琥珀色の戯言

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『一瞬の風になれ』 ☆☆☆☆

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-

一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

本屋大賞」受賞作。前評判+「1作で3冊売れる」ことから、大本命と予想していたのですが、最後は『夜は短し恋せよ乙女』とのマッチレースになったみたいです。この『100%のスポーツ、青春小説』と、『100%の軟弱、妄想系男子大学生小説』のマッチレースというのも、ある意味すごいものがありますけど。

 この『一瞬の風になれ』、本当に素晴らしい「スポーツ小説」であり「青春小説」なんですよね。「スポーツ」「青春」と極北の人生を歩んできた僕でも、ついつい引き込まれてしまうくらい素晴らしい作品です。ただ、高校生男子だった経験がある僕としては、「こんな美しい高校生男子がいるのか?」という違和感はあったのですけど。とくに主人公の神谷なんて、練習の虫で、女の子の趣味も地味と真面目キャラにもかかわらず、黄色く髪を染めていたりするのが、いかにも「ちょっと悪い子っぽいエッセンスを加えてみました」って感じがしてなんだかイヤだなあ。そもそも「どんなに練習してもめげない体力・精神力」っていうのが欠如しているから、みんな困っているわけで。
 いや、「スポーツ選手っていうのは、こんなふうに練習して『成長』していくのだな」ということがよくわかる、非常にリアルで爽やかな小説なんですよ。陸上部の練習って、「ただ走るだけなんじゃないの?」って思ってたけど、そんな簡単なものじゃないみたいだし。でも、帰宅部、文化系部を渡り歩いてきた僕にとっては、この「青春物語」は、眩しすぎるというか、「所詮、スポーツエリートの話じゃねえかよ……」という感じで、いまひとつのめりこめないところがありました。むしろ、僕が内心求めていたにもかかわらず自分には手が届かないものとして見ないようにしていた「青春」「スポーツが得意であることの素晴らしさ」をドン、といきなり目の前に置かれてしまったような哀しみがあるのです。たぶん、高校時代の僕には、この本、最後まで読めなかったと思います。

 というような個人的な愚痴を書き散らしたくなるほど「素晴らしい小説」なので、自分のスポーツマン人生に自信がある人には、ぜひオススメいたします。僕みたいなコンプレックスを抱えていない人間にとっては、本当に「最高の小説」だろうから。
 しかし、これって全3巻なのはちょっと企業努力足りなくないかなあ……せめて全2巻にはできたのでは……そのわりには最後も……
 まあ、善意に解釈すれば、佐藤多佳子さんは寡作だというのと、この「あえてここで終わる」ところこそが佐藤さんの持ち味だということなんでしょうけどね。

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