してきている「本屋大賞」には、もう、書店の販促活動以上の意味はないのかもしれません。まあ、選ばれている本は、みんなそれなりには面白かったですけどね。

『一瞬の風になれ』 ☆☆☆☆

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-

一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

本屋大賞」受賞作。前評判+「1作で3冊売れる」ことから、大本命と予想していたのですが、最後は『夜は短し恋せよ乙女』とのマッチレースになったみたいです。この『100%のスポーツ、青春小説』と、『100%の軟弱、妄想系男子大学生小説』のマッチレースというのも、ある意味すごいものがありますけど。

 この『一瞬の風になれ』、本当に素晴らしい「スポーツ小説」であり「青春小説」なんですよね。「スポーツ」「青春」と極北の人生を歩んできた僕でも、ついつい引き込まれてしまうくらい素晴らしい作品です。ただ、高校生男子だった経験がある僕としては、「こんな美しい高校生男子がいるのか?」という違和感はあったのですけど。とくに主人公の神谷なんて、練習の虫で、女の子の趣味も地味と真面目キャラにもかかわらず、黄色く髪を染めていたりするのが、いかにも「ちょっと悪い子っぽいエッセンスを加えてみました」って感じがしてなんだかイヤだなあ。そもそも「どんなに練習してもめげない体力・精神力」っていうのが欠如しているから、みんな困っているわけで。
 いや、「スポーツ選手っていうのは、こんなふうに練習して『成長』していくのだな」ということがよくわかる、非常にリアルで爽やかな小説なんですよ。陸上部の練習って、「ただ走るだけなんじゃないの?」って思ってたけど、そんな簡単なものじゃないみたいだし。でも、帰宅部、文化系部を渡り歩いてきた僕にとっては、この「青春物語」は、眩しすぎるというか、「所詮、スポーツエリートの話じゃねえかよ……」という感じで、いまひとつのめりこめないところがありました。むしろ、僕が内心求めていたにもかかわらず自分には手が届かないものとして見ないようにしていた「青春」「スポーツが得意であることの素晴らしさ」をドン、といきなり目の前に置かれてしまったような哀しみがあるのです。たぶん、高校時代の僕には、この本、最後まで読めなかったと思います。

 というような個人的な愚痴を書き散らしたくなるほど「素晴らしい小説」なので、自分のスポーツマン人生に自信がある人には、ぜひオススメいたします。僕みたいなコンプレックスを抱えていない人間にとっては、本当に「最高の小説」だろうから。
 しかし、これって全3巻なのはちょっと企業努力足りなくないかなあ……せめて全2巻にはできたのでは……そのわりには最後も……
 まあ、善意に解釈すれば、佐藤多佳子さんは寡作だというのと、この「あえてここで終わる」ところこそが佐藤さんの持ち味だということなんでしょうけどね。

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