なんで、その価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」 (PHP新書)
- 作者: 永井孝尚
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2018/11/17
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
なんで、その価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」 (PHP新書)
- 作者: 永井孝尚
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2018/11/28
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
値下げしたのに儲かり、値上げしたのに爆売れする。本書は、その驚きのカラクリを行動経済学とマーケティング理論で解き明かす。ニトリ、激安の行列ミシュランレストラン、洋服の定額借り放題サービスetc。売れる値づけの裏には「ついお金を払いたくなる」仕掛けが存在する。売れなかったモノが売れるようになり、場当たり的に値下げ・値上げをしなくとも良くなる…そのために必要なのは、人の心を動かすメカニズムを知ることだ。マーケティング戦略をわかりやすく解説してくれることで定評のあるベストセラー著者がしるす、売上に悩むすべての人に役立つ1冊。
ものの値段、というのは、安ければいい、と思いがちなのですが、あまりにも相場より安いと、「なにかいわくつきのものではないのか?」などと、買う側としては勘ぐってしまう面もあるのです。
だからといって、値段と品質は、必ずしも比例するものではない。
高級店で産地偽装が行われていることもあるし、ブランド品から、ロゴが外れるだけで、大きく値が下がることもあります。
安いものはそれなり、高いものは品質が良い、というスッキリした値付けになっているとはかぎらないから、買い物というのは面白くもあり、悩ましくもあるのです。
そもそも、ある商品やサービスに対して、受け手がどのくらいの価値を感じるか、というのは、個人差が大きいわけですし。
本書を書いた理由は、価格戦略の大切さが、あまりにも知られていないからだ。
ビジネスの現場で、私はこんな言葉を何回も聞いてきた。
「売れないなぁ、値下げしようか」
「儲からないなぁ、値上げするか」
こんなことをしたら、長い目で見るとほぼ間違いなく、ますます売れなくなる。
「売れないから」と値下げして、一時的に売れても、そのうち売れなくなる。
「儲からないから」というだけの理由で値上げしても、お客さんは離れていく。
しかし「価格戦略」というと何やら難しそうで、多くの人は食わず嫌いなのが現実だ。
いつも「もったいないなぁ」と思う。
というのも、価格戦略の考え方は、役立つし、何よりも面白いからだ。
そこで誰でも価格戦略の考え方を理解できるようにまとめたのがこの本だ。
読み始めれば、楽しみながら一気に最後まで読み通せるように書いた。面白さと、最新のマーケティング戦略理論や行動経済学の本格的な知識を両立できるよう努めている。
とはいえ、読んでみて痛感するのは「価格戦略」というのは、一筋縄でいくものではない、ということなんですよね。まあ、そんなに簡単な話なら、大手アパレルや牛丼店が「値上げ」で売上が落ちて困ることもないわけで。売る側の思惑通りに消費者が動いてくれないことも多々あるのです。
人は、理性よりも感情や感覚でものを買う。
ある大学の先生が、同じ牛乳パックの価格をスーパーA店とB店で変えて2年間販売した結果を分析してみた。
A店は2日に一度の割合で、198円以下で特売した。結果、売上の9割が特売価格の198円以下だった。
B店は、2年間のうち8割の日を228円の通常価格で販売した。結果、売上の8割が通常価格だった。
お客さんは、「A店の牛乳パックは198円」、「B店の牛乳パックは228円」と認識するようになったのである。「安売り」をアピールすると、お客さんは安い価格が当たり前になり、安い価格でしか売れなくなるということだ。
ではなぜ安売りすると、安い価格でしか売れなくなるのか。
たとえば、モリさんとハラさんが同じ月給としよう。
モリさんは、今年も来年も、給料が変わらない。
ハラさんは、今年は月給が1万円増えて、来年は1万円下がったとする。
来年の時点で二人は同じ給料なのだが、損失感を感じるのはハラさんだ。
人は月給がアップすると嬉しくなり、月給がダウンすると悲しくなる。
これは当たり前すぎるほど当たり前なことだ。私もボーナスが上がった時は少し嬉しかった。しかし下がった時は、それ以上にものすごくショックだった。
ハラさんも同じで、1万円増える喜びよりも、1万円減る損失感の方がショックは大きいのである。
このように人は同じ金額でも、得するという「お得感」よりも、損するという「損失感」の方を、より強く感じてしまう。
これが行動経済学の「プロスペクト理論」だ。アンカリング効果と同じく、カーネマンが提唱したものだ。
同じ1万円でも、その金額を得したときの喜びよりも、損したときの悲しみのほうが強い、というのは、僕にもわかります。
にもかかわらず、人はギャンブルにハマったり、衝動買いをしてしまうものなのです。
一度値下げをすると、そのときには「安く買うことができた!」と嬉しくなっても、すぐにその安売りの値段が消費者にとっての「当たり前」になってしまって、定価で買うと「損した気分」になるから、なかなか手を出してくれなくなるんですね。
とはいえ、放っておいても売れないものは売れない、という現実はあるわけで、とりあえず値下げして、今の在庫だけでも、とか、試してもらって、また利用してもらうきっかけになれば、と考えるのもよくわかるのです。
結局のところ、価格戦略が通用するのは「それなりの品質とニーズがあり、売れる可能性を持っているもの」に限られるのかもしれません。
著者は、会員制で固定料金を取るビジネス(サブスクリプションモデル)の広がりについて、こんな説明をしています。
2015年、アパレルメーカーのストライプインターナショナルは、「メチャカリ」という月額5800円の服借り放題のサービスを始めた。自社の新品を一度に3点まで借りられるし、60日間借りっぱなしだと、借りた服はそのままもらえる。
当初、周囲は誰もが「自社の服が売れなくなるぞ」と反対したという。
しかし実際にやってみたら、自社の店舗やネット販売との共食いはなかった。
登録者の2/3は、それまで接点がなかった新規顧客だったのである。
初めは「大好きな服を使いまくる人たち」を想定していたが、実際には「服選びが面倒くさい人たち」にウケた。まさに冒頭の女性編集者である。
意外だったのはメチャカリで服を次々と借り、気に入ったら服を買い取る人が結構いたこと。半年で15万円使う人もいたという。「定額試着サービス」として使っているのだ。
メチャカリでは新品を貸し出しているが、ユーザーから返却された服はクリーニングした上で、中古として再販売している。新品の服を販売し、服のレンタルで定額サービスを行い、さらに中古の服を販売している。この仕組みは、新車、レンタカー、中古車という販売チャネルを複数持つ自動車会社を参考にしたという。
月額400円で雑誌読み放題のdマガジンは、登録ユーザーは363万人で、年間売上は174億円だ(※2017年3月時点)。雑誌を買わずに立ち読みで済ませるライトユーザーを狙ったため、紙版の雑誌とdマガジン読者の重なりは小さい。雑誌から見ると読者数を1.6倍に増やす効果があり、むしろ雑誌広告効果が上がったという。
さらに売上は、読まれたページ数に応じ各出版社に分配される。
いまやdマガジンは、雑誌出版社にとってなくてはならない媒体あっている。
dマガジンは定額サービスを始めることで、「本の立ち読み」を新たな収入源にしたのである。
僕も服選びはめんどくさい、と常々思っているので、この「メチャカリ」の話には頷けます。服を売る側の人たちは、基本的に、「服が好きで、ファッションに興味がある人」を想定して商売をしているはず。でも、世の中には、「服選びはめんどくさいけど、服を着ないで生活するわけにはいかないんだよな……」という人が少なからずいるわけです。めんどくさいからといって、他者から「おかしな恰好をしている」とは思われたくないし……
もうすでに新規顧客は開拓されつくしている、と思われるようなジャンルでも、案外、見過ごされてしまっている人たちはいるのです。
dマガジンも、「この月額でこんなに読めるなんて、雑誌社は大損なんじゃない?」と思って登録したのですが、正直、月額分ほど読めてもいないんですよね。雑誌側にとっても、多くの人の目に触れることによって、企業からの広告が得やすいというメリットがあるのです。
こうして考えてみると、「それで儲かるの?」という商売も、ちゃんと続いている以上、稼げる仕組みがどこかに組み込まれている、ということなんですよね。
売る側の立場からの「値段のつけかた」を知るというのは、買う側にとっても大いに参考になると思います。
予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
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