琥珀色の戯言

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【読書感想】行動経済学まんが ヘンテコノミクス ☆☆☆☆

行動経済学まんが ヘンテコノミクス

行動経済学まんが ヘンテコノミクス

内容紹介
人は、なぜそれを買うのか。
安いから? 質がいいから?
否。そんなまっとうな理由だけで、人は行動しない。
そこには、より人間的で、深い原理が横たわっている。
この本には、その原理が描かれている。
漫画という娯楽の形を借りながら。


雑誌「BRUTUS」の人気マンガ連載「ヘンテコノミクス」が
ついに単行本化!
いま最も注目されている学問「行動経済学」の理論が
サザエさん並みに楽しく学べる唯一無二の一冊です!


人間の経済行動の真実とその理論が
なんと漫画になってあなたに迫る!


 「行動経済学」という学問を、ご存知でしょうか?
 人間というのは、自覚しているよりもずっと、理不尽というか、経済的に「割に合わない」行動をとっているものみたいなんですよ。
 最近でいえば、ソフトバンク吉野家の『スーパーフライデー』なんて、牛丼1杯のために1時間も並んだり、寄り道をしたり、というのは、手間やその時間に他の有意義なことをやることを考えれば、大部分の人にとっては、けっして「お得」ではないはずです。
 車で行けばガソリン代もかかるし。
 自分でクーポンや商品をもらいにいくよりも、牛丼4杯分、いや、2杯分くらいでもいいから、ソフトバンク利用者の、その月の携帯電話料金を安くしてくれたほうが、よっぽど「お得」なはず。
 でも、多くの人は、「携帯電話料金500円値引き」よりも、自分が出かけて並ばなければならない、「1週間に牛丼1杯」のほうに魅力を感じてしまうのです。
 本当に、不思議なものですよね。


fujipon.hatenablog.com


 自分が「合理的」「経済観念がある」と思っている人でも、思い込みやプライド、他との比較による感覚の麻痺などで、少なからず「不合理な経済行動」をしているのです。

行動経済学【behavioral economics】とは
 いままでの経済学は、「人間は必ずしも合理的な経済行動をするもの」という前提で構築されてきました。
 ところが普段の私たちは、それでは説明できない非合理なふるまいを多くしています。
 行動経済学とは、従来の経済学では説明しきれない人間の経済行動を人間の心理という視点から解明しようとする新しい学問です。


 原作者の佐藤雅彦さんは、電通のCMプランナーとして湖池屋の「ポリンキー」「スコーン」やNECの「バサールでござーる」を担当し、1997年にはプレイステーションのゲーム『I.Q インテリジェントキューブ』を発表、、『ピタゴラスイッチ』の監修者としても知られています。


 2000年には、竹中平蔵さんとの共著で、『経済ってそういうことだったのか会議』という本を上梓されています。
 「経済という、難しいと敬遠されがちなものを、多くの人にわかりやすく伝えるのには、どうすればいいか」というのをずっと考えてきた人なんですよね。



 経済というのは、ふつうの人間の生活にも大きく関わっている大事なことなのに、なんだかよくわからない、予想もつかない、と敬遠されがちです。
 そんな経済のなかの「行動経済学」について、マンガでわかりやすく読者に伝える、という目的で、この『ヘンテコミクス』は、『BRUTUS』に連載されました。

 
 このマンガを読んでいると、僕は、赤塚不二夫先生の「学習まんが」を思い出します。『ニャロメのおもしろ数学教室』とか、けっこうヒットしていました。
 著者は『サザエさん』を意識していたそうですが、なんというか、昭和テイストの味わいのある絵なんですよねこれ。いまの若い人がみたら、かえって新鮮ではなかろうか。


 「行動経済学」って、難しそうな言葉ではあるのですが、この本を読んでみると「ああ、そういうことって、あるある」と頷いてしまう事例ばかりです。

「先生、その手術はどのくらい危険なのでしょうか?」
「うーむ、私の経験から言うと、20%くらいは助からないかもしれない」
「死亡率高いんですね…」


「お父さん、お父さん」
「手術をした方が、どうやらよさそうだよ」
「それで手術の見込みは?」
「大丈夫だよ、成功率が80%だから」
「よし、じゃあがんばってみるか」


 「死亡率20%」と「成功率80%」は、同じことなのですが、言い方を変えるだけで、相手に異なる印象を与える場合があるのです。これを「フレーミング効果」と呼ぶそうです。
 ああ、自分もこういうのを意図的に、ときには無意識に使っているなあ、と感じた人は多いはず。
 この本を読むと、「行動経済学」について知ることと同時に、こういうテクニックを駆使して、他人を操ろうという人がいることへの心の準備ができるというメリットがあるんですよね。
 

 人間の「選択」というのは、けっこう曖昧というかイメージに左右されやすい、ということが、この本を読むとよくわかります。

 私たちには、複数の情報を順番に提示された時に、後に提示された方を印象強く評価してしまう「新近効果」と呼ばれる心理現象があります。


 そのため、同じ情報でもネガティブなことを最後に言うと相手はネガティブな印象を持ち、ポジティブなことを最後に言うと相手はポジティブな印象を抱く傾向があります。


 「でも」とか「ですが」とか、最後につい、「逆説の接続詞」を使ってしまう人は、それに注意するだけでも、他者に与える印象はだいぶ違ってくるみたいです。
 「どうしても一言いいたくなる」のだとしても、その「一言」は最初に言っておいて、ポジティブな言葉で締めるだけで、相手の好感度は変わってきます。
 この本のなかでは、「おいしいけど高い」と、「高いけどおいしい」が比較されているのですが、たしかに、後者のほうが、後味は良いですよね。


 また、人は選択肢の「真ん中」を選びがちなので、「選択肢を増やす」ことで、ある程度選択を変えることができる、という話も紹介されています。

 1500円のランチと1000円の2種類のランチだったら、「1000円のほうで十分」と思う人が多いけれど、その上に2000円のランチが加わると、1500円のランチを選ぶ人が増えるのだとか。
 こんな高いの、誰が頼むのだろう?というようなメニューは、もしかしたら、「真ん中を売るためのもの」なのかもしれません。
 また、ホームベーカリーが開発された際に、なかなか売り上げが伸びずに悩んでいたメーカーがとった「自分で競争相手を作る」手法も紹介されています。

「欲しいんだけど何か買えない」と思われていた新商品のホームベーカリーでしたが、上位機種を発売し、1種類だった商品を群にすることで、人々に「世の中で一定の評価を得ているカテゴリーである」と思わせることができました。


 その結果ホームベーカリーは、人々にとって「買うか買わないか」という対象から、「どちらを買おうか」という対象に変化したため、見事大ヒットとなりました。


 同じ商品でも、見方、見せ方によって、購買行動は大きく変わってくるのです。
 

 知っていたからといって、特売とか「限定品」とか「真ん中をとって竹定食で」っていうような行動が、すぐに変わることはないとは思うんですよ。
 それでも、ものすごく酷い目に遭わないためには、この本に描かれていることくらいは、一度は頭に入れておいて、損はしないはずです。
 この本を読むと、AIが「賢くなる」よりも、「人間らしくなる」ほうが、ずっと難しそうだな、という感じがしてくるのです。


新しい分かり方

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