琥珀色の戯言

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【読書感想】VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを生む ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
VR(バーチャルリアリティ)は 新たなインターネット革命だ!


「オキュラス」「プレステVR」などゴーグル型端末の発売が相次ぐ2016年は「VR元年」と呼ばれる。なぜ人々はVRに熱狂するのか? これから登場するVRビジネスとは? 最前線で取材を続ける気鋭のジャーナリストによる渾身のレポート!


 で、「VR」って、一体何なの?
 この本のタイトルをAmazonで見たとき、僕はそう思ったのです。
 そうか、「VR」って、”Virtual Reality:バーチャルリアリティ”のことなんですね。
 この言葉、1990年代くらいに大流行したのを記憶している人も多いのではないでしょうか。
 僕が大好きなマンガ『コブラ』(寺沢武一)の第1回、海賊ギルドとの長年の闘いに疲れたコブラが、顔を変え、記憶を消して平凡なサラリーマンとして生活していたにもかかわらず、「バーチャルリアリティを駆使した夢(トリップムービー)」を観に行ったのをきっかけに、記憶が蘇る、というエピソードがありました。
 後日知ったのですが、映画『トータル・リコール』の原作となった、フィリップ・K・ディックの中編小説『追憶売ります』を元ネタにしていたんですね。
 

 個人的に「バーチャルリアリティ」に対して、「商業的な失敗」を予感せずにはいられないのは、あの任天堂の(負の)伝説のハード『バーチャルボーイ』の記憶も影響しているのです。
 あらためて確認してみたら、『バーチャルボーイ』って、1995年発売だったのか……もっと昔の話だと思ってた……

 
 率直に言うと、あれから20年経っても、僕はまだ「バーチャルリアリティなんて、バーチャルボーイみたいなもので、鳴り物入りで世に出ても、みんな喜ばないんじゃない?」と考えてしまうのです。
 バーチャルボーイのせいだけではないのかもしれませんが、日本の市場やゲームファンは、バーチャルリアリティへの期待値が低い気がするんですよね。
 しかしながら、著者は「今回は違う」ということを強調しています。

 いつからか2016年は「VR元年」と呼ばれるようになりました。
 なぜなら主要な「ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display:HMD)」が2016年にひと通り出そろうからです。頭からゴーグル型の端末をかぶる姿をテレビや新聞で見たことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
 ヘッドマウントディスプレイは、コンピュータグラフィクス(Computer Graphics:CG)や映像を目の前にあるかのように浮かび上がらせる「バーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR)」の技術です。ゴーグルで覆われた視界の目の前にディスプレイがあり、あたかもバーチャルな空間に自分が実在するように錯覚します。現実の光景にさまざまなデジタル情報を重ね合わせて表示する「拡張現実(Augmented Reality:AR)」と合わせて市場成長性に期待が集まっています。


 でも、そんなのは一部のマニアだけしか、買わないんじゃないの?
 僕もそう思います。
 ところが、グーグルやフェイスブックといった巨大IT企業たちは、このVRの将来に大きな期待を寄せており、多額の投資をしているのです。
 

 米国の著名な金融機関ゴールドマン・サックスは、VR・AR関連機器の市場規模が2025年に最大で1100億ドル(約12兆4000億円)にも達すると予測しています。この数字はテレビやノートパソコンの市場規模1000億ドル前後とまったくひけを取らない規模です。
 VR・ARの潜在的な可能性を知らない人にとっては、まったくピンと来ない話です。テレビやPCを超える市場規模になるなど、信じられない話でしょう。


 正直、僕も「信じられない」のですが、この新書を読んでいくと、VRが現在のテクノロジーの「最前線」として、多くの資源や優秀な人材が投入されているということがわかります。
 そして、いまのVRのレベルは「バーチャルボーイ」をはるかに凌駕している、ということも。
 2016年10月には、「プレイステーション4」用のVR対応ヘッドマウントディスプレイ「プレイステーションVR」の発売が予定されています。
 「プレイステーションVR」って、また物好きなものを出すもんだな、と僕は思っていたのですが、これを読んでいくと、「物好き」というよりは、「時代の流れの必然」が生んだ製品のように感じられます。
 
 だからといって、娯楽にそこまでの「リアリティ」が必要なのだろうか、とも考えてしまうのですが(あの頭につけるやつは、邪魔で疲れそうだし)、VRは娯楽だけではなくて、これからの人間の生活を変えていく可能性があるのです。


 著者は、「FOVE(視線追求型のVRゴーグル)」を開発しているフォーブ社CEOの小島由香さんに取材し、自身でも体験した「FOVE」の使用感をこんなふうに紹介しています。

 デモとして用意されていたのは、近づいてくる敵インベーダーを撃ち落とすゲーム「FOVEシューティング」でした。まず、FOVEをかぶり、事前に私の目の動きを登録してから、ゲームを開始します。ゲームコントローラーといった追加機能を使うことなく、インベーダーと視線を合わせると、目からビームが自動で発せられ相手を破壊できるというシンプルな仕組みで、二分間で倒せた数を競います。
 実際に体験してみると、FOVEのアイトラッキングセンサーの性能はなかなかのものです。一度設定すると、眼球を少し動かすだけで、正確に次々と照準を合わせることができ、快適にゲームプレーをすることができました。ゲームコントローラーでは、ここまで正確に命中させることはむずかしいでしょう。


 すごいな、僕も一度やってみたい!
 ただ、これが「ゲームとして面白い」かどうか、あるいは、「ずっと遊び続けられるゲーム」かどうかは、ちょっと微妙な感じもします。
 そのあたりは、これからの課題ということになるのでしょう。


 重要なのは、VRの可能性は「ゲーム」にとどまらない、ということです。

 小島氏は、「アイトラッキングでコミュニケーションに新しい広がりを与えることができる」と考えています。FOVEを開発する途中で行った試みから、そう感じるようになってきたそうです。
 彼女は、新潟大学と共同の試みとして難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者にFOVEを試用してもらいました。ALSはだんだんと全身の筋肉が動かせなくなっていきますが、状態が悪化した人でも脳はしっかりしており、眼球は最後まで動かすことができます。これまで症状が悪化した人とのコミュニケーションは、まばたきをした回数でイエスかノーかを判断したり、患者に文字盤を指で指し示してもらい、意思を確認する方法しかありませんでした。しかし、FOVEの場合は、ゴーグル内にバーチャルの文字盤を用意することができ、目線で文字を入力できるために、はるかに楽にコミュニケーションが可能になるのです。

 そうか、こういう使い方もできるのか。
 その他にも、「バーチャル住宅展示場」や「バーチャル結婚式場」のような「空間を体験する」ことにも利用されつつありますし、近い将来、2020年のオリンピックでは、家に居ながらにして「観客席にいるような臨場感」を味わえるのではないか、と期待されているそうです。
 「ゲーム」というのは、バーチャルリアリティの可能性のひとつでしかない。


 著者は、エピックゲームズの創業者で社長のティム・スウィーニーさんが、2015年10月にアメリカで行われたカンファレンスでVRについて語った言葉を紹介しています。

 今は驚くべき移行の時期です。私の最初のコンピュータは(1978年に発売が始まった)アップル2でしたが、私のポケットの中にはそのPCよりも10万倍以上速いスマートフォンが入っています。しかし、私たちの大半はまだ25年前と同じパラダイムで使っています。小型化は進んでいるとはいっても、いまだにスクリーンを使い、いまだ使いにくいキーボードを使っています。私たちはまだ古いスタイルのコンピューティングのパラダイムのままでいるのです。次の10年に私たちは、コンピュータの扱い方に関して、かつて経験したことのない大きな進歩を見ることになるでしょう。


 著者は「VRが引き起こす変化の本質は、機械と人間とのやり取りの在り方を変えるユーザーインターフェイス革命である」と述べています。
 マウスやタッチパネルなど、ユーザーインターフェイスは改良されてきたものの、結局のところ、手で操作したものが、「スクリーン」に映る、というのは不変だったのです(一部の例外はあるにせよ)。
 VRによって、もっと直感的な操作が可能となり、まるでコンピュータが自分の一部であるかのようになっていく。思ったことや身体の自然な反応が、コンピュータに即座に反映されるようになる。
 タッチパネルや音声入力で袋小路に入ってしまったかのようにみえる「ユーザーインターフェイス」は、こういう形で劇的に変化しようとしているのですね。
 これまでのインターフェイスに慣れ過ぎてしまった僕には、使いやすい、と思えないかもしれないけれど。


バーチャルボーイ (本体) 【バーチャルボーイ】

バーチャルボーイ (本体) 【バーチャルボーイ】

 

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