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内容紹介
ある日、高校生の僕は病院で1冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それは、クラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていた。こうして、偶然にも【ただのクラスメイト】から【秘密を知るクラスメイト】となった僕。まるで自分とは正反対の彼女に、僕は徐々にひかれていった。だが、世界は病を患った彼女にさえ、平等に残酷な現実をつきつける――。全ての予想を裏切る結末まで、一気読み必至!
うーむ。
ひとことで言うと『陽だまりの彼女』系、とでも申しましょうか……
内向的で、本ばかり読んでおり、恋人どころか友だちもいない高校生の「僕」。
そんな僕が、病院で偶然出会ったクラスメイト、山内桜良にある「秘密」を明かされ……(というか、膵臓の病気で余命が少ない、という話なんですけどね。まあ、「内容紹介」にも書いてあるので、このくらいまでのネタバレはお許しを。作品でも序盤に出てきますし)
僕はこれを読みながら、「甘い、甘ったるい!こんな引きこもり男子向けファンタジーに、引っかかるもんか!どうせこの女(桜良)、なにかたくらんでるぞ!二股かけられてるとか……」(苦笑)
率直なところ、僕が高校時代にこれを読んでいたら、「本ばかり読んでる友だちいない男子をなめるな!こんな女の子、小説の中にしかいないよ!」と、イライラしまくって、最後まで読めなかったかもしれません。
でも、40過ぎのオッサンになってみて思うのは、「まあ、『実際にはいない、暗い男子に向こうから近づいて、引きずり回してくれる女の子』という夢を、読んでいるあいだだけでもみせて、僕みたいな灰色の学生時代を送ってきた人間に、擬似的なトキメキを感じさせるための小説っていうのも、それはそれで存在意義があるんだろうな」ということなんですよ。
そもそも、「ドラマチックな恋愛を学生時代に体験してきた人」なんて、現実にはそんなに多くの割合ではないはずだし。
それでも、僕たちには小説がある、ゲームがある、妄想がある。
いやまあ、いろいろ言いたいこともあるわけですよ。
そんなに膵臓悪いんだったら、焼肉とかデザートとかガンガン食うのはいかがなものか、とか、最後の終わりかたは、あまりに安直というか、御都合主義なのではないか、とか。
でもまあ、「猫が人になる小説」だって「あり」なのだし、これは「リアリズム文学」じゃないからなあ。
直木賞候補作であれば、故・渡辺淳一先生に「人間が描けていない」と言われそうですが、僕などは「人間なんて書かなくてもいいよ」とか、ときどき思います。
この小説だって、「引きこもり治療用の対話型治療ソフトの話じゃないか?」とか、ちょっと思いましたし。
率直に言うと、僕はこれを読みながら、「で、この『主人公の名前』がやたらと回りくどいのは、どんな仕掛けなんだ?」とか、「主人公は還暦オーバーなのでは……」とか、「本当に、『女』なのか?」とか、「叙述トリックセンサー」をフル稼働させていたのです。
これが『陽だまりの彼女』なのか、『イニシエーション・ラブ』なのか、それはあえて書きませんが、個人的には、「フォークボールを待っていたら、ど真ん中に直球が来て、『えっ?』と唖然としているうちに見逃し三振」みたいな感じでした。
ちょっとミステリっぽい本を読むたびに、「叙述トリックじゃないか?」と疑う習慣をやめたい。
しかしながら、こういうのって、一度身に付いてしまうと、なかなかやめられないのです。
これ本当は、「本ばかり読んでいて、人間と関わるのは鬱陶しいと思っている内向的な中高生」に読んでほしい作品ではあるんですよ。
僕がその時代に読んでいたら、「こんな都合のいい女の子なんているわけないだろ!」と憤っていたであろうことは、前述の通りなのですが、それでも、「コミットすること」へのきっかけになる人もいるだろうから。
個人的には、ああ、『ノルウェイの森』の主人公のワタナベ・トオルの高校時代って、こんな感じだったのかな、とか思いながら読みました。
ワタナベ君は、キズキ君とその恋人の直子さんという、ふたりの「友だち」がいたんですけどね。
そして、この主人公男子が、大学に入ったとたんに、永沢さんと一緒にナンパ師になったら、それはそれで感じ悪いけどさ。
大人になったら、「青春小説」なんて読まなくなる、と思っていたのだけれど、むしろ、自分には関係なくなったからこそ、娯楽として消化できるっていうのは、あるのでしょうね。
甲子園の高校野球とかも、高校時代は、観る気がしなかったものなあ、「同じ高校生なのに……」とか、我が身を振り返ってしまうのがイヤだったから。
- 作者: 越谷オサム
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